意味のないことはしたくない――湯冷めラジオがひずんだサウンドスケープで灯す祈り
◆4人のテイストが入った「あの日、第4学舎3201教室にて」
――「あの日、第4学舎3201教室にて」はポップな歌ものとして着地していて、前述2曲とはまた異なる魅力を放っています。春に似合う、ノスタルジックなムードで。
緋乃 YouTubeショートやTikTokとかでも、いちばんいい反応を頂けている曲ですね。スタジオに入ったとき「重い曲が多いからちょっと軽いのやってみようか」と軽く弾いたギターにみんながその場のノリで合わせてくれて、それがすごく良かったので「今のめっちゃいいから録音しておこう！」って。それを元に広げていきました。その最初弾いたギターが、そのままこの曲のリフになっています。
五木田 「残照」と「EMDR」とは違って、「あの日、第4学舎3201教室にて」はスタジオのノリがベースになっているから、4人のテイストが入ってるよね。だから先の2曲とは自然と趣向が変わったというか、雰囲気が違うのかも。
緋乃 『灯芯 e.p.』の3曲は自分の中のちょうど中心にある自分の思い出を曲にしているんですよね。「ろうそく」という昔から存在するものをモチーフにした言葉を使っているのも、長く使われているけれどいつ消えていくかわからないもの、お墓参りや神棚に使われるものだからなんです。バンド名は語感がいいものをみんなで持ち寄ってくっつけただけで意味がないんですけど（笑）、それ以外は一つひとつちゃんと意味を込めています。
――とはいえ「湯冷め」というワードも心地よさがゆるやかに冷える言葉なので、なんだかんだ音楽性につながっている気がします。
緋乃 メンバーの誰かが「みんな常に湯冷めしてる、だらっとした感じがする」って言ってたよね（笑）。
五木田 まあ自分たちが惹かれる言葉を選んだら、自分たちの雰囲気に近い言葉になっていくのかな（笑）。でも「湯冷めラジオ」に意味はないです（笑）。
――どうやら今後もちかぢかリリースが決定しているそうですね。
五木田 また大野さんと一緒にレコーディングをしています。『灯芯 e.p.』の3曲をプロの手によって音源をトリートメントしてもらえたことで、音楽としての価値がぐんと上がるといううれしさを経験してしまったので、もっともっと試したいという気持ちが大きくなっています。ライブでないと得られない感覚があるのと同じように、自分たちの作品がパッケージされる、永遠に変わることなく存在するというのもすごくうれしいんです。
緋乃 「残照」を出した段階から海外のリスナーさんがすごく多くて、海を越えて、自分たちの音楽が誰かに届いていることがとてもうれしいです。自分たちのやりたいビジョンに踏み出せている。まだまだリリースも控えていますし、今年はライブもしたいと思っていますね。
――緋乃さんがバンドを組もうと動き出して1年も経たないうちにここまで進むのは、とても不思議だなと思うと同時に、それが成し遂げられるのはやはりずっとどこかぼんやりと、ご自身の感性や思想を音楽としてアウトプットしたいという欲求があったからなのではないかとも思いました。
緋乃 でもまさか自分が曲を作れるなんて思ってなかったんですよ。でもバンドをやるしかないとなったら曲を作らざるを得なくて、やってみたら意外とできたっていう。だからみなさん多分作ろうと思えば作れるんですよ。
五木田 いや、ゼロイチは難しいって（笑）。だから彼女はバンドに向いていたんでしょうね。彼女が全部入念に準備をして、セルフマネジメント的な感じでバンドを引っ張ってくれているのでいつも助かっています。
緋乃 そんなそんな、メンバーみんながいてくれるからバンドができるのであって、この人たちがいないとわたしは何もできないんです……。見捨てられないようにバンドを頑張って動かしてます。
五木田 こういうとこが暗いんだよ（笑）。メンバーで共有しているDropboxに定期的に弾き語りを入れてくれるのも、本当にいっつも申し訳なさそうなんですよ。もっと自信持ってほしいです（笑）。
緋乃 あははは。『灯芯 e.p.』も1曲はメンバー4人でスタジオで合わせたことがきっかけで生まれたように、これからは作り方も増やしたいし、いろんなことを楽しくやっていきたい。バンドの中にもっともっと「楽しい」を増やしていきたいですね。（了）
◆Release Information
2023.3.22 on sale
1st ep『灯芯 e.p.』
[Track List]
01. 残照
02. EMDR
03. あの日、第4学舎3201教室にて
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