16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第19回~胸を張って生きたい

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第19回 胸を張って生きたい

 

[1]心に引っかかっているもの

音楽を続けている理由ってなんでしょうか。楽しいから、自己表現したいから、稼ぎたいから(今どきバンドはコスパが悪くて稼げません! 悪しからず!)、色々あると思いますが、僕の中で音楽を続ける理由の一つにあるのは「胸を張って生きたい」からです。

胸を張って生きる。それは、誰に対してでしょうか。僕の場合は「大学院で出会った人たち」です。音楽とは関係がありません。なんだって。

意外かもしれませんが、僕は「大学院で出会った人たちに対して胸を張って生きたい」から、音楽を続けているんです。勿論、それは音楽を続ける理由の全てではなく幾つかの内の一つですが、心に占める割合は、不思議なものでそれなりに大きいのです。

なんでそんな複雑怪奇な心の動きをしているのか。僕の心に引っかかっているものを解き明かしながら、いまだにライブハウスに惹きつけられている引力の正体を見てみましょう。

 

[2]邪な進学

僕が大学院への進学を志したのは、純粋なものではありませんでした。高校生の頃、文化祭にインディーズバンドが沢山来るのが名物だった大阪市立大学に憧れを抱き、音楽を謳歌するキャンパスライフを想像して勉強していました。しかし学力が足りず、前期試験に落ちてしまいました。(得意教科だった現代文の問題で、よりによって唯一苦手な作家さんが取り上げられていて絶望しました)

絶望のなか、世界史の先生が「ついでに受けといたらいいんちゃう?」と話してくれて、なんとなく後期試験で出願していた大阪府立大学の試験が最後に控えていました。想像していたキャンパスライフではないし、当時は失礼ながら思い入れのない大学だったので、半ばやけくそで小論文を書いたら合格してしまい、進学することになりました。

なんとか大学に進学したものの勉強面ではやりたいことなんてなく、なんとなく第二外国語でドイツ語を選び、たまたまドイツ史の先生に出会い、途中まではそれなりにやっていました。それなりにです。

一方で軽音サークルに入り、Emu sickSというオリジナルバンドを組んで活動していた僕は、社会人になりたいとは全く思っておらず、なるべく長く学生を続けたいと考えていました。そして、学生を長く続けるための最も合理的な理由として「大学院に進学する」というそれっぽい言い訳に辿り着いたのでした。

ドイツ史の先生に大学院に行きたいと話すと、「大学院に進学したいなら、本気の大学院に行きなさい」と言われ、成り行きで京都大学大学院を受験することになりました。まぁ、合格したら親も納得するし、いいか、という気持ちでした。

しかしながらいざ受験してみると、筆記試験はボロボロ、面接試験は教授達から論文の指摘を受けまくりサンドバッグ状態、半泣きで不合格を確信し、その日のうちにバイトで貯めた入学金を切り崩し、自分へのご褒美に高い財布を買いました。合格していました。

 

[3]心の濁り

こうして京大の大学院生!という大手を振って、肩で風を切っても許される大義名分を獲得し、学生生活の延長というモラトリアムを謳歌することになりました。勿論そんな邪な理由は隠して、できる限り頑張っていましたが。

西洋史学研究室の同期は五人。全体では研究室に数十人程度出入りしていましたが、比較的小さなコミュニティでした。同期の一人はベーシストで、暇を見つけてはたまに二人でスタジオに入ったり、お互いオススメの音楽を紹介しあったり、時にはライブに来てくれたりもしました。

しかしながら大学院生の本分は「学業」「研究」です。研究漬けの毎日に、バンドもバイトも目一杯していた僕は、あっという間についていけなくなりました。邪な気持ちを携えた学生には、当然の帰結です。

一方で僕以外の研究室の方々、特に同期のみんなは目覚ましく、逞しく、自らの研究に没頭し、突き進んでいました。側からみると、徐々に「プロ」として研ぎ澄まされていく同期の様子に、誇らしくもあり、若干の恐怖もあり、同時に自分の中途半端さへの苛立ちが湧いていました。

そうこうしているうちに一年が過ぎ、僕は博士課程への更なる進学を諦めました。諦めるといえば聞こえはいいですが、実際は「圧倒的に実力が足りない」から、「進めないのは目に見えているから」でした。教授にそれとなく引導を渡され、不戦敗、窓際族のように自主的に追い出された、というのが正しいかもしれません。そしてその実力の足りなさを痛感させてくれたのは、研究室の同期のみんなでした。

そして僕は心に濁りを残して、二年間の大学院生活を終わらせたのでした。

 

[4]飲みに行ったあの日

「研究者」というのは、常に世の中に晒されます。同期の名前を検索すると、どんな論文を発表し、どんな本を書き、どんな場所で研究をし、助成金を受け、今どうしているかが経歴としてすぐに出てきます。

同期の頑張りが更新されるたびに、嬉しい気持ちと並行して、「自分は中途半端だ」という気持ちが膨らむばかりでした。同期が頑張っている間に、僕は酔っ払って前歯を二本折り、バンドも活休し、ブラック企業に迷い込み、明日を生きるお金もない日々を過ごしていました。蟻地獄にハマってしまったような毎日でした。

大学院を修了した数年後、同期だったベーシストの彼と飲む機会がありました。彼はオランダで研究をしていましたが、合間に日本に帰国する瞬間があり、運よく会うことができました。

お酒を飲みながら、彼は研究の色んなことを教えてくれました。自分で獲得したキラキラした茨道を巧みに歩んでいる姿がとても眩しいものに見えました。一方で僕はバンドは続けていたものの、情けない気持ちがあり、かろうじて鈍く光っているにすぎないように感じました。

お互い酔っ払って、最後には「漫才師の金属バットみたいに、お互い尖って貫いていこうね!」という謎の話に帰着して別れました。それからタイミングが合わず、もう何年も同期とは会っていません。

 

[5]胸を張って生きるために

僕には、同期と飲んだその数時間が救いでした。あの時の惨めな気持ちが楔のように心に刺さり続けています。あの日から、「尖って貫き通して、大学院の頃に出会ったみんなに対して胸を張って生きたい」と誓ったのです。

胸を張って生きるためには、どれだけボロボロになってもドラムを続けないといけない。バンドを楽しむ、表現を続ける、これしかなかったのです。そうすることが、大学院時代の中途半端な自分へのリベンジ、弔い、超克、成仏、なのかもしれませんし、そういった姿でいつでもいることが、大学院の頃に出会った方々にいつでも胸を張って会える条件だったのです。たとえそれは、会わなくても。

同期の多くは今も研究の第一線で、人類の積み上げてきた叡知という財産をさらに積み上げ続けています。僕は、同期の名前を検索しては情報が更新されているのを見つけて、「あぁ、すごいなぁ。頑張ってるなぁ!」と思います。

一方で僕自身も、かなり胸を張って生きているという自負が芽生えてきました。以前までは、そういった同期の活躍を見ては自分がどんどん矮小化されていくのを感じていましたが、今は違います。貫いてきた年月が自分を奮い立たせます。

今は胸を張って生きるために貫いてきたことに、自分なりの実りを感じて日々を過ごしています。もう、ベーシストの彼と会ったのは7〜8年前かな。それ以来、大学院との人とは誰とも会っていませんが、「胸を張って生きている」という自負が、こうしてまたライブハウスへ向かう歩みへと変換されているのです。

あの大学院の日々がなければ、僕は今もこうして音楽を続けていないのかもしれません。変わった因果や引力が、今の自分を形作っているのです。普通なら結びつかない物事が、不思議な形で絡まっていることが、みなさんにもあるかもしれませんね。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

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2025.09.21(日)大阪 寺田町Fireloop
16ビートはやおpresents.「すごいビート」
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