歓喜が生み出す「ポップな歌と破滅的な演奏」 ガストバーナーが切り開く独自の運命
◆「これだ!」って掴んだ感覚があった。ただただ自分を出せばいいんだと気付いたんです
――加納さんが先ほど「バンドになったと感じた」とおっしゃっていたり、みんながどんどん極限まで力を出すようになっていたり、やはりそれはお客さんの前でライブをやってきたからですよね。
はるきち ああ、それはでかそうですね。ガストバーナーはコロナ禍に入ってから組んだから、みそっかすの時とライブをやる感覚がなおさら全然違うんですよ。去年の11月にライブハウスでライブをやるようになって、そこでみんな一気にスイッチ入った感覚があります。でも最初は、ライブをクールにやろうとしてたんですよ。僕としては真空ホロウくらい世界観出していくつもりで
――ええええー!? そうだったんですか!?
加納 僕もはるきちさんほどではないけど、ガストバーナーという新しいバンドで動き出すんだから、これまで自分になかったシューゲイザースタイルで戦っていくつもりで。THE NOVEMBERSみたいなギタースタイルで行こうと思ってました。でも無理でした(笑)。そもそもそんなギタリストじゃなかった!(笑)
マイケル はるきさんはすげえかっこつけてたし、はやおくんだけがパンクで、最初のうちは「16ビートはやおのバンドだな」と思いながら観てました。でもクールにキメてるのも、それはそれで良かったんですけどね。僕もLACCO TOWERみたいなクールな曲だったり、おしゃれでスマートなライブをするような、自分が持ってないものを持っているバンドに憧れたりするから気持ちはわかるんです。
ガストバーナー『Happy』(2020)
はるきち ライブをやっていくうちにそれぞれが持っている個性が出始めてきて、「これはTHE NOVEMBERSでも真空ホロウでもなさそうだな」と気付き始めたのがアルカラとツーマンしたとき(※2021年4月3日・渋谷O-Crestにて開催の「ガストバーナーpresents.『Are you Happy?』ツアーファイナル」)くらいだったんですよね。それでその次の京都GROWLYのライブ(※2021年4月10日開催の「『Are you Happy?』Release Party」振替公演)でめっちゃ好き勝手にやったら、めちゃくちゃ楽しかったんです。
――はるきちさん、当時それについてつぶやいていましたよね。「もやもやしていたものが全部吹っ切れた」って。
加納 あの日のライブはすごかったですよね。ギターの弦は切るし、アンプ壊れて(競演相手で16ビートはやおが所属する)ZOOZから機材借りるし(笑)。
はやお あの日ほんとめちゃくちゃでしたよね(笑)。
りっちゃん 最低だったけど、それが最高だった。
はるきち すっごい楽しかった。「これだ!」って掴んだ感覚があったよね。ただただ自分を出せばいいんだと気付いたんです。
――わたしは2021年9月中旬に初めてライブを拝見していますが、加納さんのプレイはビレッジマンズストア在籍時代の佇まいを思い出すと同時に、ガストバーナーだからこその姿も見えて。しっかり積み重ねて生きてきた人の歴史は今の姿に詰まっているんだなとしみじみ思いました。
加納 10年間積み重ねてきたものは勝手に出ますね(笑)。りっちゃんのベースが歪みまくってるので、歪んだギターを弾くスタイルの俺は椅子取りゲームの椅子を最初から取られてる状態から闘わなきゃいけないんです。そのためにも本当ならやりたくないことをやらなければいけないんですけど……最近それが気持ち良くなってきちゃって(笑)。「こんなに出来るじゃん! 俺!」と思ってます(笑)。ガストバーナーでは僕はめちゃくちゃクリアです。
りっちゃん 大丈夫ですよ。加納さんのギター全然クリアじゃないんで(笑)。
加納 普通に弾いたらクリアになる音作りなんだけどね。指先から邪念が乗ってるんだろうね(笑)。
――その流れでお聞きしたいんですが、この前はるきちさんがツイートしていた加納さんのトカゲのブローチの話、詳しく教えていただけますか?
加納 あのブローチは前のバンドの時から持っていたもので、全員同じスーツの衣装だからほかのメンバーと違いを出すためにつけていたんです。抜けるタイミングでボーカル(水野ギイ)にあげようと思ってたんですけど、脱退ライブの対バンのバックドロップシンデレラのボーカルのあゆみさん(でんでけあゆみ)が「靖くん、これツアーに連れていくからちょうだい」と言ってきて――それがなんかすごく可愛くてかっこよかったんです。それであゆみさんにあげたんですよね。
また一緒に旅をしていきたいと思います。 https://t.co/78AH1fJWvH
— 加納靖識 (@yasunori_0565) September 28, 2021
はるきち 脱退したあと加納くんはギターもアンプも手離して、サラリーマンを始めて、音楽から距離を置いてたんです。脱退から半年くらい経った時に、仕事終わりの疲れた状態でふとYouTubeを開いたら、バックドロップシンデレラの新しいMVが解禁されていて、それを観たらあゆみさんの胸元にそのブローチがついてたんだよね?
加納 あははは、そうそう。
はるきち おまけに「サンタマリアに乗って」の歌詞は別れた仲間を鼓舞する内容だったりもして、加納くんはなおさらめちゃくちゃ感動して。それ以降ちゃんと音楽を聴けるようになったらしいんですよね。
バックドロップシンデレラ『サンタマリアに乗って』Music Video
加納 それでバックドロップシンデレラと初めてガストバーナーで対バンして(※2021年9月28日新栄APOLLO BASEにて開催)、リハ終わりにあゆみさんが「返すものがあるんだわ」ってそのブローチを差し出してくれたんです。物が戻ってくるのは縁だと思うので、またステージでつけるようになりました。
――わあ、とってもいい話。
はるきち ですよね。歌詞も加納くんにリンクするし、あゆみさんは加納くんのブローチつけてるし、ブローチを返してもらった日に「あの曲は加納くんのことを歌ってるんですか?」と渉さん(豊島“ペリー来航”渉。バックドロップシンデレラGt/Vo)に訊いてみたら、「違うよ」と言われましたけど(笑)。
――ははは。いいオチもあって。
加納 恐れ多いので違って良かったです(笑)。ガストバーナーを組んでから、そういう運や縁めいたものが多いんです。こうやって思ってくれる先輩がいるのはありがたいですね。
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ガストバーナーの2021年を締めくくる東名阪ツアー「開運ツアー」。“Happy”を極めた4人はこのツアーにどんな思いを抱いているのだろうか