十年選手の初期衝動――ガストバーナーがオルタナ×歌謡メロで体現する幸福論とは(前編)
十年選手の初期衝動
ガストバーナーがオルタナ×歌謡メロで体現する幸福論とは(前編)
L→R
加納 靖識(Gt)
16ビートはやお(Dr)
デストロイはるきち(Vo/Gt)
辻斬りっちゃん(Ba)
2020年8月末、デストロイはるきち氏からガストバーナーの初作品『Happy』の音源が届いた。彼が新バンドを始動させていたことはもちろん把握していたが、コロナ禍に疲弊し、仕事以外で音楽を聴く気力がほぼなくなっていたわたしは、申し訳ないことにYouTubeにアップされたMVをチェックできていなかった。だがこうして音源を送ってもらったからには聴くのが道理。早速データを再生し、【ストレンジャー】のイントロを聴いた瞬間にそれまでの自分の行いを悔いた。ラストまで衝撃と高揚の連続で、風化寸前の心がみるみるうちに潤っていく。自分が多感の時期に聴いていたロックバンドに迸っていた危うさ、妖しさ、ユーモア、繊細さ、鋭さ、優しさ――ガストバーナーの音にはそれらが熱量高く封じ込まれていたのだ。
荒々しく歪んだギターに、えぐるような粘度の高いベース、繰り出すリズムで空気を掌握するスケールのあるドラム、楽曲に色を挿す女声コーラス、そして滑らかな歌謡曲的メロディと遠くまで抜けるボーカル。昨今のJ-ROCKが置き去りにしていた「陰」を存分に含んだサウンドは、どこまでも痛快だ。デストロイはるきちが“危険なヤツら”を招集して結成したガストバーナー。結成の経緯から、『Happy』や一人ひとりのバンドとの向き合い方をメンバー全員に訊いた。
取材・文 沖 さやこ
メイン写真撮影 新田 大騎
◆ガストバーナー
2020年2月にラストライブを行ったみそっかすのデストロイはるきち(Vo/Gt)が、3月に結成。アルカラ稲村太佑氏にみそっかす解散報告をした際、アルカラ主催ネコフェスのオファーを受けたことを機に燃え上がり、独断と偏見で「危険なヤツら」を招集する。アルカラ主催のネコフェス2020を初ライブに見据え活動していたところ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため同イベントが中止に。6月のYouTube配信「おうちネコフェス」にてスタジオライブを1曲披露し、初めて公の場でパフォーマンスを行う。9月16日にバンドにとって初作品となる『Happy』をタワーレコード限定でリリース。同26日にオンラインにて初ライブを開催。ex.みそっかすのマイケルTHEドリームがプロデューサーというかたちでバンドに参加している。
(Official:Twitter / YouTube channel)
◆お客さんから「ZOOZのはやおさんが“僕で良かったらいつでも手伝うよ”と言ってましたよ」と聞いて
――ガストバーナー結成のきっかけはネコフェスだとお見掛けしましたが。
デストロイはるきち(Vo/Gt) そうなんですけど、結成の経緯を話すとなると、みそっかすの解散まで遡る必要があって。
――というと?
はるきち そもそもなんでみそっかすが解散したかというと、みそっかすの曲をみそっかすのメンバーと演奏することに違和感が出てきたからなんです。5人とも音楽の趣向が違うのがみそっかすの面白さだと思うんですけど、いつの間にかただのばらばらになっていて。それと、みそっかすがJ-ROCKの枠に収まっちゃってるのも感じていたんですね。
――「J-ROCKの枠」というと、ライブで盛り上げるための音作りや、お決まりごとが多い感じでしょうか。
はるきち どんどんバンドのやってることが狭まっているような気がしたんです。僕はもともとオルタナ趣向で、海外のオケに日本のメロが乗っているのがいちばんかっこいいなと思っていて。みそっかすも初期はセンスでもってそれを絶妙なバランスでやってたと思うんですけど、10年活動していくなかでみんなの目指す音楽性も、将来のビジョンも変わっていって。でもみそっかすの曲自体は好きだから、みそっかすのメンバー以外でみそっかすの曲もやる、「デストロイはるきちのソロバンド」をやりたいなと思ったんです。
――それはガストバーナーではないんですよね?
はるきち ではないんです。みそっかすの曲をJ-ROCKではないJ-POP要素を入れて表現するバンドをやりたいと思っていて……それは洋楽然としたものをやりたいのとも違って。ニュアンスを伝えるの難しいんですけど、米津玄師さんみたいなJ-ROCKの枠を超えたうえでのJ-POPをやりたかったんです。だからJ-POP然とした人たちと一緒にやろうと思って、拠点である名古屋でメンバーを探し始めたんですけど、自分が理想とするドラマーが全然見つからなくて。
――バンドメンバー探しあるあるですね。
はるきち そんなときに、はるきちとマイケル(※みそっかすのスピンオフユニット。メンバーはデストロイはるきち、マイケルTHEドリーム)のライブが新栄CLUB ROCK’N’ROLLであって(※2020年3月6日に開催)。そのときにとあるお客さんから「ZOOZの16ビートはやおさんが“僕で良かったらいつでも手伝うよ”と言ってましたよ」と聞いて。
――えっ、お客さん!?
16ビートはやお(Dr) はるきちとマイケルのライブがあるちょっと前に、僕はZOOZで名古屋にライブをしに来てて(※2020年2月23日に鶴舞K.Dハポンにて開催)。そのお客さんがそのライブにも来てくれてたんです。その人が僕に「みそっかすが解散しちゃって悲しい」と言っていて、僕ももともとみそっかすは大好きだったし、解散ライブも観られないままだったから「僕もすごく悲しいです。僕が手伝えることあったら手伝うんですけどね」と話して――それから2週間くらいして、はるきちさんから電話が掛かってきまして(笑)。
はるきち はるきちソロバンドを組むにあたってマイケルにいろいろ相談をしてたんですけど、マイケルも「はやおくんに頼んでもいいんじゃない?」とは言っていて。でもはやおくんは大阪在住だし、名古屋拠点のバンドなんてやってくれるわけがないと思ってたんです。そんなところにお客さんからその話を聞いて「もしかしてはやおくんやってくれる……!?」と望みをかけて、はるきちとマイケルのライブの翌日くらいには電話しましたね(笑)。でも話していくうちに、「はやおくんに叩いてもらいたいけど、はやおくんの個性を生かすなら、はるきちソロバンド以外のバンドじゃないか?」と思ったんです。
――オルタナ色の強いドラムを叩かれる方ですものね。はるきちソロバンドが目指す方向性とは少し違うかも。
はるきち 僕もはやおくんのドラムはすごく好きだし、好きな洋楽の話で盛り上がることも多くて。はやおくんとなら「洋楽のオケにJ-POPのメロディを乗せるロックバンド」ができるんじゃないかなー……と思ったんです。はやおくんのドラムを起点に考えていったら、ギターは加納くんがいいし、ベースはゴリゴリした人がいいなあと、どんどんイメージが膨らんでいったんですよね。
>>次頁
はるきちソロバンドの構想が崩れ、とうとう動き出したガストバーナー。面識のない楽器隊たちが集まった初スタジオで、各メンバーが感じた手ごたえとは