長距離移動するフリーランスライターの光陰 (10)

LINEで送る
Pocket

chokyori_main

長距離移動するフリーランスライターの光陰
(10)貧血

 

今年に入ってワンタンマガジンの更新が滞っている。隔月掲載していた収支報告すら手がついていない。別にワンタンマガジンに飽きたわけではないし、更新したい気持ちは大いにある。だがなかなか行動に移せない。仕事だけで手いっぱいだった。

syokufuni10_1さらに4月くらいから、階段を1階分歩くだけで動悸と息切れが激しくなった。ストレッチをするだけで心臓が爆速で動く。デスクワークと運動不足からくる早めの更年期障害なのだろうか。そういう日々を送るうちに、仕事へのスイッチも入らなくなった。仕事の依頼が来るとうれしいのにどこか憂鬱で、〆切が近くなると「原稿を書かなきゃ」という強迫観念に駆られ、書きたくなくなってくる。そんななかお世話になっている複数の編集部の担当替えなどが相次ぎ、仕事量もじんわりと減っていった。

5月に芸歴14年目を迎え、自分としてはいいものを書いている自負があっても、同期ライターに置いていかれ、後輩ライターに追い抜かれ、うだつが上がらない自分はもうこれ以上仕事の幅を広げることははできないのかと自分自身に愕然とするようになった。頻繁に「もしこの仕事を辞めたとしたら、人生どうするのか」と考えるようになった。

仕事がしたいのにしたくない。したいのにしたいと思えない。憂鬱な気持ちを抱えながら、必死にしがみつきながら取材の準備をし、取材に行き、原稿を書いた。それだけ自分をすり減らしても新規の取引先が増えるような状況が良くなることはなく、こんなに無理をしても届かないなんて未来がないなと落ち込んだ。今思い返すとだいぶギリギリだった。飲み会やランチの誘いをどう断るかに神経を費やした。自分の造形を保つことでいっぱいいっぱいだった。

syokufuni10_2そんなわたしのストレス解消は、3月あたりから始まった大好きなしょうが飴の飴ちゃんをボリボリ噛むことだった。噛んだ後のしゃりしゃりとした感触が口の中に広がるのが心地よく、ついつい何個も食べてしまう。硬いまま噛むから歯が痛くなった。そんなに安い飴ちゃんでもないし、糖質も心配なので、あたたかくなった5月中旬からは代用品として氷を食べるようになった。夏になればなるほど個数が増えていって、1日に4~50個くらい氷を食べるようになっていった。むくみがひどくなっていった。それでも止められなかった。しゃりしゃりとした感触が、頭の中をすっきりさせるような爽やかな効果を与えてくれた。

そんなとき、ひとつのツイートが目に留まった。「氷をバリバリ食べてた人が、もれなく白血病orがんになっている」という内容だった。父親を肝臓がんで亡くしているわたしは、すぐさま友人にこのツイートの話をした。友人も「確かに自分の周りのがん患者も氷をバリバリ食べていた。あなたにも何か病気が隠れているんじゃないか」と言う。空想委員会の三浦さんが大腸がんで亡くなったことが頭をよぎる。ずっと先延ばしにしていた市の健康診断を受けることにした。

歯科検診と乳がん検診を申し込み、かかりつけ医で健康診断とがん検診を受ける。健康診断を受けるのは、バイトをしていた2016年の夏以来だった。7年前と比べると身長が1.5cm伸びていて、運動量は激減しているのに体重にそんなに変化はなかった。採血、レントゲン、検尿、心電図と進めていき、後日検便を持参することになった。

syokufuni10_3

健康診断を受けた翌日、検便を持ってかかりつけ医に行ったところ、わたしの名前を見るなり看護師さんが慌てた様子で言う。

「沖さんそのまま診察室に入ってもらっていいですか?」

ええええええええ??? もしかして重めの病気発覚……!?!? とドキドキしながら入ったら、先生が「沖さん大変だよ! 座って」とわたしの手を取る。机の上にはわたしの血液検査の結果が出ていて、ヘモグロビン値5.X(小数点以下いくつか忘れた)のド貧血とのことだった。どうやら6~7でも重度の貧血扱いになるらしく、それよりも低い数値が出る場合は輸血が必要なレベルだそうだ。すごく心配されて、予期せぬあたたかい言葉を受けて思わず目から涙がこぼれてくる。こんな言葉を掛けてもらったのは久しぶりだった。

syokufuni10_4ここ数ヶ月を思い返してみた。昨年末にiHerbの鉄剤のストックが切れ、そのまま円安の影響で買うことができなくなった。今年の2月頭くらいから鉄剤のない生活になり、その後ほどなくして動悸と息切れが激しくなり、飴ちゃんをぼりぼり食べるようになった。老化とボリボリ依存症かと思っていたけれど、ドがつくほどの貧血だった。6月くらいから「少しでも鉄分を摂取しよう」とDHCのヘム鉄を飲み始めたけど、それでは賄えなかったようだ。

普段ハイパー塩対応の看護師さんたちが「よく今まで倒れなかったね」「どうやって生活してたの?」「毎日つらかったでしょ……」などなどものすごく優しい言葉を掛けてくる。相当悪い数値なのだと実感した。「仕事を飛ばしてはいけない」という強い気持ちと、ロマンスカーやグリーン車、特急湘南の快適さ、そして何よりiHerbの鉄剤の威力に感謝した。仕事にやる気が出なくてなっていたのも、いま思い返すと貧血の影響なのだろう。

熱中症になりやすい体質のわたしには今年の猛暑はしんどすぎて「今年フェスの仕事入らなくてほんと良かった~」と思っていたけれど、あらためてほんとフェスの仕事入らなくて良かった。確実にぶっ倒れてる。病院で鉄剤をもらい、2週間後にまた血液検査をすることになった。

例年に比べると今年は仕事が少ないのも、「自分の身体と向き合え」というご先祖様からのお告げなのかもしれません。とうとうずっと避けてきた婦人科に行くことにもなりそうです。今回のわたくしのように、憂鬱な気分やストレス解消の方法には、身体的な不調が隠れているかもしれません。ほんと健康第一。皆さんもどうかお身体には気を付けて。

 

◆「長距離移動するフリーランスライターの光陰」記事一覧

 

◆Information
shokufuni_coverエッセイ本『就職できなかったフリーランスライターの日常』
文庫本 216ページ 湾譚文庫
価格:980円(税込)/BASE 1250円(税込)
送料:250円

文庫本216ページ。ワンタンマガジンに掲載された『しょくふに』を大幅にリアレンジし、ここでしか読めない書き下ろしを2本プラス。さらにnoteに掲載した選りすぐりのテキストのリアレンジ版を掲載しています。しおりつき。売上金は全額ワンタンマガジン運営費に計上いたします。

◎BASEでのご購入はこちらから
OTMG Official Shop
クレジットカード、Amazon Payなど様々なお支払いに対応しております

◎お得な直接購入の詳細はこちらから
エッセイ『就職できなかったフリーランスライターの日常』を書籍化!

◆SNS
Twitter:@s_o_518
Instagram:@okiniilist @s_o_518
note:@sayakooki

LINEで送る
Pocket