倖田來未デビュー15周年――「自己主張」という個性が切り拓いたキャリア

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SUITE CHIC 『WHEN POP HITS THE FAN』

まずは安室奈美恵の復権だ。小室ファミリーというものが自然消滅した頃、安室奈美恵をメインボーカルに置き、m-floのVERBALやmichico等、多彩な音楽プロデューサーやアーティストを迎えた音楽プロジェクト「SUITE CHIC」が始まった。もともと安室は1999年からDallas Austinとタッグを組むようになっていたので、SUITE CHICの流れも自然なものだった。2003年2月にリリースされたアルバム『WHEN POP HITS THE FAN』が日本のR&B / HIP-HOPでは異例のオリコン4位のヒットを記録した。そのセッションで培った人脈や音楽の方向性を元に新たな安室奈美恵の音楽が始まったが、オリコン初登場の順位もTOP10の下の方だったりと、過去の彼女を知っている世間から見たら「人気が落ちた」という見え方だったろう。それでも彼女は当時のJ-POP界ではまだ珍しかったエッジと苦味の効いた“カラオケ向きではない音楽”を続けた。そして徐々に彼女の軽やかな中に鋭さのある高いダンススキル、そしてほんの少しもニコリともしないクールな面持ちと音楽が「かっこいい!」という風潮になってきた。彼女のやる音楽がJ-POPの最先端となってきたのだ。

その間に世界ではFergieを新メンバーに迎えたBlack Eyed Peasがアルバム『Elephunk』(2003年4月)をリリース。ファンクとHIP HOPを交えた今でにないノレる音楽がヒットし、日本でも話題になっていた。日本音楽界にも踊れる音楽を求める流れ、そして欧米ポップスへの意識が高まってきていた。この流れは彼女の自粛前から出来つつあったものの、当時商業J-POP路線にレールを置いていた彼女が、その路線に乗ることができる空気ではなかった。世間が、それを彼女に求めていなかったからだ。インタビューで「歌って踊れるアーティストは私のこと」「私はバラードでも踊る」と豪語していたこともあったが、もしかしたら、そういう音楽をやる私も見てほしいという気持ちの表れだったのかもしれない。

『MOON』

そして自粛からの復帰。復帰後のシングル『MOON』(2008年6月)の表題曲【Moon Crying】はピアノバラードという手堅いものだったが、C/WにBlack Eyed PeasのFergieを迎えた【That Ain’t Cool】が収録されていた。初めてFergieが日本人とコラボしたことでも話題になったが、この時初めて気づいたのが、倖田來未の歌声の主張の仕方の面白さだ。欧米人のFergieと歌ったことで、初めて気付いた。倖田來未の歌の自己主張の強さは、欧米の大味で堂々としたキザさを持っている。それを日本人の感覚というフィルターを通して出しているんだな、と感じた。欧米音楽やアーティストへのリスペクトと羨望、「日本人だって欧米アーティストに負けないぐらい出来るんやで!」という見栄。そして彼女の持つ元来の我の強さが、ただの欧米の真似ではない、倖田來未の歌のスタイルとして成り立ったているんだな、と。こう言っては語弊あるかもしれないが、あのタイミングで活動を自粛して、方向転換のきっかけが出来て良かったのかもしれない。

『TRICK』

復帰後のアルバム『TRICK』(2009年1月)以降、アルバムをリリースする度に、世間の求める音楽と彼女のやりたい音楽の距離が縮まって行った。縮まるというより、彼女側から、元来彼女のやりたい音楽のエッセンスを加えた曲を増やして、互いの間を摺り合わせていく感覚がした。そこな世界的にLady GagaやNicki Minajのような、所謂“ぶっ飛んでてやったもん勝ちな攻めの音楽”や、EDMが世間で認められると、倖田來未ポップスはそれを捻ることなくとりいれた。そしてようやく【POP DIVA】(2011年2月)のようなトゲトゲしてて、調子はずれな裏返った声のコーラスを重ねた、ブリンッ!とした歌い口や歌詞の節々で小粋にポーズをキメるような歌い回しを存分に活かした曲をシングルで出せる流れが、“商品としての倖田來未”の中に出来上がったのだ。


倖田來未 / POP DIVA

デビュー15年を迎えるアルバムタイトルは『WALK OF MY LIFE』。公式サイトには作品と共に、「人がどう思うかではなく、自分がどう生きたか」というコメントを掲げている。彼女は15年を振りかって、自分はどう生きたと考えているのだろう。歌手として15年もの間歌い続けているのは、並大抵のことではない。もしかしたら、この先にはまた新たな試練が待ち受けているかもしれない。けど、酸いも甘いも、上も下も見たことがある彼女はそれを乗り越えられると、それが出来る人だと僕は思う。そして、時代の波に跨り輝いてきた彼女は、もう、自分からその波を生み出せる人だとも、僕は思う。(沖 丈介)


倖田來未 / 「WALK OF MY LIFE」MUSIC VIDEO

 

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WALK OF MY LIFE

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