音楽ライター×地方誌編集者のフェス論’15~ONE TONGUE SUMMIT #1
◆“おもてなし”精神が大事?
沖:コンセプトが確立したフェスと言うと、アーティストが企画するフェスも注目だと思います。10-FEETの『京都大作戦』やASIAN KUNG-FU GENERATIONの『NANO-MUGEN FES.』はもちろん、cinema staffの『OOPARTS』、、MAGIC OF LiFEの『Don’t Stop Music Fes.栃木』、LACCO TOWERの『I ROCKS』、SiMの『DEAD POP FESTiVAL』など、本人たちの地元で、ライヴハウスの自主企画の延長のようなピュアで熱いコンセプトを持ったフェスも増えてきていますし、何と言ってもLUNA SEA企画の『LUNATIC FEST.』が、アラサーのわたしにはたまらないです(笑)。LUNA SEAはジャンル問わず様々なアーティストに影響を及ぼしているバンドですし。
ふく:LUNATIC FEST.は凄まじいラインナップになってますね! TOKYO YANKEESやLADIES ROOMなど、市川哲史さんの著書『私が「ヴィジュアル系」だった頃。』でLUNA SEAと一緒に名前を見たりしたことはありますが、その凄さを肌で感じていないので新鮮です。リアルタイムで聴いていた人はアラフォー以上でしょうし、今フェスに参加しているロック・キッズたちはレジェンド過ぎてかえってピンとこないでしょうね。今年は泉谷しげる主催の『阿蘇ロックフェスティバル2015』が、’80年代の伝説のフェス『BEAT CHILD』と同じ会場の熊本は阿蘇のアスペクタであったり、松崎しげる主催の『黒フェス』があったりと、大御所が仕掛けるフェスも生まれていて興味深いです。
沖:やはり日本は場所が限られているので、同じ場所で開催されるフェスが多いですよね。関東のフェスは大体幕張メッセだし、関東だと川崎の東扇島東公園もプチメッカになっています。違うフェスで同じセットを使うこともあるとかないとか……。サーキットフェスも地方なら年に1回ひとつだけというパターンが多いですが、東名阪はとにかく多いですし。このフェスにしかない景色を観ることができたら最高ですよね。ふくさんはこれからのフェスに必要なものはどういうものだと思いますか?
ふく:フェスがマイノリティの集う場所ではなく、レジャーのひとつとなってきたからこそ、「フェス会場の中だけ楽しめればいい」というわけではなくて、「家に帰るまでがフェス」ぐらいの気持ちにさせてくれるか……つまりは会場内外の“旅の快適さ”を求めます。具体的には、会場外で言うとまず直行バスの本数が少ないフェスが地方は多い気がしていて。フェス参加者はみんな余計な体力と時間の消耗は避けたいんです。
沖:バスは本当にそうですね。あれだけ待つのにこんなに金額高いの!?と思うことも多いですし。
ふく:あとは、宿泊施設の争奪戦をどうクリアーするかですね。地方のフェスは、開催日が解禁された時点で駅周りやリーズナブルなホテルはスパーンと一瞬で完売します。ホテルの数も限られますから、ホテルが予約できなかったフェス難民たちはネカフェやスーパー銭湯などもあたるわけですよ。僕もフェス帰りになんとか予約できたスーパー銭湯内のカプセルホテルに宿泊したことがありますけど、そこでは野戦病院のようにスーパー銭湯内の地べたで寝る若者が大勢いましたから。若い女の子も多いのに。安易に「どのフェスでもキャンプエリアを作ればいい」という問題ではないですが、これはなんとかならんもんかなぁと毎回苦心します。
沖:それが経済効果になっているとはいえ、宿泊場所がないのは確かにそうですね。会場周辺から少し移動したところの、近隣地域の移動案内とかがあってもいいかも。フェスのパンフレットにはよく終電時間が書いてあったりしますよね。それを事前にサイトなどで公開してあると、こちらとしては便利だなと思います。
ふく:あと、行き慣れていない地方に行って宿泊するなら、晩ご飯ぐらいその地の名物とか食べたいじゃないですか。なんとなく食べログとか見ながら大きい駅周りで探したりするんですけど、これ、例えばフェス側で市町村と一緒になってフェスに参加した人たち向けの簡単な観光ガイドのようなリーフレットとか用意してくれたらいいのに、とも思っています。
沖:おお! さすがタウン情報誌の編集者。ならではの発想ですね。そんなこと全然思いつかなかった(笑)。
ふく:そこまでケアしてくれたら素晴らしいですね。フェスの空き時間で仲間たちと「夜はココに行ってみよう」なんて相談もできますし。なんならフェス側で「フェス参加者たちを終了後に直接地元の有名な店に連れていくツアー」とかしても面白いかも。その店はフェス参加者たちで貸し切り。自然と音楽の話で盛り上がるでしょうし、リア充志向な若者たちなら恋愛に発展しちゃったりするかもしれない。なんなら会場のお店からフェス側は協賛金とかもらえるかも(笑)。
沖:名案! さっきから何度も言っていますが、やっぱり地方のフェスはどれだけその土地とタッグを組めるかが鍵ですね。
ふく:地方は特に、フェスの乱発のおかげで宿泊施設をはじめその界隈の施設が一時的に潤うという特需が発生しているんですよね。数万人が集い、1~2泊していく人も多いビッグイベントですから。これを上手く街と融合させてほしいなと。もちろん、フェス会場内での快適さ……トイレやゴミ箱の数だったり飲食の充実、動線のスムーズさは言わずもがなです。
沖:地方に都内で行われるようなフェスが増えることで地方の文化が発達するといいなと思います。音楽好きの遠征組だけでなく、地元の人を取り込む努力が大事ではないかと。「よく知らない人ばっかだけどなんか楽しそうだから来ちゃった」、みたいなことが音楽でできたら最高だと思いますし、音楽ならそれができるとも思うんですけどね。