サイダーガール『サイダーのしくみ』

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MINI ALBUM(CD)
サイダーガール
『サイダーのしくみ』
2015/06/28 release
CIDER RECORDS

エモーショナルな清涼感が作り出す“炭酸系サウンド”
謎多き4ピースバンド、サイダーガール本格始動

 

YouTubeで【ドラマチック】を聴いて、みるみるうちにサイダーガールに恋をした。イントロの静から動の爆発力も、ギターの音のきらめきも、サビの伸びやかなヴォーカルも、すべてが眩しくて夢のようだった。自分がこんな10代の時に音楽に恋したときのような感覚になれるなんて思いもしなかった。だから最初は戸惑った。なぜこんなにときめいてしまっているのだろう? 失礼な言い方をすればサイダーガールはパッと聴きスタンダードなギターロックだし、アレンジが斬新なわけではない。劇的に演奏がうまいわけでもない。だがストレートに聴こえる音のすべてが、ひとつひとついちいち心に引っかかってくる。こちらに何かを刻み付けようとしてくる激情がある。そして何より、曲名通り展開もメロディも歌詞も、音のすべてがドラマチックだった。ごくごく普通の生活のなかで生まれた胸のときめきが、そのまま音になったようだったのだ。みるみるうちに景色が変わる――本当に恋だった。

サイダーガールは2014年5月、結成。2014年7月、下北沢CLUB251にて初ライヴを敢行。チケットは即日完売した。「結成からたった2ヶ月でなぜ251のキャパシティを即日完売できたのか? それは結成前からそれぞれのメンバーにキャリアがあるからだろう」、そう思いと調べてみると、それぞれがインターネット上でも音楽活動を行っていた人物だった。わたしもそれぞれ名前だけは知っている方々だったので、251の即完は納得だった。2014年10月より自主制作デモ音源【群青】【寝ぐせ】をYouTubeにて公開。そして2015年6月、1stミニ・アルバム『サイダーのしくみ』をライヴ会場限定でリリース。【ドラマチック】もそのアルバムに収録されている。

4人が4人ともソングライターとしてのキャリアがあるため、全員楽曲制作ができるというのもサイダーガールの面白いところ。デモ音源としてもアップされているM1【群青】、M2【寝ぐせ】、MVになっている【ドラマチック】は作詞作曲をギターの知が手掛け、M5【アイヴィー】とM6【雨と花束】はギターヴォーカルのyurin、M3【ニジイロセカイ】はドラムスのトルル、M4【魔法】はベースのフジムラがそれぞれ作詞作曲をしている。4人それぞれのカラーがありながらも“哀愁のあるメロディと変幻自在の炭酸系サウンド”というものに全曲が落とし込まれているところは、バンドの意思統一ができているということだろう。

【ニジイロセカイ】はイントロの躍動感のあるドラミングやサビのコーラス・ワークが“虹色”という言葉のイメージと合致する。キュートな楽曲であるが、間奏のエモーショナルなギターソロは音色もエッジが効いていて、そのコントラストも面白い。【魔法】はキャッチーな音像に常にセンチメンタルな空気感が漂っていて、平熱で歌うyurinのヴォーカルがそれを増徴させる。【アイヴィー】はアップテンポのドライヴ感とサビの四つ打ち、その上を走るメロディ心地いい。四つ打ちが一般的な“踊れる”という解釈ではなく焦燥感を生んでいるところがバンドの精神性だろうか。そこに寄り添うギターはどことなくメランコリックで、聴いているこちらの心に入り込む。【雨と花束】はミディアムテンポのバラード曲で、タイトルの通りのサウンドが切なく美しい。そのギターのアウトロから次曲【ドラマチック】につながるという、この流れがまた感動的なのだ。

このバンドが単なるスタンダードで終わらない最大の理由は、知のギターにあると思う。彼のギターには、何か不思議な力が宿っているような気がしてならないのだ。彼の奏でる音には単なる“爽やか”で終わらない棘と毒、喜怒哀楽の激情がある。常に何かを抱えている人の出す、深い音だと思う。そしてメロディの良さをクリーンに、言葉を一言一言丁寧に伝えるyurinのヴォーカルとの相性がすごくいい。それもうわものをしっかりと支え楽曲のムードを作るリズム隊あってこそである。だからわたしは、サイダーガールというバンドのこれからがとてもとても楽しみなのだ。

『サイダーのしくみ』は本日から開催される自主企画東名阪ツアー「サイダーのゆくえ -半透明、2015夏-」から販売開始。サイダーガール、要注目です。(沖 さやこ)

 


サイダーガール “ドラマチック” Music Video

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