音楽家・照井順政は人生の岐路とどう向き合うのか? 自身のスタンスとCingで示す「二面性」

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ytcing_202208_01音楽家・照井順政は人生の岐路とどう向き合うのか?
自身のスタンスとCingで示す「二面性」

 

2004年結成のオルタナティブ/ポストロックバンド・ハイスイノナサの中心人物として、音楽家のキャリアをスタートさせた照井順政。その後sora tob sakanaの音楽プロデューサー、シンガーのAnnabelを中心に結成されたバンド・siraphなど活動の幅を広げ、現在は楽曲提供やTVアニメの劇伴を担当するなど、音楽作家としても多岐にわたる活動を行っている。
そんな彼が2021年から携わっている企画のひとつが、ビーイング発のキャラクターアーティストプロジェクト・Cing。発起人がsora tob sakanaのファンであったことから、照井に楽曲制作のオファーをしたという。現在発表されている「アイスクリーム/サイネージ」、「動物たち」の2曲からも、照井が作家として参加しているプロジェクトのなかでも、かなり彼のカラーが出たサウンドデザインであることも特徴的だ。
彼の個性と新しい側面が融合した楽曲が聴ける「Cing」は、近年の多彩な作家活動と、彼の表現者としての軸である音楽家的センスがどちらも躍動している。ゆえにある意味、彼の現在位置の象徴と言ってもいいだろう。18年にわたる音楽活動を送り、人生の岐路に立った彼は何を見据えているのだろうか? Cingを通して彼の現在のスタンスを探った。

取材・文 沖 さやこ
撮影 村上 麗奈(Twitter

 

◆照井順政(てるい・よしまさ)
作詞、作曲、編曲、ギタリスト。2004年にハイスイノナサを結成し、2009年にインディーズデビュー。2015年1月よりsora tob sakana の音楽プロデューサーをグループ解散まで務める。2016年に元・school food punishmentの蓮尾理之、山崎英明、Mop of HeadやAlaska Jamで活動する山下賢、ボーカリストのAnnabelとともにsiraphを結成。並行し作家としてTVアニメテーマソングやCM楽曲の制作、アーティスト楽曲提供などを行い、主な活動として2020年にTVアニメ『呪術廻戦』劇伴、2021年に音楽プロジェクトCingの楽曲制作を担当する。

 

◆Cingは自分の解釈でゼロから楽曲を提案できる

――照井さん、最近は作家活動がお忙しそうですね。今年4月にはWOZNIAKのライブにゲストギタリストとして参加なさっていて、久しぶりにプレイヤーとしての動きも見られました。

照井順政 ありがたいことにいろいろお仕事いただいていますね。制作に追われながら(笑)、毎日楽しく過ごしています。WOZNIAKのライブはsora tob sakanaのラストライブ以来1年半ぶりのステージだったんですけど、ゲストという立場だったのもあり過度に気負わずプレイできました。

――照井さんの気質としては、ソングライターとプレイヤーだと前者の比重が大きいのでしょうか?

照井 もともとハイスイノナサを始めた時から、曲を作るという行為が自分にとって最も重要で。もちろんバンドでばりばり活動していた時期は、バンドマンという意識や演奏の最前線に立っている自負もあったんですけど、自分が「いい曲だ」と自信を持てる音楽を完成させて、それをステージで演奏するのが好きだったんですよね。

――なるほど。制作欲に付随するものがプレイヤー欲だったということですね。

照井 ハイスイノナサの活動が落ち着いたあたりからどんどん作曲に追われるようになって――そうすると必然的に、ギターの練習に充てられる時間は少なくなっちゃうんですよね。常に自分のプレイを磨いていける人が演奏家だなと思うので、ギターの練習をする時間が短くなるにつれて、「自分にしか弾けないギターがある」みたいなギタリストとしての自負はなくなっていっちゃったところはあるかも。今はもう完全に制作活動の比重が大きいですね。


ハイスイノナサ / 地下鉄の動態 【Official Music Video】
Haisuinonasa / Dynamics of the Subway

――照井さんのそういうモードや状況もあって、ハイスイノナサの活動も落ち着いているということでしょうか?

照井 siraphはAnnabelさんや蓮尾くん(蓮尾理之)で楽曲制作ができるんですけど、ハイスイノナサのメンバーは僕の意志ややりたいことを尊重してくれるスタンスなので、僕が楽曲制作の9割を担っているんですよね。僕だけでなくメンバーみんなもこの数年で生活が変わっているから、ハイスイノナサを動かすのは現時点では難しいかなと思っています。とはいえ今でもメンバー同士でよく連絡は取りますし、関係も良好なので、この先みんなのタイミングが盛り上がった時には制作やライブをやるかもしれないですね。

――ありがとうございます。さて、様々な作家活動をしている照井さんが2021年から携わっているキャラクターアーティストプロジェクト・Cingは、照井さんのこれまでのキャリアや音楽家としての特色が生きていると思います。先ほど少しCing発起人のスタッフさんにお話を聞いたところ、第1弾のソングライター候補は照井さん一択だったそうです。

照井 ありがたいです(笑)。スタッフさんはもともとsora tob sakanaをよく聴いてくださっている方で、僕の作る音楽のこともよくわかってくださっていて。あとはプロジェクトの立ち上げの段階での楽曲制作ということもあり、僕も「スタッフさんのやりたいコンセプトをどうかたちにしよう?」と自分なりの解釈でゼロから楽曲を提案できたんですよね。


Cing『アイスクリーム/サイネージ -Instrumental-』Official Music Video

――たしかにCingは、照井さんがCingにお力添えをしているというより、Cingのコンセプトや方向性と、照井さんのセンスの二人三脚を感じます。

照井 Cingの世界観を構成する要素のひとつであるサイバーパンクは自分も大好きなので、「それをいま発信するならどうしたらいいだろう?」という共通意識はお互いにありますね。コンセプトの中にはLGBTQ+や多様性などの現代のテーマもあって、それを自分も音楽に落とし込めたらと思っています。スタッフさんも僕のわがままを寛容に受け止めてくださるので、依頼されたお仕事でありつつも自分の作家性を出せる環境で、普段の発注のお仕事とはちょっと違う筋肉を使っていますね。自分の強みを出せるので楽しいし、やりがいも感じています。

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Cingの第2弾楽曲「動物たち」に込められた真意とは。照井が考える人間のふたつの顔

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