雨のパレード『new place』
MINI ALBUM(CD)
雨のパレード
『new place』
2015/07/01 release
残響record
五感にはたらきかける音像が切り取った現実世界
雨のパレードが手にした“新たな場所”
雨のパレードは、筆者が去年最も惹かれたニューカマーだった。『残響record Compilation vol.4』(2014年8月)で【ペトリコール】を聴いたとき、音の隅々に渡る崇高さに絶句し、ああ、どうしたって落ちることが不可抗力な音は言葉や思考をすべて奪ってしまうのだな、と全身を持って再確認したのである。そして彼らは自ら“組織的な創造集団”と名乗るように、音楽のみならずファッション、アートなどにもポリシーを貫く、クリエイティヴなポスト・ロック・バンドだ。ファッションデザイナーやペインターといった、音楽以外の活動を担うメンバーもいる。活動のすべてで雨のパレードのアートは成立するのだ。
彼らの最新作『new place』は、昨年10月にリリースされた『sense』以来となる3rdミニアルバム。『sense』は演説のような緊迫感のあるポエトリーリーディングを含む楽曲で幕を開け、【ペトリコール】のような美しさの極みのような楽曲もあれば、ダンサブルな楽曲もあるという、バンドの喜怒哀楽が楽曲ごとに表れた、芸術的なセンスのなかに滲む人間としてのでこぼこが聴き手の心に刻み込まれる作品だった。『new place』はその歪だった部分をより洗練させ、元来持っていた色彩の抽象的だったコントラストをもう一歩踏み込んで明確にさせたものになっている。音楽的観点で言っても、粗だった部分が磨かれて聴きやすくなり、ポップ感が生まれた。それも『sense』という作品が前提としてあるからこそ説得力が生まれるというものだ。
この作品の根本にあるのは世の中に対する怒りや苛立ち――ティーンエイジャーが日常で感じる普遍的なものがテーマになっているとのこと。ファンタジックな世界を抜け出し、リスナーと共有できる世界観を追求した楽曲が並ぶ。メッセージ性で言えば、M1【new place】は〈ダンスフロア〉などリスナーにも耳馴染みのある言葉を用いるなど、情景を想像しやすい。だがその歌詞は決して世俗的ではない。バンドのブレインであるヴォーカリスト・福永浩平の見ている景色は、やはり一般的なそれとは違うのだ。〈ぎこちない夜〉〈このまま溶けてなくなりそうだ〉〈僕に気付いて〉と、華やいだ場所にいながらもそこと乖離し、助けを求めている。これまでの雨のパレードが救いを求めて理想郷を作っていたとしたら、今回はその現実を理想郷に変えてしまうために、人を求めているような気がするのだ。自分の居場所は、自分を愛してくれる人のいる場所だ――なんだかそんなことを言われているような気さえしてくる。
M3【bam】は淡いギターの作り出すメランコリックな空気感と軽やかさが融合した楽曲に、とてもストレートな不平不満や毒が綴られている。そんな自己嫌悪の感情すらも美しい状態にできるのは、福永の声の力も勿論だが、語感の良さも大きい。歌い方のギミックで、その印象をさらりと変える技量が彼にはあるのだ。それはデッサンで言う色の強弱と一緒で、その振れ幅に恐れが一切感じられないところが、彼のヴォーカリストとしての存在感の理由のひとつだと思う。M5【僕≠僕】の音像はまさしくポストロックのそれで、各メンバーの生み出すリズムの魔術に翻弄される。特にM6【夜の匂い】は名曲で、【ペトリコール】に通じる精神性、だがあの曲よりも確実に、夜の向こうにある朝を見据えた希望に満ちた楽曲だ。そこからM7【YES】という、肯定の言葉が掲げられた曲につながる流れは、バンドが“new place”を手に入れた、その象徴と言っていい。自身のポリシーを貫きながら、この現実世界へ新たな場所を創ることができた雨のパレードは、この先どんな絵を描くのだろうか。そんな期待ばかりが生まれる。(沖 さやこ)
◆Disc Information◆
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