The SALOVERS 『青春の象徴 恋のすべて』

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ALBUM(CD)
The SALOVERS
『青春の象徴 恋のすべて』
2015/03/16 release
UNIVERSAL MUSIC

無期限活動休止を決めたThe SALOVERSが
最後に掴んだ“自分たちらしさ”

 

続けなければ見えないことがあるのも確かだけど、続けることが必ずしも正義だとは思わない。やっぱり風邪を引いたときは休むべきだし、肩を壊したらどんなに好きでも野球はやめたほうがいい。健康じゃないから休みが必要で、健康になるために休みが必要なのだ。The SALOVERSもきっと、みんなThe SALOVERSを続けたかったんじゃないかな。続けたかったから、活動休止するんだろうなと思う。矛盾と言われればそうだけど、でも、なんだかそう思う。

The SALOVERSの存在は閃光ライオット以降から知っていたし、メジャー・デビュー前後にライヴも観たことがある。そのとき、圧倒的な爆発力を誇る衝動以外の力が何かひとつでもあれば、と思った記憶がある。でも常に焦燥感を纏っていて、もやもやしながらうずうずしているフロントマンの古舘佑太郎のことが、なんだかずっと気になっていた。その後も新曲は必ずチェックしていたし、TV出演も見たりしていた。ブログも読んでいた。文才に嫉妬した。

先月「MV Watcher」で【Disaster of Youth】を取り上げたときにも書いたが、もやもやした場所から逃げ出したくて、目の前に立ちはだかるいろんなものや焦燥や苛立ちをぶっ壊したくて、音楽を純粋に楽しみたくて――The SALOVERSの音楽は少年の心がそのまま音になっていた。彼らはメジャーデビュー以降、音楽的観点を高めることに焦点を置き、もっと広く伝わるための音楽を彼らなりに追求し、2013年にはシングルを3枚リリースする。ポップな曲を作ったり、イケメン風のMVを撮ったりもしていたけれど、古舘佑太郎は相変わらずなんだかいつも居心地が悪そうだった。衝動的な楽曲でも、気持ちが殻を破れずにそのなかでずっとぐるぐる苦しそうにしているようにも見えた。でもその試行錯誤も、きっと未来で結実するだろうと思っていた。

そしてその予想が確信に変わったのは2014年夏、【喉が嗄れるまで】を聴いたときだ。あの迷いのない音色には、初期衝動では出せない力強さがあったのに、初期に持っていた青さが素直に鳴っていて、ひとつひとつの音が笑っているような気がした。“閃光ライオットの応援ソング”というひとつのきっかけが、The SALOVERSの初期に芽生えた純粋な部分を引き出したのだと思った。あのときわたしは「The SALOVERSは自分たちの守り抜きたいものをちゃんと掴んだんだ」と心の底から心が躍った。もしかしたら、このときにはもう活動休止を決めていたのかもしれない。


The SALOVERS – シンセサイザー

未来を決めた人間は清々しい。The SALOVERSの『青春の象徴 恋のすべて』もそうだ。活動休止を決めた人間の出す清々しさがある。ずっと焦燥ともやもやをかき消そうとしていたThe SALOVERSが、最後の最後にものすごい大きくて気持ちいい音色を鳴らしている。スロウでセンチメンタルな【セイタカアワダチソウ】も、フォーキーな【ニーチェに聞く】も、ノスタルジックなメロディとギターが大きく響く【さらさら】も、がむしゃらに突っ走る【千客万来】や、軽快なパンク・ナンバー【パーカーの子】も、どの曲も全部音が優しいし、「The SALOVERSは楽しいよ」と語り掛けてくるようだ。それはひとつの“解放”なのかもしれない。「こんなにいいアルバムなのに、無期限活動休止なんて」と思ったけど、すぐに「活動休止を決めたから、こんなにいいアルバムを作れたんだろうな」と思った。最後の最後で、The SALOVERSは4人揃って、しっかりとその足で着地することができた、バンド史上最高傑作を作ることができたのだ。

The SALOVERSという本はここで閉じられてしまうが、4人のストーリーは止まらない。無期限活動休止を決めてまで作ったアルバムが、これだけ快作なのだ。こんなに掛け替えのない幼馴染とバンドをけてきたという事実、そしてそのバンドを愛してくれる人々がたくさんいるという事実で、きっと4人はこの先、力強く歩いていけるだろう。無期限活動休止前、最後まで音楽に対して素直なバンドだったことを、そして最後に“自分たちらしさ”を最上の状態で形にしてくれたことを、心から嬉しく思う。(沖 さやこ)


The SALOVERS – 千客万来


The SALOVERS – Disaster of Youth

 

◆Disc Information◆

The SALOVERS/青春の象徴 恋のすべて

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