People In The Boxが最新2作で説く多義的な物語 ――波多野裕文の感性と知性を探る(前編)
◆ひとつの側面を音楽だと思ってほしくない
――Twitterで波多野さんによる歌詞に関する自己分析を拝見しました。波多野さんは歌詞に関していつも多くは語らないので、今回は言及なさることが多いのが少々意外でした。
歌詞の内容に対してひとつひとつ説明を加えるのは、僕にとってはすごく難しいんですよ。それはもう、作るときに説明をしなくていい状態まで持っていこうと思っているので、それ以上自分から説明する理由はないというスタンスなんです。自分がどういう気持ちで作っているかを話すのは野暮ったいなと思ってたんですけど、その作り方や姿勢はちゃんとアピールしていったほうがいいな……と思って。
――それはなぜ?
歌詞は開発されてない部分がすごく残っている分野だと僕は思っていて。だいぶ前からなんですけど、僕はそれに対して鍛錬をするのが、すごく好きなんです。どこに重きを置くかは、バンドや音楽家によって全然違うと思うので、それを一義的に捉えてほしくないという思いがすごく強くあるんですよ。特に若い人には、ひとつの側面を音楽だと思ってほしくない。だから「僕はこういう気持ちで作ってるよ」「みんなが同じ気持ちで歌詞を書いているわけじゃないんだよ」というのをすごくアピールしたい(笑)。それを作る人が言うのは大事かなー……と。本当は「批評」がそういうはたらきをするべきだと思うんだけれども、僕の立場としてそれを期待するのは難しいなと思っていて。
――波多野さんは歌詞が抽象的だと言われることが多いですものね。わたしはあの自己分析を読んで「あ、言われてみれば確かにそうだな」と思う部分や、「やっぱりそうなのか」と思うところはたくさんありました。
読む人は「ふーん」くらいの気持ちでいいんですけど……「こういう人がいるんだよ」という提示が作り手からあるのはいいなと思ってる、という感じですかね。TVで流れている音楽もいいんだけれど、「音楽にはそれとは別の一面があるんだよ」というのを――自分のテリトリー内ではあるけれど、言葉にしていって、それをちゃんと残すというのは、やっていったほうがいいかなと最近思っていますね。
――なるほど。「多義的であることが歌の魅力である」というのはきっと、いまも以前も同じなのでしょうけれど、その意味は大きく違うのでは。
いやあ、もう……全然変わってきてますね。いつも明確に「こうしたい」というものがあるので。作品のたびに音楽と歌詞と歌の三位一体具合、ブレンド具合を、そのときそのときのいちばん適正なところに持っていく……という作業をやっているんです。いろんな変遷を経ながら成長していきたいなと思ってるんですよね。『Talky Organs』では「ひとつの視点で書きたくない」と思って、歌詞を書いていきました。
――『Calm Society』と『Talky Organs』は対関係にある作品。「calm(静かな)」と「talky(おしゃべりな)」が反意語の関係にあって、「society(社会)」は「organs(臓器)」の集合体で、「organs」は「society」だと思いました。同じであるべきものが乖離してきているという警鐘を鳴らされているような感覚もあります。
うんうん。僕にとってはこのふたつの関係性は、同じたまごの内側からの視点と外側からの視点、という感じに近くって。たまごは外から見るとすごくつるっとしてて、端整な形してますよね(笑)。でも中は状態によるじゃないですか。ほとんどひよこになっているのか、どろっとした黄身が入っているのか……もしかしたら茹でられてるのか(笑)。僕はこのふたつはそういう関係性だと思っていて。
――2枚で同じものを違う角度から捉えている。最初から2作品を考えながら制作なさっていたんですか?
一応「対になる」というアイディアと枠だけはあったんです。でもその中身がどうなるか、というのは僕は全然意識していなくて。だから単純に『Talky Organs』は『Calm Society』の反動として出来たものとも言えるし……。ただ、この2枚の関係性はうまくいったなと思います。「対になるものにしよう」というのは最初から念頭にあったので、『Talky Organs』は『Calm Society』でやったこと以外のことが入っている。だから言ってしまえば、欠けたピースのでっかいほうを埋めてるだけでもあるんです。
■インタヴュー後編
People In The Boxが最新2作で説く多義的な物語 ――波多野裕文の感性と知性を探る(後編)
5th Single
『Calm Society』
1.海はセメント
2.数秒前の果物
3.きみは考えを変えた
2015/03/11 release
ZNR-137 ¥1,000(+tax)
*ライブ会場・残響ONLINE STOREのみの販売となります。
5th mini album
『Talky Organs』
1.空は機械仕掛け
2.セラミック・ユース
3.机上の空軍
4.映画綺譚
5.野蛮へ
6.逆光
7.季節の子供
2015/09/02 release
CRCP-40428 ¥1,852(+tax)