雨のパレード/TOKYOGUM -2015.7.24 at TSUTAYA O-nest
雨のパレード/TOKYOGUM
release tour final 『肥大する夜』
2015.7.24 at TSUTAYA O-nest
雨のパレードが全国8箇所に創造したバンドとリスナーの新たな居場所
取材・文:沖 さやこ
撮影:小川 愛晃
2010年代のバンドは聡明な若者が多い。ほとんどのバンドマンが「この時代で音楽を続けるために、自分たちはどうしていくべきか」を考えている。ただ「どうするべきか」を考えることで人の目を気にしすぎて、本当にやりたいことを見失ってしまう者もいる。だが「どうするべきか」を考えることは、自らが追求したいものや向かうべき道筋をクリアーに見定めることことができる手段でもあると思う。雨のパレードもTOKYOGUMも、後者ではないだろうか。葛藤と挑戦を繰り返しながら着実にそこへ向かって歩いている。
7月1日に3rdミニアルバム『new place』をリリースした雨のパレードが約半月で全国8箇所を回ったツアー「肥大する夜」のファイナル公演、同じく残響record所属の盟友TOKYOGUMはその競演に選ばれた。筆者が彼らのライヴを前回観たのは、昨年秋にZepp DiverCityで開催された「残響祭 10th ANNIVERSARY」。あれから1年弱、それぞれいろんな想いを感じながら活動を続けてきたであろうことが如実に表れていた。
先手はTOKYOGUM。1曲目【チェスコ】のギターを舘 洋介が奏でた瞬間、あたりが青に染まったような気がした。その青とは、青空や清い海の色。この曲で彼は〈清い感情をなくしてしまった〉と歌っているが、わたしにとってTOKYOGUMは“清らか”という言葉がとても似合うバンドだ。切なく微笑むようなあたたかさのある彼の歌声とギターに、骨のようにバンドを支え曲を引き立てる鈴木 朗のベース、太くて大きい藤本 光太郎のドラム。いまにも崩れそうな繊細な世界に、寄り添いながら力強さを注ぎ込むのはリズム隊だ。この土台があるからこそ、舘の発する音は輝くことができる。【腐海前】は波のゆらめきのような、雄大な美しさだった。
MCで舘は、フロアの後方にいた雨のパレードの福永浩平に声を掛ける。福永から「俺と会話すんな(笑)」とつっこまれた彼は、そのあと「ちょっと緊張している」と語った。アッパーな【MILKY】は喜怒哀楽がない交ぜになって溢れだし、その不安定さが疾走感を生む。だが、そこに3人の意地のようなものを強く感じた。スリーピースとは思えないほどの厚みは、メンバー全員の精神力ゆえだ。そしてTOKYOGUMの曲には、どれにも強く他者の存在がある。彼らは生活のなかで人に向き合い、様々な気持ちを抱き、それを真摯に受け止めて自らの血肉にしてきたのだろう。だから彼らの音に触れると、心の奥が震えるのだ。9月にリリースされる新作のタイトルが『涙』というのも、とてもTOKYOGUMらしい。涙は喜怒哀楽問わず、感情とともに溢れるもの。彼らの音楽は涙と同様なのだ。その新作に収録されるという【青】では、剥き出しの激情が、消えない火傷のように心に焼き付いた。
ラストは代表曲のひとつ【かける鳥】。曲が強い意志を放ち、訴えかけているようだった。全9曲、何度も音に吸い込まれる瞬間があった。TOKYOGUMは感じた想いや重ねてきた人生をすべて音楽にできるバンドだ。間違いなくまだまだ進化する。
そして進化していくのはこのバンドも同じだ。この「肥大する夜」の首謀者である雨のパレード。ドラムセットの前についた大澤実音穂がSEに合わせてリズムパッドを叩き始めると、そこに是永亮祐がベースを、山﨑康介がギターを重ねて幻想的な空間を作り出して新譜から【encore】。フロアひとりひとりの顔をしっかり見る福永は、3人の奏でる音に身を任せて歌を歌う。続いて【bam】は緑色の照明のなかでミラーボールが回り、その色で染まる男性陣3人の着ている白い服はキャンバスのようだ。残響祭のときは福永は楽曲の主人公になり切るような、ストーリーテラーとしての役割を背負っているように見えたが、この日は福永個人が歌っているように見えた。それは『new place』という、自らの心情を綴った作品を作ったことも影響しているのかもしれない。
ツアーの充実を語った福永が「今夜は一緒に長い夜を共有できたらなと思います。それでは“雨のパレード第2幕”へ」と言い、緊張感のあるギターのカッティングとポエトリーリーディングが特徴的な【10-9】。歌詞を変えているわけではないのに、福永はいま現在の言葉と気持ちで話しているようだった。過去の自分が書いた既存の言葉で、新しい何かを生もうとしている。そんな姿に、バンドを背負うヴォーカリストとしての存在感を感じた。是永はギターとドラムの間を行き来しながら結びつけるように低音を展開。彼の奏でる音色は、雨のパレードという大きな宇宙のなかを通う交信のようだ。
開放感のある【YES】~【inst/□】~緊迫感とやわらかさのコントラストが美しい【僕≠僕】と、軽やかながら突き刺す力のある大澤のドラムが効果的に響き、山﨑も音色を巧みに操り、曲の奥行きをつけてゆく。4人全員が楽曲を輝かせることに徹しているのが雨のパレードだが、そのアンサンブルも『new place』という作品を気に少しずつ変わっていくかもしれない。「ここで(雨のパレードと観客で)一緒に新しい居場所が作れたと思っている」と福永が言っていたが、自分たちの世界を確立し育む彼らが、その世界のなかにリスナーの居場所も作ったのは大きな変化だと思う。【new place】は背景に鮮やかな色彩で溢れるMVが映され、それに染まるメンバーは視覚的にも音楽に同化していた。
12月20日に代官山LOOPで自主企画イヴェントの開催を発表すると、福永が鍵盤ハーモニカを奏でる壮大な【夜の匂い】で本編を締める。彼らが想像する心地よすぎる空間は本当にあっという間で、叶うならこれが永遠に続けばいいのにとさえ思った。アンコールでは「1曲だけやらせていただこうと思います。ミュージックビデオがある曲があと2曲あるんですけど、どちらにしましょうか」という福永の言葉に対して、フロアから控えめかつ次々上がる「両方!」の声。バンドはそれに応えて【ペトリコール】と【揺らぎ巡る君の中のそれ】の2曲を演奏して、ツアーファイナルを締めくくった。雨のパレードもTOKYOGUMもまだまだこれからもっと新たな力を手に入れていくだろう。暑い夏の夜、才能溢れる2バンドの羽化の直前を目の当たりにしたのだった。
◆雨のパレード official site
◆TOKYOGUM official site