マルチクリエイター・白神真志朗が切り取る“満たされていない人々”の生活

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ms_201808_1マルチクリエイター・白神真志朗が切り取る
“満たされていない人々”の生活

 

シンガー、ベーシスト、コンポーザー、アレンジャー、レコーディングエンジニアなどを一手に担うマルチクリエイター・白神 真志朗。美術にも造詣があり、彫刻や絵画、写真などのアートワークも手がける彼が、ソロアーティストとして2作品目となるミニ・アルバム『雨が降るから、今日は』をリリースした。今回ワンタンマガジンでは多才な彼がソロ活動を始めた経緯、作品に反映された精神性を探った。「ラヴソングに興味がない」という彼はなぜ1作品目で性愛をテーマにした楽曲を作ったのか? そしてどのような流れで今作に至ったのか。彼が所有するプライベートスタジオ・studio edenにて話を訊いた。

取材・文 沖 さやこ
撮影 nishinaga“saicho”isao(website
取材協力 studio eden

 

ms_a_photo白神 真志朗(しらかみ・ましろ)
シンガー、ベーシスト、コンポーザー、アレンジャー、レコーディングエンジニアなど、様々な顔を持つマルチクリエイター。美術にも造詣があり、彫刻や絵画、写真などのアートワークも手がける。自身のバンド「ステラ・シンカ」を軸に様々な活動を経て、2017年2月初のソロアルバムをリリース。東京に暮らす人々と、その人間関係を描いた作品が好評を博した。ベーシストとして「じん」や「まふまふ」といった著名アーティストのレコーディング、ライブサポートを務めるほか、作曲家としては「花澤香菜」への楽曲提供やアニメーション作品での劇伴制作、編曲家として「下和田ヒロキ」「分島花音」らの作品に参加するなど、活動は多岐に渡る。

 

◆ラヴソングに一切興味がない

――studio edenは真志朗さんのご自宅兼レコーディングができるプライベートスタジオということですが、賃貸なんですよね? 建物にはだいぶ手が加わっているように見受けられます。

値段のわりに敷地や建物面積が広くて、手を加えることにも寛容な家を探しました(笑)。大家さんに交渉したら「借りてくれるならなにをしてもいいよ」と言っていただいて、ここに決めました。でも大家さんが当時と変わってしまって、出て行くときに「原状復帰しろ」と言われたらどうしようかなと思っているところです(笑)。

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studio eden コントロールルーム

――ははは。ここですべてのお仕事ができるんですよね。

もともと一緒にバンドを組んでいたメンバーがドラムを叩けるスタジオを借りていて、そこでレコーディングもしていたんですよね。その彼がバンドから抜けたタイミングで、自分の制作環境をキープして整えるために構えました。越してきて丸4年経ってだいぶ機材も増えてリハもレコーディングもできるだけでなく、白壁だから撮影もできるし、広いから今回のジャケットみたいな粘土細工を作ったり絵の具で絵を描くスペースもあるし。自分の制作活動に関してはだいたいなんでもここでできるくらいにはなりました。思い立ったときに思い立ったことをやりたい性分なので、ストレスなく活動できていますね。今のところ自分のプロジェクト以外は、つながりのある人から「エンジニアを頼みたい」と言われたらやらせてもらっている、という感じです。

――プライベートスタジオを構えて、ソングライターとして、バンドマンとして、サポートベーシストとして、エンジニアとして、ヴォーカリストとして……などなど様々な活動をしている真志朗さんは、なぜソロアーティストとしての活動を開始したのでしょうか。

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白神 真志朗

まず遡ると、バンドが好きでバンドをやっていたんですけど、メンバーがどんどん減っていって、増やしても減って……(笑)。わざわざ新しいメンバーを探すのではなく、とりあえずいまいる人間だけで活動をしていこうと思って、ドラマーとふたりで始めたバンドがステラ・シンカなんです。そのドラマーがダンスミュージックが好きだったので、初期はROVOみたいな生ドラムでもクラブミュージックと親和性の高い音楽を目指して活動していたんですよね。

――ステラ・シンカはそのあとにドラマーさんが変わって、そのドラマーさんも脱退なさって。

僕ひとりになってからサポートでドラムとピアノを入れて3ピースで活動していたんですけど、いろいろあってレコーディング中に制作が頓挫してしまったんですよね。そんなときに岸田教団&THE明星ロケッツの岸田さんから、「ラヴソングを書けよ」と言われたんですよ。僕はラヴソングに一切興味がない人間で。

――インタヴューなどでもそうおっしゃっていましたね。

自分が嫌いなものって、なにが嫌いなのかわかっているぶん、よく分析できているんです。構造を理解しているものは、自分にとって刺激的ではない。だから自分が嫌いなものはうまく作れる――という理屈を岸田さんから話してもらって。それで試しに1曲作ってみて、それを当時の事務所に聴かせたら会社全体でリアクションが良かったんですね。それが今回のアルバム『雨が降るから、今日は』のM1【ピロートーク】の原型なんです。でも実演奏を軸としたサウンドメイクをしていなかったので、これではバンドはできないなと。それでしばらく作品制作がほとんどを占める音楽活動になるなと思って、いまに至りますね。

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思ってもないようなことは書きたくないし、いいと思っていないようなことをやりたくはない

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