THE NOVEMBERS/ねごと/Awesome City Club-2015.8.28 at LIQUIDROOM ebisu
THE NOVEMBERS/ねごと/Awesome City Club
THE NOVEMBERS PRESENTS 首 Vol,8
2015.8.28 at LIQUIDROOM ebisu
7年ぶりの「首」で邂逅する2010年代における三種のポップ
取材・文:沖 さやこ
撮影:Yusuke Yamatani
コンセプトが確立していて、ポリシーの貫かれた企画ライヴは素晴らしいと思う。最近は「これだけかっこいいバンドを揃えたから、このなかからお好きなものをご覧くださいな」というスタンスのイヴェントやフェスをしばしば見掛ける。10年くらい前のわたしにとっては何ステージもあるイヴェントは革命的で、「選り取り見取り、なんて贅沢なんだ!」とも思った。だが3年ほど前、某企画ライヴに仕事で行ったときに「出演者4組」という枠のなかでのバランス感、4組のキャラクター、出演順などが作り出す、イヴェントそのものを丸ごと純粋に味わう面白さを感じた。見事なブッキングだった。なんとなく、頑固おやじの作る定食と似ているなあ、と思った。このおかずにはこの付け合わせをこの量で、これをすべて頂いたときに得る満足感と近いものを感じたのだ。そろそろバイキングもおなかいっぱい。作り手(企画者)のプレゼンする空間に身を投じて、そのなかで楽しむ――そこに企画者と観客の気持ちの通い合いや、コミュニケーションが成立するのではないだろうか。近年のイヴェントに欠けがちな「このバンドを観てほしいんだよ」という企画者側の意志が見えるものに強い魅力を感じる、というのが最近わたしの思うところだ。
このイヴェントもそうだ。THE NOVEMBERSの自主企画イヴェント「首」。約7年振りの開催に招かれたのはねごととAwesome City Club。最初は意外な気もしたが、すぐに腑に落ちた。今年に入ってからのTHE NOVEMBERSはフットワーク軽く様々なアーティストと競演と共演を果たしているし、楽曲のタイプは違えども、ねごととAwesome City ClubにもTHE NOVEMBERSに通ずる精神性やバックグラウンドがある。加えて、誤解を恐れずに言えば、共通のファンがそれほど多くないとも思う。だからこそ面白く、見事な組み合わせだと思った。聴き手の音楽の世界を広げる、それをアーティスト自身が行う。とてもクリエイティヴだと思う。
トップバッターはシティポップの新星とも言われるAwesome City Club(以下ACC)。ポップな楽曲のなかで5人の出す音は、一音一音が清く鋭く強い。それに何度も風を感じた。心地よいそよ風、被っていた帽子を吹き飛ばすような鮮やかで瞬発的な突風、走りたくなるような追い風――時にはこちらを異次元に吸い込んでしまうような感覚もあった。それが極上の理想郷を立ち昇らせていた。キュートで隙がないPORIN(Vo/Key)のポップアイコン的なキャラクターや、バンドの結成までの経緯も影響して、テン年代のバンドによく見受けられる「頭脳明晰で自己プロデュースが高い」という側面が注目されがちだが、彼らの根源にあるのは「自分たちの音楽でこの大都会を塗り替えたいという」とてもピュアで壮大な野心なのではないだろうか。一帯をロマンティックに染め上げる【Lesson】、ファンクテイストの【WAHAHA】と続け、ヴァイオリンを取り入れた新曲の【アウトサイダー】はさらにドラマ性を増したポップソング。ラストの【涙の上海ナイト】まで、ACCは自らの世界を貫いた。
続いては今年デビュー5周年を迎えるねごと。彼女たちの音楽も極上にポップだが、ACCが海外の空気を存分に吸収した音楽なら、彼女たちの音楽はメロディや譜割りに日本的なキャッチーさがあり、そしてその現実世界にどこか行き場のない歪さを孕んでいる。去年までの彼女たちはその処理の仕方を模索しているようにも見えたが、4人は最新アルバム『VISION』で「音楽を楽しむ」というストレートで純粋な気持ちに立ち返ることができた。ゆえにその歪さも素直に出すことができるようになり、最近はライヴにもポップで可憐なだけではない、逞しさや躍動感が生まれている。【GREAT CITY KIDS】では蒼山幸子(Vo/Key)がハンドマイクで観客にコール&レスポンスを求める。彼女がハンドマイクでパフォーマンスをするようになったのは去年からで、彼女たちの変化のシンボル的なものでもある。1年前とは見違えるほど堂々とした彼女の姿に、ねごとがこの1年間の挑戦で自分たちのキャパシティを広げ、いろんなものを掴むことができたことを確信する。この日のセットリストも去年から今年発表された楽曲で構成されていたのも、いまのモードに手応えを感じているからではないだろうか。彼女たちの神髄でもある【ループ】【カロン】はさらにダイナミックに研ぎ澄まされ、締めの【Time Machine】【憧憬】とエモーショナルな空間を作り上げた。まだまだ輝き続けるであろう可能性が眩しかった。
そしてトリはこの日の首謀者THE NOVEMBERS。小林祐介(Vo/Gt)はMCで「今日の自分たちなりのテーマはポップ」「綺麗なものをリスペクトしている」と言っていたが、この日の彼らのライヴには清涼感やポジティヴな空気があった。1曲目の【Misstopia】の出音から、観客をあたたかく招き入れるようで、一気に空間が華やぐ。ケンゴマツモト(Gt)のアルペジオも幻想的。うわものを優しく撫でるなめらかな高松浩史(Ba/Cho)の低音、それをシックにまとめる吉木諒祐(Dr)のリズム。丁寧な演奏は、4人が4人で音を鳴らしていることを、ひとつひとつで確かめているようでもあった。続いて10月にリリースされる『Elegance』に収録される新曲を披露。その場の第一印象は『GIFT』に収録された【Harem】にさらに躍動感をプラスしたような、とても瑞々しい楽曲だった。【Rhapsody in beauty】もいつものスピード感に、雨上がりの景色のような爽やかさや晴れやかさが加わる。音の巻き起こす見えない力で身体が浮かび上がる、そんな感覚がした。
小林が「皮肉ではなく、僕たちなりのポップ……僕がポップだと思う曲を爆音で演奏します」と言い、【鉄の夢】【Blood music 1985】【Xeno】とダークサイドでひりついた楽曲を畳み掛ける。だがその固い結束が作り出す激しい音は、小林の言うようにポップだった。自然と身体が動き出す、音に身を任せたくなる――THE NOVEMBERSのライヴで踊りたくなった。何度も彼らのライヴを観てきたが、こんな気分になったのは初めてだ。思考を吹っ飛ばす狂乱や快楽が、とても純粋で美しかった。だからこそ本編ラストで演奏された【GIFT】の歌詞にある〈まだまだ僕らは/まだまだこれから〉という一節が、とてもシンボリックに映った。当時の「まだまだこれから」という願いは、いまの彼らにとって「まだまだこれから」という確信に変わっているのではないだろうか。地に足の着いた穏やかな音が、堂々とそう告げているようだった。アンコールでは『Elegance』からもう1曲新曲を披露し、【Romancé】で締めくくった。もともとTHE NOVEMBERSはやわらかい楽曲と激しい楽曲とい振れ幅を持っているバンドだったが、激しい楽曲のなかに明確にポップ感が出てきたのは、バンドにとって変革だとも思う。結成10年、バンドとしても人間としても、ひとつの成熟期を迎えてきているのかもしれない。
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