ゼッケン屋-2015.11.21 at 東京キネマ倶楽部

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ゼッケン屋ワンマンライブ 「Return To “Z”」
2015.11.21 at 東京キネマ倶楽部

フロアとステージの相思相愛がもたらした笑顔溢れる夜

取材・文:沖 さやこ
撮影:コボリ マサノリ(PHOTO STUDIO KOBO)

 

知る人ぞ知る秘密基地、と言える空間だった。石鹸屋の秀三(Gt/Vo)の個人サークル「ゼッケン屋」、約1年振りのワンマンツアー。今回ファイナルの会場に選ばれたのは東京キネマ倶楽部。グランドキャバレーの跡地を利用して作られたライヴハウスである。暗転するとステージの下手上にあるサブステージから狐夢想(Key/Cho)が登場。彼が定位置につきSEを流すと、秀三、小林ヒロト(Gt)、内山博登(Ba)が現れた。秀三と小林はタキシード、内山と狐夢想も正装を崩した衣装で、キネマ倶楽部の雰囲気にもよく合っている。そして会場との相性の良さは、楽曲も同様だ。1曲目【黙る動物】から妖しげなムードを出し、続いて【ムーンモンガーは狂わない】はハードロック然としたギターにダンスビートが絡み合い、独特の催眠空間を生み出す。何もかもが異質な空間に、妙な胸騒ぎがする。

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秀三が「最後まで勝って終わりたいと思うので、そのためにはみんなの力が必要です。最後までよろしく!」と告げると、彼と狐夢想の絶叫の掛け合いも見物の【雷鼓発仁】、観客のシンガロングも轟いた【少名レジスト】と畳み掛ける。【Plelude To Spear】は秀三の高音がまっすぐ伸び、力強い歌が吹き抜けのキネマ倶楽部に綺麗に飛んだ。MCではこの曲を筆頭にした冬にオリジナルで8曲入りのコンセプトアルバムを制作することを発表し、フロアを大いに沸かせる。最新作からプログレ的な展開の【位相乖離・破裂・虚構霧立】、センチメンタルな【春を告げる花】でじっくり聴かすと一転、狐夢想がハンドマイクで歩き回りながら歌う【サンシャイン地底】でコミカルなアプローチ。必死に歌い叫ぶ狐夢想を後ろで眺める秀三の姿もなんともシュールであった。

MCを挟んで内山のバキバキのスラップベースから【Step On Slap】。温和な笑顔を浮かべるメンバーたちから、無理せず自然体で音楽を楽しんでいる様子が伝わってくる。一気にテンションを上げるとキラーチューン【エイリアン・イン・ザ・ミラー】につなぎ、赤と青が点滅する照明もトランス状態を誘発。熱いギターソロには大歓声が沸き、キネマ倶楽部は言葉通り揺れた。そのあとはインスト曲【Greenwich On Fire】【秋に穂を垂れる黄金と】を披露。リードギターを奏でる秀三を久し振りに眺められる感慨に浸る。悠々と心地よさそうに演奏する姿も印象的だった。

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台詞を挟んで【天の光は、ほぼ私】【この暗く閉じた世界から、君へ】【上海コーリング】と聴き進め、ふとゼッケン屋のアレンジ曲には絶妙なテンションの曲が多いなと思う。メロディを立てるアレンジゆえに狂乱するには切ないし、だからと言ってただ悲しみに耽るわけでもない。不均衡な空気感が、キネマ倶楽部の非現実的な空間と合致していた。だからこそ、力強く突き抜けるゼッケン屋の初期曲【ハイコートポロロッカ】が肯定的な意味で異質に響く。偉大な爆発力が痛快だった。【Revine To「H-C」】でさらに会場を盛り上げ、【ファフロツキーズの奇跡】でパワフルかつじっくりと本編を締めた。

アンコールでは内山が2009年2月20日に東京キネマ倶楽部で行われた石鹸屋と音影のツーマンライヴで初めて石鹸屋のライヴを観たというエピソードを話す。「そのキネマ倶楽部で僕の隣に秀三くんがいて……すごいよね! ありがとう」と告げると、フロアからは大きな拍手が起こった。そのあとに秀三がイカのコスプレをして登場すると、観客から「かわいい~!」という大歓声。そして今回のライヴがDVD化することと、そのリリースを記念してツアーを行うことを発表し、最後に【ヤクプリ】【THE LEGEND OF HAKUREI-CHANG】を届けた。終始とても和やかな空気が流れるライヴだった。ただ欲を言えば、もう少しエッジが効いてテンションが振り切れた秀三も見てみたい。今後彼らがどんな音楽を作り、観客とともにどんなライヴを作っていくのか。可能性は未知数だ。

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