声はかたちを持たない自由自在の“楽器”――アカペラノススメ・前編
声はかたちを持たない自由自在の“楽器”――アカペラノススメ・前編
文:みきちぱんだ
(フリーペーパー『アカペラノオト』編集者)
ONE TONGUE MAGAZINEをご覧のみなさま、はじめまして。“みきちぱんだ”といいます。静岡で社会人をやりつつ、週末は『アカペラノオト』というアカペラバンドを取り上げたフリーペーパーの制作をしています。
多くの方は『ハモネプ』でのアカペラブームをご存知かと思います。私も例にもれずそのコーナーを通して知り、約15年この音楽形態に注目してきました。しかし内々で楽しめる場所は年々増えていますが、外向きの発信源が少なく、音楽やライヴが好きな人には届いていないのではないかという考えを持っていました。そこで、ジャンルフリーの音楽メディアから発信することはできないか?と考え、この場をお借りすることになったわけです。
私はアカペラのみならず、ギターなどの楽器を含むバンドのライヴにもときおり足を運びます。ウェブメディアでの情報発信の拡大によりTwitter、You Tubeなどでまたそれらの音楽を耳にする機会が増えてきました。ロックバンドのライヴはしばらく行く機会がなかったので不安はありましたが、フロアの後方より見えるメンバーとファンの様子に、やはり音楽の楽しさは形態で語られるものではないなぁ……と。好き・嫌いはさておき、どんな音楽も知らないよりは知っていた方が数百倍たのしいです。音楽情報のひとつとしてアカペラバンドに触れる機会が、このコラムから増えてくれたらと思います。そしてライヴに足を運んでほしい。CDも買ってほしい。願わくはファンになってほしい……というのが、私の目論見です! というわけで、手始めに私とアカペラが如何にして出会い、その魅力を知ったのかを綴りたいと思います。
◆楽器がなくてもドラムができる“ボイス・パーカッション”
高校1年生の私は舞台の世界に興味があり演劇部に入部しました。しかし、あこがれとは少し遠かった母校の部活動。はじまったばかりのこの青春を費やせるものが他にあるだろうかと悩んでいました。ふと音楽はどうだろうと思い立ち、小学生のときに鼓笛隊で小太鼓を叩いた経験から、ドラムに挑戦したくなります。すると軽音楽か吹奏楽の2択が浮かび上がりましたが、ロックが好きなわけでもなく吹奏楽も敷居が高そう。なによりお金がかかるなぁ……と悶々。そんな時にテレビで目にしたのが『ハモネプ』でした。そこでボイス・パーカッションを目にし、こう思ったのです。「楽器なくてもドラムできるのか!」――この盛大な勘違いこそが私とアカペラの出会いです。
その不思議でめずらしい音楽に魅かれすぐさま同級生に声をかけますが、各々の部活が忙しくバンドを組めないまま時間が過ぎていき、そのうち弟が先にバンドを組み上達していきました(苦笑)。そこでひとまずバンドを組むのをあきらめ、当時活躍していたバンドのテレビ出演をとにかく録画し、次第に聴くことに専念するようになっていったのです。CDの発売日には授業が終わるのが待ち遠しかったし、静岡ではライヴはほぼないので、東京に観に行っていました。YouTubeの『アカペラ・本気でやってみた』シリーズで話題となったINSPiのライヴも、それはそれは足繁く通ったものです。
【譜面付き】アカペラ・DRAGON NIGHTドラゴンナイト(SEKAI NO OWARI cover)INSPi【本気でやってみた】
◆音程が取れているからハモるとは限らない……アカペラの奥深さ
そんな私にも社会人になってからようやくアカペラバンドを組む機会がやってきます。しかも2回も! どちらも3か月ほどで活動を終了しましたが、アカペラの難しさを体感するには十分な期間でした。声だからこそ出せる魅力は、なんといっても“ハモる”の語源である「ハーモニー」です。合唱は授業にあったし、アカペラに出会う以前はゆず、CHEMISTRYなども聴いておりハモるという言葉も身近にはありました。「音が取れればすぐにステージに立てるでしょ♪」と思っていたのです。ところが、いざ歌ってみるとハモらないのです。厳密に言うとハモって聴こえないのです。みんな音は取れているのになぜ! 私がいままで授業でやってきたあれは、ハモるではなかったのか!? と、ひとりひとりの声を持ち寄って歌うことがとてつもなく難しいということを思い知ったのです。手軽でかんたんそうだと思ったのに!
音楽経験者であれば音取りに難はないのですが、発声や声色までもが大きく関わってくると知ったのはごくごく最近のこと。それらを全員で統一し、息を合わせることが前提となってくるのです。これはきっと楽器バンドにも共通しているのではないでしょうか。声という楽器を合わせて音を鳴らすこと。それができることで、はじめてアカペラという音楽になるのです。この難しさや、一筋縄ではいかない点が、多くの人が夢中になる要因となっているのでしょう。
◆声はかたちを持たない自由自在の“楽器”
またボイス・パーカッションのみならず、ベース、ギター、ハーモニカ、トランペットなども声で表現――様々なパートに自らが成り代わることができるという自由自在な点も魅力に感じた理由のひとつです。コーラスにオリジナルの歌詞をつければ自分たちなりの解釈で伝えることができ、アレンジ次第でロック、ジャズ、ファンク、クラシックも演奏できます。ギターに尖った音とやわらかな音があるように、人の声も怒れば角がつき優しければ丸くなる。人の声は楽器と同じくらい音楽を奏でることができる。それに気付くことができたのも、アカペラに出会ったからです。もちろん楽器に比べたら迫力は劣るかもしれないですが、それもそれでいいのです。にんげんだもの。いま思えば、身体ひとつで表現するという点も、演劇と近いものを感じたのかもしれません。
では、ハモることのすごさを知らなければアカペラの良さがわからないのか?と言えば、もちろんそんなことはないです。そのために様々な編成、ジャンル、ステージングを兼ね備えた幅広いバンドがいるのです。後編ではいくつかのバンドを紹介しながら、あなたの好きなアカペラバンド探しのお手伝いをしていきます。
>> アカペラノススメ・後編――アカペラも情熱的なロックができる!
◆アカペラノオト information
2014年4月から制作スタート。アカペラ好き数名で完全ボランティアで制作している、アカペラ情報のフリーペーパーです。プロ・アマ問わずインタヴューやイヴェントレポートを掲載。CD紹介等の連載もあります。次号は秋頃の発行予定。詳細はオフィシャルTwitterにて。
発行日:不定期発行(年に2~3回)
設置場所: TOWER RECORDS 渋谷店・静岡店・あべのHoop店・モレラ岐阜店/新星堂アクアウォーク大垣店/アカペライベント会場 など
Twitter:@acappelllanote
制作協力:A-realize
バックナンバーのお問合せはこちらへ→acappellanote(at)a-realize.com
※画像は2015冬に発行したものです。