アカペラも情熱的なロックができる!――アカペラノススメ・後編
アカペラも情熱的なロックができる!――アカペラノススメ・後編
文:みきちぱんだ
(フリーペーパー『アカペラノオト』編集者)
読者のみなさまこんにちは。『アカペラノオト』というアカペラバンドを取り上げたフリーペーパーの制作をしている、みきちぱんだと申します。アカペラの魅力を知ってもらうきっかけを増やしたい! という想いのもと前後編でお届けする「アカペラノススメ」。後編をスタートしてまいります。
>> アカペラノススメ前編――声はかたちを持たない自由自在の“楽器”
さて、ここをご覧のみなさまはロックバンドを中心に聴いている方が多いと思います。そんな方々はアカペラというとゆったり&しっとりなバラードで、大人しい印象をお持ちの方が多い気がしますが、実はアカペラにもロックができるんです!
例えばゴスペラーズ。彼らの代表曲と言える【ひとり】はその美しいバラードハーモニーで多くの人を魅了しました。実は、私が最初に聴いたアカペラ曲はこれ。しかしその頃は「男性がきれいな声で歌っている」という感想しか持てませんでした。はじめてゴスペラーズのCDを買ったのはそれから4年後のことです。聴くとアップナンバーも多く、ライヴへ行けばステージ上で振り付けをするようなダンサブルな一面も持っていたことに驚きました。もちろんきれいなハーモニーを堪能するにはベストなのですが、アカペラはラブバラードのために用意された形態ではございませんっ! 後編は、アカペラという形態でどのような音楽が作られ、どんなバンドがいるのかを紹介していきます。
まずは編成です。スマホアプリによる多重録音での1人アカペラも流行っていますが、ここではベーシックに複数人によるバンド形式を見ていきます。アカペラバンドの編成は大きく分けて「男声バンド」「女声バンド」「混声バンド」の3つ。人数は3~6人で、ここにそれぞれのテーマやキャラクターをつけ、多くのアマチュアバンドが生まれているのが、昨今の日本のアカペラシーンです。最近では、ヴィジュアル系の装いをしたバンドが人気を博し、L’Arc〜en〜Ciel等のカバーをしていました(2015年秋に放送されたハモネプにも出演したので、ご覧になった方もいるかもしれません)。装いで言えばオタクのコスプレでアニソンをカバーしたり、戦隊コスチュームで地域を盛り上げるバンド。『おかあさんといっしょ』を思わせるようなお姉さんをリードヴォーカルに置き、童謡を演奏するバンド、ジブリ映画の曲だけをカバーするバンドなどなど、こういった多くのバンドがいるおかげで、年齢の壁はなく誰でも楽しめる形態となっています。
それでは、プロにはどんなバンドがいるのでしょうか。派手なキャラも装いもせず、体ひとつで勝負するバンドがたくさんいるんです。もちろん楽器のバンドに比べれば断然、数も少なく、その活躍もなかなか知られていないことが多いです。とは言えふだん楽器バンドを見ているみなさんには、ゆったりとした雰囲気になかなか馴染みがないと思います。そこで今回は、ライヴでの情熱度が高いバンドをそろえてみました。完全に私の独断と偏見ですが、期待のバンドたちです!
情熱度☆…ヴォーカルグループPermanent Fish
Permanent Fish「この出逢いのため」
アカペラの基本である“美しいハーモニー”を楽しむならまずは彼ら。Permanent Fishは、学生時代にアカペラサークルで活躍していたメンバーを中心に結成された男声6名のバンドです。結成の地・神戸が港町であるからか、海や風など自然を感じさせるさわやかなハーモニーが特徴。ゆっくりと自分を思い返して見ることが必要なときはぜひ、じっくりと音楽を届けるこの6人のハーモニーに癒されてほしいです。最新アルバム『この出逢いのため』には、感情の揺らぎをひとつひとつ包んでくれる、柔らかなハーモニーの海を漂えます。最近はスタンディングライヴも試みており、同アルバム収録の最大の情熱曲【BOOM!BOOM!BOOM!】が際立ちます。曲名の通り、サビでブンブンとタオルを振り回しましょう! Shunsukeのボイス・ギター、Takeshiのボイス・トランペットなど、巧妙な音技を駆使したアレンジも聴きどころ。またToseaはcinema staffのギターヴォーカル、飯田瑞規さんの実兄です。cinema staffはテレビ出演を目にして気になり、You TubeでMVも見ていたのでこの繋がりには驚きました。彼らもあなたとの出逢いを待っていますよ。
情熱度☆☆…ウタウタイ集団 SugarS
リアルタイム/SugarS
こちらも男声6名で、関西を中心に活動中。彼らは東京でも主催のライヴを行っているので、関東域の方でもライヴを見れる機会がたくさんあります。一見まとまりがなさそうですが、実は絶妙なチームワークを持っている、楽曲の良さとライヴのおもしろさも魅力的なバンドです。騒がしく真正面からぶつかってきてくれる厳しくてやさしいウタが爽快。ポップとアッパーを兼ね備えた曲はやる気を漲らせるし、不意打ちで繰り出すバラードは心を素直にしてくれる。あなたの日常の応援歌が必ず見つかるはずです。昨年夏にはアカペラではめずらしく、大阪城音楽堂でのライヴにも挑戦。ライヴバンドとしての成長がますます楽しみになる熱演でした。そんな彼らが今年も新たにワンステップ。4月にリリースされたアルバム『アイコトバ』には“愛”をテーマに制作した楽曲を詰め込み、それまでの彼らからは想像できないドキッとしてしまう歌詞も。頑張る人に応援を送りつつも、自らの挑戦心も忘れない彼らから目が離せません。心に元気がないときは、ぜひSugarSライヴで糖分補給を。
情熱度☆☆☆…ヴォーカルバンドJARNZΩ
『徨星』Music Video
JARNZΩは2008年放送の『ハモネプ』で優勝した男声バンド。地元・北海道を飛び出し、いまは東京を中心に活動しています。メンバーは、高校生のときに趣味でアカペラをはじめたTOSHIΩとHIDEΩ、中学生からアカペラ一筋でプロを目指すべく音楽活動をしていたKEIΩ、音楽の専門学校でロックなどを学んだC.ChanΩとSEIYAΩの5人。会場の核を一発で仕留める雄叫びも響かせるC.ChanΩのヴォーカルはバンドの原動力。そこにKEIΩのベースとTOSHIΩのパーカスによる骨太なリズムサウンドと、HIDEΩ・SEIYAΩのコーラスが加われば“ロックなハーモニー”が生まれます。音楽の知識や経験はばらばらですが、この5人が融合しているからこその、声のロック。はじめて出会った時は、声と心を一点に集中し、想いを賭けるJARNZΩというバンドの生命力の昂ぶりに圧倒されました。決して熱さは失わず、アカペラという形態の本来の魅力に加え、荒々しく魅せることにも長けたなんともニクイ5人の声。最近ではループマシンを取り入れて、さらに声を活かしたライヴをしており、いま最もライヴに勢いのあるバンドと言っていいのではないでしょうか。6月から12月までShibuya O-nestにて対バン形式のマンスリーライヴを行うので、ぜひとも1度そのパフォーマンスを観ていただきたいです。
以上です! SugarSとJARNZΩには『アカペラノオト』にインタビューで登場していただいたのですが、彼らの持つ熱さは、日々を生活していく中でも、本当に刺激的な存在となっています。
ところでお気づきですか? 紹介した3組は形態をアカペラとしながらも、アカペラバンドだと名乗っていないのです。彼らはあくまでも「自分たちの想いを最大限に伝える武器」として「声」という楽器を選んでいます。みんな同じようなものだと思われているかもしれませんが、この肩書きこそが彼らの個性と自信です。クールを装ってサラッと歌うだけの音楽だったなら、私はこんなに好きにならなかったと思うのですよね。確かな信念と自分たちの声と言葉を届ける音楽。人だけだからこそ為せる熱さ。そういうバンドを、私はあの「ハモネプブーム」からずっと応援してきました。
“アカペラをいい意味で壊す”という風潮もアカペラ界にはありますが、彼らはアカペラを壊すつもりなんて微塵もなく、ただただ自分たちに磨きをかけ、常に新しい音楽を生み出しているだけなのです。そういうプロが、少なからず日本にもいるのです。
今回はオリジナルの楽曲を中心に活動しているバンドを紹介しましたが、プロでカバー曲のみをレパートリーとするバンドもいれば、アコースティック編成でありながらヴォーカル陣の声を活かし、アカペラをライヴで取り入れているバンドもいます。アカペラを聴く機会は、みなさんが思っているよりも多いはずです。私は演奏する側からあふれた人間なので、アカペラのことを100%わかっている人間ではありません。それでも、ただただ彼らが音に乗せた真っ直ぐな想いを、書くことで伝えていければと思っています。ぜひ、この声から発せられる音楽とメッセージが、これを読んでいるあなたにも届きますように。
◆アカペラノオト information
2014年4月から制作スタート。アカペラ好き数名で完全ボランティアで制作している、アカペラ情報のフリーペーパーです。プロ・アマ問わずインタヴューやイヴェントレポートを掲載。CD紹介等の連載もあります。次号は秋頃の発行予定。詳細はオフィシャルTwitterにて。
発行日:不定期発行(年に2~3回)
設置場所: TOWER RECORDS 渋谷店・静岡店・あべのHoop店・モレラ岐阜店/新星堂アクアウォーク大垣店/アカペライベント会場 など
Twitter:@acappelllanote
制作協力:A-realize
バックナンバーのお問合せはこちらへ→acappellanote(at)a-realize.com
※画像は2015冬に発行したものです。