就職できなかったフリーランスライターの日常(1)

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就職できなかったフリーランスライターの日常(1)

はじめに

私生活上の親しい人たちからちょこちょこと「ワンタンマガジンでエッセイを書いたらどうか」と言ってもらっていました。そのたびにこう思いました。「いやいや、無名のわたしが自分の話を自分の庭で書くなんて、どんだけ自分大好き人間だ、自己主張強すぎるだろ、恥ずかしいし痛すぎるだろ」と。

ですが専門学校に入学して10年、ライターを始めて7年半経ち、ふとシンプルに「自分の活動を振り返って記録するのもいいかもしれない」と思いました。いつものようにカルチャーを主体にした文章ではなく、カルチャーに携わる自分を主体にした文章を書く訓練をしてみたら、またカルチャーを主体にした文章にも変化が及ぶのではないか、と期待もしています。

タイトルの通り、わたしは就職ができませんでした。落ちこぼれの成れの果てのフリーランスライターです。そんな人間の与太話。暇つぶしでもいいですし、あざ笑うでもいいですし、ライターを目指す人の参考……にはならない、というか参考にしないほうがいいかもしれません(笑)。とはいえそれなりには自分なりの人生を送ってきた人間。ひとつの読み物を不定期で書いていこうと思います。夢を目指したい気持ちはあれど「無理かもしれない……」と尻込みする方々が「こんなやつでもここまでこれたなら、自分も行けるかも」と思っていただけたらうれしいです。

(1)書くこと

初対面の人と話すときに必ず聞かれる「なぜライターになりたいと思ったのか」。ほんまに知りたいと思うてんのか、という気持ちと、わたしの話を聞いてもらうのも申し訳ない、という気持ちの両方があり、いつも「書くことと音楽が好きだったので」と無難な受け答えをしている。もちろんそれは嘘ではないが、その言葉の奥にはちょっとしたエピソードがある。

わたしは中学時代から二十歳過ぎまで、重度の対人恐怖症だった。対人恐怖症が抜けてきたことを実感したのは去年の秋頃で、まだまだ自分にとっては過去の出来事とは言えないほどだ。対人恐怖症になった原因は、当時引っ越した先にまったくと言っていいほど馴染めなかったから。都会から越してきた余所者はのどかな田舎では悪目立ちしていたため、目障りな存在だったのだろう。天然パーマやくっきりした目鼻立ち、広い額など、容姿をからかわれることも多く、それを避けるように人との接触をどんどん取らなくなった。人の目も見られなくなった。ずっと俯いていた。顔を見せるのが嫌だったし、人前に出るのがとにかく怖かった。そんな自分の心の拠り所が音楽だった。家でヘッドホンで音楽を聴いているとき、好きなアーティストのインタヴュー記事を読んでいるとき、いろんな音楽の情報収集をしているときだけが、至福の時間だった。

対人恐怖症でありながら、音楽の興奮を伝えたい気持ちは人並みにあった。前住んでいた場所での友人たちに、ファックスを使って好きな音楽について綴った文章を学級新聞のように手書きでまとめて、それを送り付けていた。ファックスというところがいかにも世紀末らしい。手書きで絵を入れたり、時にはジャケットをコピーして貼り付けたりと、黒歴史と言えば黒歴史でもある。文章を書くことが好きになったのはこのときからだ。文章があれば人とコミュニケーションを取ることができることを知った。すなわち、わたしにとって文章が唯一のコミュニケーション手段だったのだ。

ライターや編集者の人間は「アーティストと面と向かってしゃべれるから」という理由で志した人間が多いという。「人と接することができないから書くことで社会に出られるライターになろう」と思ったわたしとは真逆である。いざこの仕事をしてみると、人と接する機会の多いこと多いこと。対人恐怖症を引きずったままの20代半ばの人間は、1本1本の取材がうれしくもありヘヴィでもあった。その話は、またのちのち。

世間とつながれる方法が書くことしかなかった。いまも自分の気持ちを最も素直に伝えられる方法は書くことである。真っ白の紙やワードの画面を見ると、気持ちも白く染まっていくようで心が穏やかになる。その真っ白のなかに黒を注す瞬間はいつも興奮する。この真っ白の世界は、自分次第でどうとでもなる――その高揚は何物にも代え難い。

文章を書くということは自分と向き合うことであり、同時に読み手/受け取り手と向き合うことでもある。わたしの文章はすべて、画面や冊子の向こう側にいるあなたに向けて書いている。声にならなかった声を伝えてくれる文字は、わたしにとっていまも昔も魔法だ。憧れの魔法使いにはまだまだ程遠いが、いつかそこに辿り着けるように努めていきたい。

※次回はライターを志すきっかけと専門学校入学について。実はわたし、本当は音楽系の専門学校に行くつもりではなかったのです。それがなぜ音楽ライターコースに進んだのか、という話を。

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