就職できなかったフリーランスライターの日常(24)

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就職できなかったフリーランスライターの日常(24)
理想のアイテムに辿り着くまでの失敗の数々

インタビュー取材中に質問したい内容は、すべてノートに手書きしている。

編集者経験がなく、インタビューの様子を見学したことがないわたしは、ほかのライターさんや編集者さんが、どのようにインタビューをしているかは知らない。アーティストの公式SNSにアップされたインタビュー中の写真では、パソコンを広げているインタビュアーさんと思しき人物が写っていることが多いので、メジャーなやり方なのかもしれない。どこかの誰かの話によると、質問リストなんてなにも持たずにインタビューする人もいるそうだ。

ノートに手書きをしていると話すと、遠まわしに「本物のプロはなにもなくてもいいインタビューはできる。あなたは素人レベル」と言われることもしばしば。だがいいインタビューをする方法は人それぞれだし、どんなに自分が格好悪かろうと記事がいいものになればそれでいい。そしてex.対人恐怖症で心配性のわたしにとって、このノートはインタビューをするうえで強い味方だ。実践のなかで失敗と時間を掛けて、自分なりに最善のものを見つけ出せたからこそ、愛すべき存在にもなっている。

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1冊目。ラメがついてたらだいたい可愛く見えたお年頃

まず、ノートに手書きするようになっていったきっかけは、ある1冊のノートとの出会いだった。ライターとして動き出す3年前、専門学校に入りたての2007年。新宿のルミネにあるPLAZAで一目惚れした1100円のノート。ハートに真っ赤なラメが塗られていて、その煌めきがとても魅力的だった。「可愛い!」という感情だけで衝動買いをしたが、なにせA5変形サイズで高級なノート。使うべき場所がなく完全に持て余してしまった。ひとまず机のよく見える位置に置いておくことにした。

2010年からライター的な活動をさせてもらえるようになった。夢に胸を膨らませ、やる気じゅうぶんのわたしは、打ち合わせの内容や気になったバンドのメモをそのノートに取るようになった。それこそ1100円のノートに書く価値のあるものだと感じたのだ。当時過去3回行ったインタビューは、Wordソフトで作った質問データを印刷していたが、ライター活動のすべてをこのノートに詰め込みたかったため、それをノートに貼るようにもなった。そこから「貼ると嵩張るからノートに直接手書きをしよう」と思い、2010年の秋からこのスタイルに落ち着いた。可愛いお気に入りのノートを現場に持っていけるという行為が自分のテンションをより高めたのだ。

インタビュー中にノートの中身が見えてか、「こんなにたくさん(質問を用意して)書いてくださってありがとうございます」とアーティストから声を掛けてもらうことも多かった。その言葉も手書きノートへの想いを強くしていった。

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2冊目。プラスチック製の表紙は透明で、青い紙が中表紙

2冊目に入ったのは、2011年の夏ごろ。東日本大震災の影響で、当時実家が経営していたペンションも、アルバイトをしながらライターの仕事をしていたわたしも、とにかく仕事がない時期だった。もちろん1100円のノートなんて買うお金もなく、実家が使用していた1冊120円ほどの文房具らしいA5サイズノートを1冊譲ってもらうことにした。だがアーティストの前でそのノートを取り出したとき、猛烈に恥ずかしくなってしまった。

そのノートは文房具然としながらもスタイリッシュなデザインで、見目的にも爽やかだ。だがそれまで使っていたゴージャスなノートからの落差は否めなかった。「アーティストの前で取り出すならば、もっと可愛くて品のある表紙デザインのノートを使うべきだ。ここはお金を惜しんではいけない」と直感的に判断した。そんなところまで見てる人なんてほとんどいない、自意識過剰だと思われるかもしれない。だが可愛いノートを手に持つことで自分が少しでも安心できるなら、絶対そうするべきだと思った。

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爪でこすると落ちるラメ

だが1冊目よりも2冊目のほうが使い勝手は断然良かった。1冊目はゴージャスで作りがしっかりしていたぶん、ものすごく分厚くて重かったのだ。会議室のようにテーブルがあれば心配ないが、傍にテーブルのないソファや丸椅子に座ってインタビューするとなると、1冊目のときは紙資料をめくるだけでもたついて、ノートを落としてしまうというドジっ子を炸裂させることもしばしばだった。持ち運ぶにも不便だ。ノートサイズはA5なら大きすぎず小さすぎず、咄嗟に質問を探すときに激しく目が泳ぐこともない。「次に買うノートは可愛くて、2冊目くらいの厚さのものにしよう。A5サイズなら片手で持てるぞ。インタビュー1本につき質問内容はノート見開きでまとめたほうが、ページをめくる手間も省けて良さそうだ」と実践のなかで悟った。

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3冊目。西洋と東洋のセンスが入り乱れていて沖に入り

3冊目のノートはPLAZAで購入した、A5サイズのカラフルな花柄のリングノート。「これだ! これがベストノートだ!」と思ったのだが、わたしはこのころ、質問の内容を細かく書くようになっていた。そうするとリングに手が当たり、書いているととても痛い。加えて罫線が太い点線で、シャーペンの色と同化しているため、視覚ノイズが多い。次からは罫線の薄い中綴じor糸綴じノートにしようと決めた。

様々な失敗を経て、「さあこれで買うべきノートがわかったぞ!」と思ったちょうどその頃、たまたま立ち寄ったFrancfrancで可愛い糸綴じノートが値下げしていた。1冊500円が半額の250円。色違いで3冊まとめ買いをした。だがわたしが文字を書くには少々行間が狭かった。実際に幅を測ってみると6mm。自分にとっては7mm幅がベストだと学んだ。そしてリングノートに比べて、中綴じor糸綴じノートは表紙が柔い。カバンのなかで折れ曲がってしまったので、Loftでノート用のビニールカバーを購入した。

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4~6冊目。服は地味色、持ち物は派手色がモットー

というわけで4~6冊目の失敗でようやく理想のノートの定義が定まった。雑貨屋や文房具屋に立ち寄るたびに「表紙デザインがポップで品があり、洗練されている」「A5サイズ」「罫線7mm幅」「中綴じor糸綴じ」「そこまで分厚くない」というすべての項目を満たすノートを物色し続けた。ちなみに7、8冊目は罫線の入っていない無地タイプだったため、9冊目にしてようやく理想のものを使用することができた。人生だけでなくノート探しも牛歩! 6年もかかってしまった。

現在18冊目。たまーに「インタビュー前に質問を送っていただけますか?」と言われると、「ノートに書いたものをスキャンしていいですか?」と言いたい気持ちを堪えて、ノートに書かれた内容をすべてWordに打ち込みなおしている。

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頂き物も多数。ありがとうございます

インタビューの流れや展開までも考えたうえで質問内容を書いているため、ノートはほぼ台本だ。だが決められた流れやQ&Aのままだとつまらない。なにより、インタビューは自分の訊きたいことを訊くものではなく、自分の問い掛けを通してお相手の話したいことを探していくことだと思っている。ゆえにその台本通りに進めるつもりは毛頭ない。

ならばなぜ全部わざわざ手書きをして、綿密に考えているのかというと、インタビュー前に作品と向き合ううえで、この手書きという行為が自分にとってものすごく重要であるからだ。質問内容を考えて書いていくうちに、漠然としていた思考や感情が整理されてくる。作品に没入できる感覚も心地よい。結果そのページが、自分にとってとても愛おしいものになっている。その集合体であるノートを持ってインタビューができることは、自分にとって非常に喜ばしいことだ。

インタビューはなにが起こるかわからない――ここまで神経質にノートにこだわっているのも、その不安から来るものであり、現場で自分の想像を超えることが起こりうるかもしれないという好奇心なのだろう。次回の「しょくふに」では、インタビューで印象に残っている予想だにしない展開が起こったエピソードを、取材相手に迷惑を掛けない範囲でいくつかご紹介する。

 

就職できなかったフリーランスライターの日常 過去ログ

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