ガストバーナーが『Good Luck』で見せた立体的な音像 変わり続けるバンドの揺るぎないポリシーを探る
ガストバーナーが『Good Luck』で見せた立体的な音像
変わり続けるバンドの揺るぎないポリシーを探る
ワンタンマガジンで3度目となる、ガストバーナーのインタビュー。過去2回ではこのバンドの生態や、結成による喜びと充実を語ってもらったので、2ndミニアルバム『Good Luck』のタイミングである今回は、趣向を変えてソングライティングにスポットを当てることにした。
デストロイはるきち(Vo/Gt)と加納靖識(Gt)の話を聞き終えて、『Good Luck』は彼らの人生のターミナルのような作品なのかもしれないと思った。たとえばデストロイはるきちならば、みそっかす時代にはできなかった新しいことに多数トライしたことで、彼のパーソナルな部分が以前以上に作品に反映された。加納靖識も今作で、これまでにないほどに作品の音作りにこだわり、新しいギターアプローチを注ぎ込んだという。それぞれの人生経験のなかで新しい価値観を見出し、それが交わり生まれたのが『Good Luck』だ。
初作品『Happy』から格段に進歩を見せた今作は、バンドの可能性や新しい道を切り開いたと言っていいだろう。「まだまだ新しいことをしていきたい」と語るふたりによる、音楽への熱意はとても眩しかった。
取材・文 沖さやこ
メイン写真撮影 新倉映見
◆ガストバーナー
2020年3月、ex.みそっかすのデストロイはるきち(Vo/Gt)を中心に結成。ex.みそっかすのキーボーディスト・マイケルTHEドリームがプロデューサーを務める。同年6月にアルカラ主催のYouTube配信「おうちネコフェス」で初めて公に向けたパフォーマンスを行い、9月に初作品『Happy』をリリースする。2021年12月にバンド初のワンマンライブを新栄CLUB ROCK’N’ROLLにて開催。2022年4月に2ndミニアルバム『Good Luck』をリリースし、同年5月より全国7箇所を回るツアー「GoodLuckツアー」を開催する。
(Official : website / Twitter / YouTube channel)
◆『Good Luck』は音色やプレイの細かいところまでめちゃくちゃこだわった
――はるきちさん、喉の調子が治ったようで何よりです。
デストロイはるきち(Vo/Gt) ありがとうございます。今日はメガパン先生の治療を受けに大阪まで行ってきて(※取材日は2022年5月12日)。だいぶ良くなってきたので、5月末からスタートするツアーでは前みたいに歌えると思います。自分を見直すいいきっかけだったと受け止めていますね。
加納靖識(Gt) たぶんガストバーナーの曲を歌うのは、みそっかすより高度なテクニックが必要なんですよね。『Good Luck』を作るに当たって、「もっとリズムよく歌詞書いてください、歌ってください」って口酸っぱくお願いもしたし……(笑)。
はるきち みそっかすの頃に歌うのが難しかった曲、この喉でも難なく歌えるんです。それだけガストバーナーの曲って難しいんだと思います。
――最新作『Good Luck』は、バンドの進化を感じるミニアルバムでした。デジタルリリースされた楽曲、ライブで育てた楽曲、未発表の新曲が収録されていて、バンドの活動がそのまま作品に落とし込まれたのではないでしょうか。
はるきち “Good Luck”というタイトルで、すごく破滅的なアルバムにしたいよねとは話していて。そこに合う曲を選んで入れていきましたね。
加納 『Good Luck』のアルバム曲は、去年のワンマンが終わった後にレコーディングをして、音色やプレイの細かいところまでめちゃくちゃこだわったんです。1作目の『Happy』はこの4人でライブをする前に作った作品だから、正直録るだけでいっぱいいっぱいなところはあって。でも今回は2作目だし、ライブもそれなりに積み重ねてきたから、レコーディング前から音のイメージをちゃんと決めていって、プリプロもかなりしっかりやったんです。
ガストバーナー『Good Luck』(2022)
――レコーディングのイニシアチブは、加納さんが取ったということですね。
はるきち 『Happy』はプロデューサーのマイケル(マイケルTHEドリーム)に頼りっきりだったけど、『Good Luck』はマイケルの役割を加納くんが担ってくれてます。
加納 今回も引き続きマイケルがデモを提供してくれているんですけど、マイケルはレコーディングに立ち会っていないんですよね。『Happy』を作って、配信シングルをレコーディングして、マイケルもどういう距離感でガストバーナーと関わっていけばいいのか把握してくれたんじゃないかな……と勝手に思っています。今回はマイケルも「デモは作ったから、ここから先はガストバーナーで完成させてね」というスタンスなんですよね。
はるきち マイケルのデモは「ここは絶対変えないでほしい」という箇所と「ここは自由に作って」という箇所がわかりやすいからね。後者の場合はあきらかに手を抜いていて(笑)、メンバー4人とも聴けばすぐにそれがわかるんです。それをどうにかできる自力もついてきたので、今回のやり方がうまくいったんだと思いますね。気付いたら加納くんが指揮を執ってくれてました(笑)。加納くん、張り切ってたもんねえ。
加納 レコーディングがバンド活動でいちばん好きなんですよね(笑)。
はるきち ライブのセットリスト作ってくれるの加納くんなのに(笑)。
加納 もちろんライブも好きだし大事ですけどね!(笑) 昔はライブがやりたかったから曲を作っていたタイプだったんです。でも今は完全に「作った作品を聴いてほしいからライブをする」という考え方にシフトしました。作品を聴いてもらうためにも、ライブをしないとなって。
――その意識はいつ頃から持ち始めたのでしょう?
加納 『Happy』を作ったあたりからちょっとずつ芽生えていて、『Good Luck』のレコーディングでそっちに完全に振り切れました。録るからには前よりも良くしたいし、僕のなかに1曲1曲の完成形のビジョンがあったんです。ガストバーナーはリズム隊の骨組みがしっかりしているので、そこにうわもので色づけをしたらガストバーナーになると思っているし、それはギターの僕の仕事だと思っているんです。そのためにどうしよう?と考えるのが面白いんですよね。
ガストバーナー / ディストピア (GAS and BURNER / Dystopia) 【Official Music Video】
加納 「こういう効果音みたいな音で攻めてみよう」とか、「ギターをこういうふうに重ねたらこういう和音になるだろうな」とか……あと聴こえない音であっても、あるとないとでは全然違うから、そういうところまで突き詰めました。りっちゃん(辻斬りっちゃん・Ba)とはやおくん(16ビートはやお・Dr)にも「こういうふうに叩いてほしい」「こういうふうに弾いてほしい」「コシのある音にしたいからちょっとくらいリズムがずれてもいい」と結構抽象的なお願いをたくさんしましたね……。
はるきち りっちゃんはリズム感がいいからとにかくリズムが正確だし、でもはやおくんのドラムは正確さ以上に勢いが良かったりするんだよね。このバンドのメンバーは抽象的な注文をしてもちゃんと伝わるし。
加納 そうですね。音楽的なことは俺のなかだけで完結させて、みんなの前では言わないようにしています(笑)。テンションの高い、立体的な音を目指しました。それがガストバーナーっぽいなと思ったし……そうやって録音したものは、迫力が全然違うんですよ。それが面白かったし、クオリティを上げられた自信がありますね。
はるきち マイケルも過去のレコーディングで「意外とこいつらできるぞ」と思ったんじゃないかな。だからアレンジの伸びしろを残したり、加納くんの音作りへの欲求を感じ取って身を引いたところもあるのかなと思います。単に手を抜いてるだけって説もありますけどね(笑)。
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デストロイはるきちの歌詞に対する向き合い方に言及。パーソナルなことや自身の心のなかを歌詞にしたためるようになったきっかけは、とある人物の言葉だった。