16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第16回~場所は思い出の器だ

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第16回 場所は思い出の器だ

 

[1]音に呼ばれる人々の器

場所は思い出の器だ。自分にとっての今年の漢字を一文字で表すとしたら「受」になります。自分ではコントロールの効かない身の回りの変化が大きすぎて、「受け入れる」「受け入れなければ前に進めない」、そんなことがとにかく多い一年でした。

そんな「受け入れなければならないこと」の中には、「お世話になっているライブハウスの閉店」があります。毎日現場で闘っているライブハウスの方々とは異なり、僕にとってのライブハウスは、「ライブをする場所」を与え続けてくれる、良い部分だけを享受させてくれる存在なのかもしれません。そのためライブハウスの本質は1ミリも分かっていない気がします。しかしそんな僕でも「ライブハウスの閉店」というワードは背骨に響くようなインパクトがあります。

本コラム『音に呼ばれる人々』というタイトルは、「ライブハウス」を一つの音楽好きの交差点、あるいは器として捉え、全く同じ組み合わせが繰り返されることのない、毎晩繰り広げられる刹那的な美しさを内包している場所という観点で書きたい、そんな思いを端に発して付けたタイトルでした。

しかしながら、その発想はライブハウスという「ハード」「建物」をあまりに中心に置きすぎていたのかもしれません。「閉店」は即ち、「そこに思い出をつくり続けた人、思い出を持つ人、これから思い出を作る人」が居なくなるということでもあります。今回は「ライブハウスの閉店」を考えてみたいと思います。

 

[2]心斎橋FANJ

2024年3月末、心斎橋 FANJというライブハウスが老朽化を理由に閉店しました。僕が最後にFANJのステージに立ったのは2018年のことですが、それまでは足繁く通い、お世話になっていたライブハウスでした。何かの店舗の居抜きだったのか、至る所に扉のあるライブハウスでしたが、それがどこに繋がっていたのかは結局分からず終いでした。

なぜ2018年以降僕は足が遠のいたのか、答えは簡単。当時お世話になっていた店長の退職を機に、潮が引くように離れてしまったのです。

思い返してみるとライブハウスは音楽の交差点ではありますが、そこに常駐する「人」も同等に大切です。「ライブハウス」だけでも「人」だけでもなく、「ライブハウスとそこに関わる人」の組み合わせが放つ化学反応や煌めきが何より美しいのです。

思えば色々と企画をさせてもらいました。初めて「企画」というものをしたのもFANJでした。その時はサークルの友人達が集まってくれましたし、数年後に『Screw Driver』という音源を発売したときは、無茶を頼み込んで「スクリュードライバー飲み放題」なるイベントを打ってアルコールの匂いに包まれたこともありました。パンケーキ食べ放題なるイベントにも呼ばれて、甘い香りが充満していたこともありました。そして、とにかくカレーの美味しいライブハウスでした。あれ? 食べ物の思い出ばっかり?

そんな美味しい匂いも含めて、目を閉じればバーカウンターを包み込むマゼンタの妖しげな光を思い出し、あのときの煮ても焼いても食べることのできない大阪ライブハウス事情なんかも脳裏によぎります。お世話になった店長、色々あって連絡が取れなくなったのですが、今も元気でいたらそれで良いなと思います。

初めて企画をしたときのフライヤー。Emu sickSのライブ中、ナードマグネットのギターふじーさんの「16ビートはやお~!」という野次から16ビートはやおは誕生しました

初めて企画をしたときのフライヤー。Emu sickSのライブ中、ナードマグネットのギターふじーさんの「16ビートはやお~!」という野次から16ビートはやおは誕生しました

ライブ直前のEmu sickS《写真:タツミヒカル》

ライブ直前のEmu sickS《写真:タツミヒカル》

心斎橋FANJでライブをするEmu sickS《写真:タツミヒカル》

心斎橋FANJでライブをするEmu sickS《写真:タツミヒカル》

 

[3]京都GROWLY

「京都のライブハウスでブッカーやることになったから良かったら出てよ!」そう言われて初めてGROWLYに出演したのは2012年4月1日のことでした。

声をかけてくれたのはCUSTOM NOISEのベーシスト、安齋さん。そこからEmu sickSも、ZOOZも、ガストバーナーも、リリースイベントをGROWLYで行いました。sukida dramasが曲中にバナナを配っていたり、ミスタニスタがライブの間奏でビール買いに行ったり、ウサギバニーボーイのライブで心を撃ち抜かれたり、about a ROOMが外でBBQしていたり、SAPPYが道で拾ったバンドTを掲げていたり、弦の切れたポルカドットスティングレイにギターを貸したり、ムツムロ君、でらし君、カーミ君と共に忘年会GIGで9mm Parabellum Bulletをコピーしたり、また別の忘年会GIGで吉野君、青空ちゃん、京極君と赤い公園のコピーをしたり、僕が何故かドラムソロを15分叩いたり、バンドの活休を安齋さんに相談したり、表に出ることなく活動を辞めたユニットのアー写を撮ったり、ヤジマさんの傾いたシンバルをライブ中に直しに行ったり、雪に飲まれながらみんな命からがらライブハウスにたどり着いたり、安齋さんのレーベルからアルバムを発売したり、少し振り返っただけなのに、針で風船を突いたように思い出が溢れてしまいます。

僕だけでもう書ききれないほどの思い出が詰まっているのであれば、GROWLYに関わっている人達全ての思い出を集めたら地球を覆い尽くすくらいあるでしょう。

そんなライブハウスが2024年12月末を以て閉店。決定は不可逆なので仕方ないという頭ではいますが、心では「受け入れなければ前に進めないのか」と途方に暮れています。二十代からやけに京都へ引っ張られる力が強かったのですが、その引力の中心に居たのが安齋さんであり、GROWLYだった気がします。

Emu sickS、SAPPY、about a ROOMでのツアーの一幕

Emu sickS、SAPPY、about a ROOMでのツアーの一幕

about a ROOMは盟友なのですが、GROWLY前で別れを惜しんでこんな写真も撮りました。電柱前に人が倒れています

about a ROOMは盟友なのですが、GROWLY前で別れを惜しんでこんな写真も撮りました。電柱前に人が倒れています

2017年のポスターが今も貼られている京都GROWLYのバーカウンター

2017年のポスターが今も貼られている京都GROWLYのバーカウンター

ガストバーナーでもお世話になっています。歴史は踊る、ヤジマX KYOTO、終活クラブと

ガストバーナーでもお世話になっています。歴史は踊る、ヤジマX KYOTO、終活クラブと

ガストバーナーにとっての最後のGROWLY。SuperBack、ふぞろいのモーモールルギャバン、HEREと

ガストバーナーにとっての最後のGROWLY。SuperBack、ふぞろいのモーモールルギャバン、HEREと

※コロナ禍で人前でライブができなくなったとき、ZOOZはGROWLYで無観客ライブの様子を映像に収めていました

 

[4]寂しい

思い出ばかり語って結局何が言いたかったのかというと、ライブハウスの閉店は「寂しい」んです。すみません、結局一番は「寂しい」なんですよ!! なんで閉店しなきゃいけないのさ!! ねえ!!! ねえー!!! なんです。身勝手ですよね、人間って。

閉店で初めて分かるんです。数々の思い出は、ライブハウスとそこに集う人に紐づいているということが。当時の店長抜きにFANJは語れないし、安齋さん抜きにGROWLYは語れない。強く強く、場所と人は紐づいています。

しかし「寂しい」ばかり言ってもお腹は膨らみませんし、閉店後の生活も続くので前を向かねばなりません。時間のおかげで僕らは勝手に前へ押し出されてしまいます。少しずつ「あの時」の思い出として大好きなライブハウスとの時間の隔たりが分厚くなっていくだけです。

だからこそ、過去に縋ってばかりではいけません。僕たちはまた楽しい思い出を求めてライブをしたり、観たり、今を更新し続ける必要があると思います。「受け入れなければ前に進めない」、まさしく僕にとっても、ライブハウスに関わる多くの方にとっても、この言葉は重さを持ってくると思います。人とライブハウスの化学反応を「寂しい」として過去に縛り付けるよりも、寂しさを抱えながら前に進むことが、何よりも大事なのかもしれません。それが、音に呼ばれる人々のある種の宿命なのかもしれません。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

《ZOOZ》
2024.12.28(土)新宿Marble
『MUTANT-2024年末SP』
Pink Zaphod Magical Beeblebrox / ผ้าอ้อม99999 / ゲスバンド / 弱虫倶楽部 / Tyrkouaz / CULTE / ZOOZ / DOGO / Baja / 去勢

2024.12.29(日)京都GROWLY
『”THANK YOU GROWLY”』
No Fun / ピアノガール / Comedownthere / Marie Louise / the elks / Hue’s / LABRET / Give me Back! / theorem / STONE LEEK / poetry of torch / 余類 / ZOOZ / the seadays / SOOZOO / Liaroid Cinema / メシアと人人 / fog footloose / イロマキトリドリ / キツネの嫁入り / reiji kawano / ウサギバニーボーイ
food: ムジコ(3F) / 喫茶室ラハト

2025.01.12(日)寺田町Fireloop
『ぴーちゃん presents 我が道を行く』
Mrs.PoohScratchLoveGREEN / MILK FROM THE PLANET ORANGE / ハイファイコーヒーズ / DaimonOrchestra / RobotMeetRobo / カラコルムの山々 / ZOOZ
FOOD:さすらい厨房

2025.02.01or02(土or日)京都nano
『JADE BOX Ⅶ』
※日割りは後日発表!

《ガストバーナー》
2024.12.29(日)池袋Adm
『Admさん魂のCOUNT DOWN LIVE2024 3日目』
ザ・シスターズハイ / VOI SQUARE CAT / プピリットパロ / Slingshot Million / MUJINA / 南無阿弥陀仏 / 終活クラブ / 忘れてモーテルズ / ビレッジマンズストア / ガストバーナー

2025.01.04(土)名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
『For only love connects all TOUR folca presents “Owl Night Club” クラブロックンロール32周年公演』
folca / HERE / ガストバーナー

2025.01.10(金)渋谷O-Crest
『Tonight Tour 後半戦 東京編』
Alaska Jam / ガストバーナー

2025.01.18(土)大阪・堀江SOCORE FACTORY
『Tonight Tour 後半戦 大阪編』
ポップしなないで / ガストバーナー

2025.01.25(土)名古屋・池下UPSET
『Tonight Tour 後半戦 名古屋ファイナル』
ネクライトーキー / ガストバーナー

2025.02.08(土)富山ソウルパワー
『Tonight Tour 特別編 富山編』
アルカラ / ガストバーナー

2025.02.23(日)名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
GAS and PIERO(振替公演)
ガストバーナー / 感覚ピエロ

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