傷をえぐるドキュメンタリー×センチメンタルポップス、現役大学生「リリィ、さよなら。」デビュー
傷をえぐるドキュメンタリー×センチメンタルポップス
現役大学生「リリィ、さよなら。」デビュー
取材・文:沖 さやこ
撮影:沖 丈介
【約束】という曲を聴いたときに「いい曲だなあ」なんて安易な感想しか出てこなかった。それだけピュアで、とても感傷的な音楽だと思った。メロディ、アレンジ、歌詞だけでなく、何より沁みてきたのは歌声。心を突き刺すような、それでいて包み込むような、涙の匂いや味が生々しく滲んだその切ない声は、必死に人を求めているように感じた。その曲の主は「リリィ、さよなら。」。熊本出身の男性シンガーソングライターで、現役大学生。セルフタイトルである1stミニアルバム『リリィ、さよなら。』で2015年2月25日に全国デビューを果たす。センチメンタルなポップセンスを持ちながら、心の傷を刺すような楽曲を作る彼とは、一体どんな人物なのか――文学少年的なアー写やキュートな見た目のイメージで触ると火傷するかも!? それもすべて、強い感受性と純粋さがもたらすアグレッシヴな喜怒哀楽があるからこそ。このインタヴューで、その一部を感じていただけたら幸いだ。
リリィ、さよなら。
ヒロキによる音楽ソロプロジェクト。熊本出身、7月18日生まれ。地元熊本にて、シンガーソングライターとして活動した中高時代を経て、2013年に大学進学のため上京。東京にて「リリィ、さよなら。」として活動を開始する。同年11月、iTunes配信限定シングル『約束』をリリース。2014年2月iTunes配信限定シングル『ナイト・トレイン』をリリースし、7月よりテレビ朝日『musicるTV』内のコーナー「音楽作家塾」に出演。同年11月12日にリリースされた超特急のシングル曲【EBiDAY EBiNAI】を手掛ける。2015年2月25日1stミニアルバム『リリィ、さよなら。』をリリース。2015年2月後期文化放送「リッスン? ~Live 4 Life~」2月度後期EDに【snow~君がくれた物語~】が起用される。2015年3月21日初ワンマンライヴを渋谷gee-ge.にて開催予定。
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初恋の女の子が歌を褒めてくれたことが、歌手を目指すきっかけ
――ヒロキさんは中学時代から楽曲制作を行っていたとのことですが、どういうきっかけで?
ヴァイオリンを3歳からやっていて。楽器を弾くのは好きだったんです。でも俺はもともと歌うのが嫌いで。小学校のときの歌のテストで、歌いたくなさすぎて「学校休む!」って大泣きするくらいだったんです。でも中学のときに好きになった女の子が、カラオケに連れていってくれたんです。そのときにその子の前でKiroroさんの「長い間」を歌ったら、その子が「え、めっちゃうまいじゃん! わたしヒロキの歌好きだよ」と言ってくれて。……だから、初恋の子に歌を褒められたからなんです(笑)。それで「どうせ歌うならギターも弾きたいな」と思って、親戚のおじさんからギターを譲ってもらって、でもバレーコードが弾けなくて、そこでギターを弾くのをやめてしまって。
――ギターの第一の壁ですね。
あるあるですね(笑)。ギターは諦めても漠然と歌手になりたいとは思ってたので、いろんな会社のオーディションを受けてたんです。でも俺よりも歌がうまい、MISIAさんや絢香さんみたいな人はたくさんいて。だから「俺は歌をうたうだけではやっていけないんだな」と。それでもう一度ギターに挑戦したんですよね。それが中3の夏でした。その子とは2年半付き合って別れちゃったんですけど。そのときに作った曲が、デビュー・アルバム『リリィ、さよなら。』のボーナストラックに収録されている【約束】なんです。
――【約束】は別れた女性への想いを歌った楽曲ですが、あれは実話そのものなんですね。
ガチの実話です(笑)。想像力があればいろんなことを考えて書けるのかもしれないけど、俺はそれができないので、俺は日記を書くようにしか曲が書けなくて。曲を書くのは二日酔いの朝とか(笑)、弱ってるタイミングが多いです。泣きながら曲を書いてます(笑)。
上京をして大学に入って、いろんな「好き」があるんだなと気付いた
――中学生で歌手を目指したヒロキ少年は、高校時代にバンド活動をするようになる。
県でいちばんの進学校に入学したので、周りはガリガリ勉強するような子たちばかりで、学校に友達がいなくて。バンド仲間しか友達がいなくて学校をサボって先生に怒られたり、学祭の用意の途中でも「すみません、今日ライヴなんで」って帰ったり……生徒会長だったのに(笑)。
――漫画の主人公みたいなことを、現実世界でやっている人がいるとは(笑)。
後ろ指さされるような、はちゃめちゃな生活をしてました(笑)。でも大学に入ってから――特に俺の大学のキャンパスは変な子が多いんです。芸能人も多いので、そういう人間でも、得体の知れない“音楽”なんてものをしていても、ちゃんと認めてもらえるんですよね。そこで人を信頼できるようになったんです。アルバムの1、2、3、4曲目は、大学に入ってからできた曲で。
――【snow ~君がくれた物語~】と【ハルノユキ】と【流星ドライブ】と【きみの匂い】。
主人公は僕で、この歌詞に出てくる〈君〉もそれぞれちゃんと存在してるんです。地元でも歌手を目指して活動してたんですけど、作曲家としての評価のほうが高くて、アーティストとして認めてもらえなくて……だから歌うことを諦めていたんですよね。でも大学に入って、いろんな素晴らしい出会いがあって、「もう1回がんばろう」と思えて、オーディションも受け始めて。うまくいかない日が続いたけど、支えてくれる人がいたから「いつか夢は叶うだろう」と思って続けていたら、去年の6月にいまのビクターのスタッフさんに出会えて、その頃に『musicるTV』内の「音楽作家塾」というコーナーに出演するようになって……本当に諦めないで良かったなって思って。
――みんなの支えがあったからこそ夢を叶えるための努力もできたんですね。
俺、ひとりじゃ何もできなくて。本当に人との出会いや、大事な人に支えてもらえてるんだな……と思います。
――ヒロキさんみたいに個性的な人は、都会でこそ才能を発揮できるタイプだと思います。いまの大学に入ったことと上京は本当に大きな転機だったんですね。
大学に行って――かなりクサくて寒いこと言いますけど(笑)――「好きのかたちがひとつじゃないんだな」と思ったんです。熊本にいるときは、年齢の近い女の子と20代で結婚するのが幸せだと思ってたんですけど、こっちに来てみたら、女の子と付き合っている女の子がいたり、20歳以上年齢の離れている男の人と付き合っている女の子がいたり……いろんな「好き」があるんだなと気付いて、「自由でいいんだな」と思ったんです。だからこのアルバムにもいろんな好きが入っていて。たとえば【流星ドライブ】とか。
――歌詞だけだと、彼氏の助手席に乗る女の子視点にも見えます。
そういうラヴソングに見えるかもしれないんですけど、これは親友に明け方電話して「江の島で朝焼け見ながらギター弾いて歌いたい! お願い!」って車を出してもらったときの歌なんですよね。だからいろんなかたちの「好き」を肯定できるアルバムになっているんじゃないかなと思って。……本当に俺、この大学のこのキャンパスに通ってなかったら、たぶん夢叶ってなかったんじゃないかなあ。それくらい自分にとって大きいです。
>>“村上ヒロキ”としての等身大の青春が、リリィ、さよなら。の音楽に反映されている