音楽ライター×地方誌編集者のフェス論’15~ONE TONGUE SUMMIT #1
◆フェスの未来予想図
沖:ふくさんは今年、フェスのご予定はありますか?
ふく:今年は、WILD BUNCH FEST.の初日に参加予定です。今回で3回目のフェスで初回から参加していますが、大小合わせて5ステージ、来場者数万人規模のロックフェスは九州・山口じゃあれぐらいなんです。これからどんなフェスになっていくのか、その変遷も見ていきたいなあと。沖さんは?
沖:わたしはBAYCAMPは初年度から参加しているので、できることなら行きたいなあと思ってます。でも正直言って、最近わたしはフェスよりもライヴハウスのほうがたのしくなっちゃってるんです(苦笑)。みんなが思い思いに楽しみながらも、共通の空間とバンドを楽しんでいる、秘密基地みたいなあの楽しさを再び思い出しちゃったんですよね。フェスですべてのアクトを観るとなると限界は2ステージ、ばたばたして3ステージまででないと不可能ですし。「いいバンドをたくさん用意したから好きなものを選んでね」よりも、「このバンド最高なんだよ!! このアーティストを見てほしい!!」という、主催者の願望や意図がはっきり見えるものに惹かれてしまっています。
ふく:複数ステージがあると結局自分が好きな人を観に回ってしまうので、そういう意味でもフェスでの偶然の出会いが減ってるんですよね。
沖:ところでふくさんは今後フェスブームはどうなっていくと思いますか? また、どうなっていくのが理想でしょうか。
ふく:今後かぁ。フェスがより細分化されて、それこそ沖さんが言われるように「主催者の願望や意図がはっきり見えるもの」が増えていくんじゃないですか? フェス自体が物語や意思を持っているような。たとえば長崎のSky Jamboreeは戦後70年を迎える今年、長崎出身のホリエアツシとナカヤマシンペイを擁するストレイテナーが初のトリを務めるんです。このフェスを代表するKEMURIを抑えて。ここからもフェス側からのメッセージが伝わってくるし、お客さんも思うところがありますよね。これだけフェスが各地でできていますから、「そのフェスをやる意味」みたいなものを主催側が明確に打ち出していくんじゃないでしょうか。あと、ある程度の大型フェスはよりレジャー化が進んでいきそうです。フットサル場を備えているようなフェスもありましたし、音楽フェスをフォーマットにして、いろんなエンタメがミックスされていったり。フェスがレジャーからテーマパークになっていくかもですね。
沖:フェスがレジャーからテーマパーク……確かにそうですね。SUMMER SONICは昔からお笑いステージや、キッズコーナー、サイレントディスコみたいな“ATTRACTIONS”というものがありますし。VIVA LA ROCKはMUSICAという媒体の特色を活かして公開インタビューを行ったり、音楽コミケ空間があったりしましたね。
ふく:あと、今、敷居が低くなって“リア充の集う場所”という存在にフェスがなっているのには、ちょっと違和感をおぼえるんですよ。「アッパーな曲でみんなで盛り上がればOK!」みたいな風潮には「?」です。キュウソネコカミの『良いDJ』という曲で「客盛り上がればそれでオッケー」なんて歌詞がありますけど、まさにそれ状態。以前、フェスでACIDMANのたしか『アルケミスト』だったと思うんですが、ゆったりとした壮大な曲なのに舞い上がったお客さんたちがサークルを作っていたのがとても軽薄な景色に見えて。「おいおいこの曲はそういう曲じゃないだろ」と呆れちゃいました。これにVoの大木さんが「若人たちよ、ワンマンに来てくれ」と発言していてネットでも少し話題にもなっていました。サークルを作っていたあの連中がACIDMANのワンマンに足を運んでいるとは到底思えないんですよね。
沖:フェスブームも影響して、アーティストも盛り上がり重視の曲や流行を意識した曲を作ることも多かったと思うんです。そのピークが2013年だったと思います。人それぞれ楽しみかたがあって当然でいいと思うけど、ステージを見ずにオーディエンス同士で盛り上がっている人を見ていると「アーティストの演奏はみんなで楽しむための道具なのかな?」と思ってしまうときもあって……。ワンマンでもそういう現象が見受けられることもありますし。
ふく:それを踏まえて個人的な理想としては、もう少し音楽的純度の高い大人のロックフェスも欲しいなと思います。30代以上のロックファンはこのジレンマを抱えている人も多いんじゃないかなぁ。洋楽主体だとFUJI ROCK FESTIVALなどはそれに当たるかもですが、邦楽フェスは敷居を下げるばかりであまりそういったものが見当たりません。ただ、「ノリ重視のチャラい若者たちをフェスから排除せよ!」ということでもないし、レジャーとしてのフェスで好きな音楽に出会うことだってあるでしょう。難しいな~。
沖:んー、そうですね。オーディエンスやフェスだけが原因なわけでもない気もするし……これは日本に若きロックスターやヒーローが生まれてないのも原因なのかな? いまならONE OK ROCKのTakaさんかなとも思うのですが、やっぱりいまもなお細美武士さん(the HIATUS/ex.ELLEGARDEN)や藤原基央さん(BUMP OF CHICKEN)、後藤正文さん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、その下の世代だと野田洋次郎さん(RADWIMPS)が絶大なヒーローというか、カリスマというか。これだけバンドブームになっているのに、圧倒的なロックスターがいないことも、盛り上がれればOK!の風潮の一因なのかな……と思ったりしてます。
ふく:フェスやライヴハウスで、お客さんたちが拳ではなく軽く握った人差し指を上げ始めたあたりから「なんか雰囲気変わってきたぞ」と思っているんです。「その振りかざす人差し指はなに!?」とかフェスで思っちゃうから、オッサンになっていっているんでしょうね(笑)。
沖:ははは(笑)。さっきふくさんがおっしゃった「音楽的純度の高い大人のロックフェス」は、フジロックを除けば4大フェスのなかならRISING SUN ROCK FESTIVALでしょうか。やっぱり初回である1999年のラインナップは、いま思い返してもやばいんですよ。おまけに1ステージのオールナイトだったんです。出演者が多いことが、必ずしもいいとは限らないと思います。いろんなジャンルのアーティストを1箇所に呼ぶのはいいけど、その数が増えれば増えるほど、フェスのカラーはぼやけるし。なんでもかんでもリスナーに委ねすぎてることも、オーディエンスの暴走?を加速させたのかな……と思ったり。2015年は解散や活動休止、メンバーチェンジも多かったり、その反面インディーズで地盤がまだ固まってないバンドもメジャーデビューしたりと、激動の年になるんじゃないかと思っていて。フェスも今年を境に変わってくるんじゃないかなと少し思っています。……と、長々語りましたので、そろそろ締めましょうか。最近気温も上昇していますし、わたしはライヴレポートの仕事でひとりでフェスに行って、盛大に熱中症になってそれはもうとんでもないことになった経験があるので、みなさんフェスでの熱中症に気を付けていただきたいです。フェスもライヴもCDも、音楽は楽しいものだから、できる限り存分に楽しみたいですね。
ふく:そうですね。なんだか苦言ばかり呈した気がしますが……。フェスで暴れるゴリゴリのロック大学生の意見とかも聞いてみたいです。最後に一つ、「ゲレンデの女の子は可愛く見える」効果と一緒で、「フェスファッションの女の子は可愛く見える」という現象がある気がするんです。ファッション誌でもフェスでのオシャレな服装を特集していたりしますよね。そんな女子たちを眺めるのもフェスのちょっとした楽しみだったりするのでは……。ね、男子のみんな! ね! ね!?
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◆沖 さやこ(ライター)
2009年3月に音楽系専門学校卒。音楽ライターのアシスタントを経て、2010年5月からフリーランスライターとして活動を開始。横浜、大阪、伊豆に在住歴があり、現在は神奈川県屈指の城下町と江戸を往来する毎日です。ライターの傍らで実家の飲食店の手伝いもしてます。日本文化とダムと漫画と文学をこよなく愛す。→ワンタンマガジン内記事一覧
◆ふく(福島 大祐、編集)
福岡で情報誌の編集をしているエンタメ好きのアラサー男です。映画ページ担当。街の取材をしたり、いろんな人にインタビューしたり。音楽は「偏見をなくして触れる」がモットー。漫画も愛していて年間100冊以上買って読みます。多分。→ワンタンマガジン内記事一覧