就職できなかったフリーランスライターの日常(14)

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就職できなかったフリーランスライターの日常(14)
ライターのルーツ

2019年5月、ART-SCHOOLのフロントマンの木下理樹氏が、Qeticというウェブサイトでお気に入りの映画を紹介するコラム連載をスタートさせていた。木下氏は現在病気療養中で、表立った活動ができないぶん執筆など新しい試みを行うとのことだ。

Twitterなどでは公言しているが、わたしは二十歳前後の時期にART-SCHOOLにどっぷりのめり込んだART-SCHOOLチルドレンである。木下氏がかつて公式サイトで書いていた日記「狂人日記(のちの「旧・狂人日記」)」はまさに経典だった。「旧・狂人日記」には日々の生活のことだけでなく、彼が心を奪われた音楽、小説、映画などがレコメンドされていた。そこで取り上げられている作品を財布と相談しながら片っ端から触れていく日々。あそこまで図書館とTSUTAYAによく通うことは、この先ないんじゃないかと思うほどだ。

なぜそこまで彼のレコメンドする作品を追いかけたのか。それはART-SCHOOLの音楽が好きだったからというのもあるが、木下氏の綴るレコメンドの文章の影響も大きかった。彼はもともとミュージシャンではなく音楽ライターになりたかった、という発言をしていて、作品について文章を書くときも「俺と○○」というスタンスではなく、評論家としての視点で綴り、その要所要所に自分のエピソードを塗していたように思う。

だがその表現方法はART-SCHOOLの詞世界と同じだった。彼の書く歌詞は陰鬱だとか、ネガティヴだとか、退廃的だと言われることが多いが、その核心にあるのは「見惚れる」や「美しいものに触れたときに湧き上がる感情」だと思っている。自分が心を奪われた物事のこと、愛を持った物事のことを歌い続けているところに感銘を受けた。


ART-SCHOOL – B SIDES BEST『Cemetery Gates』Trailer

彼は自分が魅せられた作品について、自分の得た感覚を言葉に落とし込んで論じていた。その平熱で、だけど確かに血が通っている、すみずみまでナチュラルな文章を読んでいて「わたしもこんなふうに音楽をキャッチできたら」「こんなふうに音楽について書くことができたら」と憧れていた。そのときはまだライターになりたいなんて思っていない時期だったけれど、このコラムの第2回目で書いたように直感的かつ衝動的に「ライターをやりたい」と突き動かされたのは、いま思うと「旧狂人日記」への憧れが伏線にあったと思う。よく「影響を受けたライターさんは?」や「影響を受けた音楽雑誌は?」と訊かれたりもするけれど、あんなにまで「こんな文章が書きたい」と憧れたのは木下氏か、太宰治と芥川龍之介くらいだ。

彼が新しく始めた連載の第1回目は、北野武映画の「ソナチネ」について書かれていた。それを読んでいて、16年前に旧狂人日記の更新を毎日心待ちにしていたときの感覚や、まだ観ていなかった「あの夏、いちばん静かな海」をレンタルしに行ったときのことを思い出した。わたしには地元と言える場所がないので定かではないが、愛する故郷に帰ってきたときにこういう気持ちになるのかもしれない。木下氏の文章は変わっていないと言えば変わっていなくて、変わったと言えば変わったところもある。そしてそれを読んでいるわたしも変わっていないところがあって、だいぶ変わったと思う。その両方がとても喜ばしく、年齢を重ねること、年月を経ることの趣深さを感じた。


ART-SCHOOL「YOU」RELEASE TOUR 2014 FINALドキュメント

「沖さんはどんな音楽が好きなんですか?」と訊かれたら、「典型的なART-SCHOOLチルドレンです」と返している。オルタナティヴでポップセンスを持っていて、ユニークで、言葉に知性があって、ギターのエフェクターワークが多彩で、コードワークが豊かで、色気があってロマンチックで、センチメンタルで繊細で、喜怒哀楽すべてが通っていて……挙げればキリがないが、それらは全部ART-SCHOOLが持っているものだと思う。わたしにとってART-SCHOOLは青春でもノスタルジーでもなく、身体の一部だ。昔の曲を聴いても「懐かしい」とは微塵も思わないのは、自分の変わらない部分、本質や核心に響いた音楽だからだろう。

「木下さんみたいに瑞々しくて、繊細な透明感がある文章を書きたいな」と思っていたさやこ少女は、16年の時を経て「木下さんの文章みたいに瑞々しくて、繊細な透明感は出せないな」と思っている。それでいいし、そう思えていることに安心している。憧れの真似をしたいわけでもないし、誰かに喜んでもらうために書いているわけでもない。ただただ自分に嘘をつかず、その瞬間瞬間の自分が持っている美学にひたすら誠実でありたい。その結果生まれたものを誰かが喜んでくださったなら、それ以上に幸せなことはない。そう思えているのも、ART-SCHOOLがその瞬間瞬間で心を奪われた美しいものを綴り続けてたから、かもしれない。

 


Spotify:ART-SCHOOL

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