サイダーガール 『サイダーの街まで』
MINI ALBUM(CD)
サイダーガール
『サイダーの街まで』
2016/02/03 release
CIDER RECORDS
リアリティとファンタジーの狭間に生活する“君”と“僕”の物語
この景色は幻だろうか、現実だろうか。わたしはいま、とある街にいる。どうやらこの街は“サイダーの街”と呼ばれているようだ。普段見ている現実よりも色彩が豊かで華やかだが、ファンタジーと言うには胸の奥を悲しみの針が刺してくる。まるで夢のなかのようだ。だがもしかしたら、これはとある少年の心象風景なのかもしれない――。サイダーガールの2ndミニアルバム『サイダーの街まで』は、1stミニアルバム『サイダーのしくみ』からもう一歩、深いものを描いている。それは心のなかだ。
前作リリース以降彼らはライヴや制作も精力的に行い続けていたが、秋にドラマーのトルルが無期限活動休止。のちに彼は脱退を発表した。残るメンバーはサポート・ドラムを招きライヴを行い、その活動のなかで今作を完成させた。あの状況で活動を止めなかったバンドのポテンシャルにも感心したが、サウンドにはそのメンタリティが色濃く表れている。MVも公開されているM1【No.2】はWEEZERばりのパワーポップが眩しく、ひたむきなミディアム・ナンバーM2【夕凪】はストロークで鳴らされるバッキングギターに宿る張り裂けそうな感傷性に息を飲む。3拍子のリズムが心地いいM3【パズル】と、過去最高にアグレッシヴで爆発するドラムの着火性も抜群なM4【アンラッキーリビングデッド】はドラマティックな楽曲展開で魅了。彼らに限ってはディストーションも煌めきの要素だ。M5【夜が明けるまで】はシンプルなギターロックアプローチにピュアリティが光る。このストレートなアプローチでダイナミズムを生めるのもサイダーガールの強みではないだろうか。
ここで着目したいのは、この5曲にすべて同じ背景を感じることだ。【No.2】ではまず離れ離れになる僕と君の心を描いている。淡々としつつも何か言いたげな表情を浮かべるようなYurinの声と哀愁のあるメロディが融合し、ふつふつと悲しみの感情が聴き手の心を小さく刺す。だが音像ではふたりの掛け替えのない時間の美しさや鮮度が立ち上がり、そのコントラストが作る奥行きがさらにイマジネーションにはたらきかけるのだ。続く【夕凪】は〈誰もいない〉〈思い出せない〉〈味気ない〉〈見えない〉と喪失感を紡ぐ。【No.2】に登場する“僕”のその後なのではないか。そんな想像が膨らんだ。この曲は〈夢をみよう〉という言葉で締められ、続いての【パズル】の歌い出しは〈不確かなまま夢を見てた〉。そして物語は夕暮れから夜へと場面を変えラストの【夜が明けるまで】へとつながっていく。この少年はいったいどんな選択を取るのか、その結末は是非作品で感じてもらいたい。この物語を3人のメンバー/ソングライターで描いているのだから、なんだか魔法や奇跡のようだ。メンバーの意思統一は前作よりも格段に増したのではないだろうか。バンドとしてさらに強くなったサイダーガール、彼らが奏でる泡のように繊細な世界は、これからさらに天高く広がるだろう。(沖 さやこ)