FAIRY BRENDA『Honey Trip』

LINEで送る
Pocket

ALBUM(CD)
FAIRY BRENDA
『Honey Trip』
2020.01.29 release
Glass Family Record

 

結成5年の実力派3ピース
美学を詰め込んだ渾身の初の全国流通盤

 

黒猫チェルシーの澤 竜次、CRAZY WEST MOUNTAINの西山達朗、ザ・ラヂオカセッツの大谷ペンにより2014年4月に結成された3ピースバンド、FAIRY BRENDA。彼らが結成から5年という月日の末、澤が設立した自主レーベル・Glass Family Recordより待望の初の全国流通盤である1stフルアルバムをリリースした。

非常に個人的な話になるが、わたしが黒猫チェルシーに初めて対面取材をしたのが、2016年2月にリリースされたシングル『グッバイ』のタイミングだった。取材前にバンドやメンバーについて徹底的に調べ、FAIRY BRENDAの存在も知った。澤がメジャーというフィールドに身を置きながら、つねに自由な音楽活動を精力的にしている人物であることに、大きな感銘を受けた。

黒猫チェルシーが活動休止前最後の公演となるツアーファイナルを神戸VARIT.で行った2018年10月16日からほどなくして、澤は所属事務所を離れ、自主レーベル兼事務所・Glass Family Recordを立ち上げたことを発表した。「今まで以上に精力的に、最高の音楽をたくさん作っていく」という発言に違うことなく、彼は2016年に結成したNOSや、単身弾き語り、黒猫チェルシーの宮田 岳とのユニット・岳竜としての活動に加え、2019年には頭脳警察50周年バンドへギタリストとして参加し、ソロプロジェクトである澤竜次BANDを始動させるなど、多岐にわたる活動を行ってきている。

これだけプロジェクトを持っていたら、どれかひとつは空中分解しそうなものなのに、どれも大事にコンスタントに活動しているところからも、彼がクレイジーなほどミュージックラヴァーであることが窺える。FAIRY BRENDAも音源こそ出てはいなかったが、3人とも本拠地のバンドがツアーやリリースなどで精力的に活動している時期でも並行してライヴを行っていた。3人がFAIRY BRENDAに対して本気でなければできない芸当だ。

そんな3人が結成から5年以上という歳月をかけてバンドが磨き上げた音像を封じ込めた、澤の自主レーベルからリリースするのが今作『Honey Trip』というわけだ。1曲目【Hole Tripper】からいきなり緊迫感あふれる強靭なリフに圧倒される。3人の作り出すヴィンテージなグランジサウンドは、重厚でいて痛快。ロック愛とリスペクト、なによりプレイヤーとしての矜持を肌で感じる。


FAIRY BRENDA “Honey Trip”スタジオライブダイジェスト

3人の作り出すサウンドの優れた点は、インパクトだけでなくギミックが効いているところだ。澤のギターはうわものゆえ明確であるが、リズム隊のふたりも様々なプレイスタイルを楽曲ごとに取り入れ、曲の本質を最大限に引き出す音色やフレージングを選択している。楽曲のバリエーションの多さを、自分たちのプレイと楽器だけで作り出すという意地にも近いポリシーが小気味よい。初期衝動的な勢力は失わず、それぞれが10年以上積み重ねてきた経験を感じさせる深みのある音色とアンサンブルは、鋭利でありながらも度量の大きさやふくよかさを帯びている。

ロマンチックなムード漂う【プール】は楽曲の世界を繊細かつ大胆に様々な音色で描いていたギターが、間奏で激情的なソロに興じるという違和感がユーモラス。リズム隊が耳を引く【Destination】は3人の呼吸が合っていてこそ実現可能なグルーヴだ。3拍子のリズムが哀愁とポップネスを作り出すミディアムナンバー【雲間にファンファーレ】はアウトロの泣きのギターソロに胸をつかまれる――など、楽曲ごとにしっかりと見せ場が培われているところに、バンドや楽曲がライヴという実戦で磨き上げられてきたことを痛感する。【Restaurant】など、これまで培ってきたであろうポップセンスをオルタナサウンドに溶かしてアウトプットするところにも、彼らのバランス感覚や音楽に対する陽のムードを感じ取れるだろう。

と、ここまでサウンドを中心に論じてきたが、ここまでサウンドにポリシーを持っているということは、確固たる意志があるということでもあり、その姿勢は自然と歌詞にも表れてくる。澤はふだんから自分の意見をまっすぐ臆することなく言葉にするし、作るメロディやコードにも独自のロマンチシズムを持っている人物だ。たとえば【ロケットとマリア】は彼のバンド人生とも読み取れる内容が、アメリカ映画のようなスケールの大きい世界観で描かれている。

日本や東京といった身近な場所を描くのではなく、彼は航海に出るし、時空を超えるし、様々な世界や宇宙、おとぎの国にだって飛んで行ったりする。際限なくどこまでも続いていく世界の終着点を掴みにかかるような探求心。ありふれた世界をありふれているで終わらせないピュアなマインドが基盤や根幹にあるからこそ、FAIRY BRENDAの音楽は輝きを放つのだろう。

Glass Family Recordにとっても初作品となる『Honey Trip』は、まさしく名実ともに新たな旅が始まったというファンファーレだ。隅々にまでポリシーが通ったまごうことなきロックアルバム、ぜひ爆音で体感してほしい。(沖 さやこ)

 

◆Release Information
FAIRY BRENDA『Honey Trip』
GFRC-001/¥2,200+TAX
[Track List]
01 Hole Tripper
02 白く透き通るキミ
03 プール
04 Destination
05 雲間にファンファーレ
06 Restaurant
07 ロケットとマリア
08 Paper Moon
09 ロマンス
10 ゼリー
AmazonTOWER RECORDSHMVdisk union

◆More Information
https://www.fairybrenda.net/
https://www.glassfamilyrecord.com/

LINEで送る
Pocket

Tags:,