People In The Box-2016.5.13 at 渋谷CLUB QUATTRO

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CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE 波多野裕文(Gt/Vo) Produce 『Renaissance』
2016.5.13 at 渋谷CLUB QUATTRO

リアレンジで楽曲の新たな可能性を示した
かつてないディープな世界観

取材・文:沖 さやこ
撮影:Daisuke Miyashita

 

月1回の渋谷CLUB QUATTRO公演をメンバーがそれぞれ1日ずつプロデュースするPeople In The Boxのマンスリー・ライヴ3回目、5月の担当はギターヴォーカル・波多野裕文。彼が主役となる演奏によって、普段のPeople In The Boxは紛れもなく3人が3人とも主役として動いているバンドなのだということを再確認したと同時に、この日はいつもとは違う角度からPeople In The Boxの楽曲を味わうことができた。

ライヴで演奏されなくなる楽曲の特色のひとつに、楽曲の性質的にセットリストに組み込みにくいことが挙げられる。だがそういう楽曲にはバンドの核心が色濃く反映されていることが多い。終演後、波多野に話を訊いたところ、彼は「ライヴであまり演奏されなくなっている、アルバムのなかでディフェンダーにあたるポジションの曲たちをフォワードに持ってくるライヴにしたかった」「ピープルには捨て曲がないなと思っているんです(笑)」と話してくれた。ゆえにメインソングライターだからこその楽曲への強い想いが演奏やヴォーカルに強く発揮されており、彼の頭や心のなかを彷徨うような感覚もあったのだ。

1曲目【技法】は波多野の弾き語りでゆっくりと幕を開け、そこに引き寄せられるように福井健太のベースと山口大吾のドラムが鳴った。波多野の声は普段より少しあどけないかと思いきや、曲が進むごとにその様相を変えていく。リアレンジの影響もあって楽曲自体もどろりとしていて、底が見えないほどの深さを感じさせた。続いては『Ghost Apple』の収録曲のなかでも少々異色な、起承転結で言うならば「転」の役割を果たす、スロー・テンポの【木曜日 / 寝室】。イントロのギターといい、ヴォーカルといい、湿度のある音が少しずつ身体中にまとわりつき浸食していくようだ。それに誘われゆっくりゆっくり奥に引きずり込まれたかと思うと、スピード感のある【逆光】へ。奇妙な世界に引きずり込まれた途端にアクシデントが起こるような、映画の物語のなかにいるようだ。肌への感覚が生々しい。福井の出す低音もいつもより粘度が高く、山口のドラムは地を這うような激しさが。この3曲の演奏で、音楽の濃度の高さに圧倒されてしまった。波多野も「結構気分がいいです、僕。気分がいい」と満足げに語る。

s_Renaissance3この日は音響環境も良かった。曲ごとに音の質感も変わり、それがこちらの感性を刺激してくる。3人のアンサンブルが織りなす音の隙間が心地いい【割礼】は弦楽器がとてもクリーンな音鳴りで、ドラムはタイトで少し機械的な雰囲気。曲の持つ無邪気さと仄かな狂気がより際立つ。【みんな春を売った】もニューアレンジで新しい印象を与え、波多野のヴォーカルにより歌詞もより重みが増していた。【天国のアクシデント】は3人の集中力と緊迫感に加え、太いリズム隊には民族音楽にも近い衝動性もあり、踊り出したくなるくらいだった。

ピアノヴァージョンで披露した【手紙】【季節の子供】【子供たち】はアコースティックライヴさながらの演奏。福井はエレキベースでチェロのような音を出し、山口はブラシを使うなどして静かに繊細な音を鳴らして、しっかりと楽曲の世界を支える。彼らの作る音が澄み渡る青空ならば、その上に乗る波多野のピアノと歌はそこに浮かぶ雲のようだ。シンプルで細やかな音作りで大きな景色を描いていく。

Cocteau Twinsの【Lorelei】カヴァーも見事だったが、この日最も印象的だったのは【ニコラとテスラ】。密室的で不思議な世界、なんだか波多野裕文という人間の頭のなかにいるようだった。不穏なベースリフにひりついたギターソロが重なり、じっくりメロディを辿るリヴァーブのかかったヴォーカルもムーディー。もしかしたら彼の頭や心のなかから音楽が生まれる瞬間の高揚はこういう感覚なのだろうか……などと想像が膨らんだ。彼の透明感のある切なく優しい歌声が豊かに響いた【マルタ】は、その解放感に会場が酔いしれる。

s_Renaissance4MCでは山口がアンプラグドワンマンツアーの開催を発表。この日は特にミディアムテンポの曲が多めで、3人の表現力と演奏力をじっくり堪能できたため、このツアーの期待値もさらに上がった。ダイゴマンの決め台詞「全力でぶっ殺しに行くんでよろしく!」を波多野が決めるとラストスパート。【あの頃】はバンドらしい躍動感で魅了し、間髪入れずつないだ【空は機械仕掛け】にも様々なアレンジが施されていた。アウトロの高揚感の余韻に浸っているとすかさず【天使の胃袋】へ。ループマシーンを使うなどして工夫された曲間の美しさにも舌を巻く。疾風のような爽快感から、【旧市街】ではダークで烈々たる音像を作り上げた。

ラストは【海はセメント】。スケールのある山口のドラムはこれまでにないくらい穏やかで大きく、海のイメージと合致した。静かに沈んでいくような感覚になり、それは夢のなかに置き去りにされるようでもあった。眠りにつくような終わり方も悪くない――そう思っていると、アウトロに終わったかと思った物語の続きを示唆するようなアレンジが施されていた。最後の最後でこれまでに見たことのない謎を突き付けられた気がして、続きが知りたくて仕方がなくなってしまった。それは急に夢から覚めた瞬間の感覚によく似ていた。

このマンスリーライヴで、これまでに見たことのない、感じたことのないPeople In The Boxの世界を堪能できている。自分たちの音楽を掘り下げること――それは楽曲への、音楽への愛情そのものだろう。リリースライヴではなく、未発表の新曲を演奏することもなく、ワンマンで既発曲とそれぞれの趣味が出たカヴァー曲だけで構成するセットリストを組むということも意味深い。3人の肉体や思考が、楽曲とさらに近くなっていることを痛感している。

3月から開催されたマンスリーライヴも6月でラスト。「Request day 『People In The Jukebox』」と題してファンのリクエスト曲ばかりを演奏するという。6月にもこれまでにないPeople In The Boxが観られるかもしれないと思うと胸が躍る。それはなんて幸せなことなのだろうか。People In The Boxは自分たちの音楽に向き合えば向き合うほど、リスナーとの信頼関係を強めている。

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People In The Box
CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE 波多野裕文(Gt/Vo) Produce 『Renaissance』
2016.5.13 at 渋谷CLUB QUATTRO setlist

01 技法
02 木曜日 / 寝室
03 逆光
04 割礼
05 みんな春を売った
06 天国のアクシデント
07 手紙
08 季節の子供
09 子供たち
10 Lorelei(※Cocteau Twinsカヴァー)
11 セラミックユース
12 ニコラとテスラ
13 マルタ
14 あの頃
15 空は機械仕掛け
16 天使の胃袋
17 旧市街
18 海はセメント

◆CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE Information
・6/17(fri)「Request day 『People In The Jukebox』」※SOLD OUT
open 18:15 / start 19:00

◆Tour Information
People In The Box「PITB Unplugged 2016」
・8/28(sun)東京Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE(※2部制)
・9/8(thu)名古屋BOTTOM LINE
・9/9(fri)大阪umeda AKASO
・9/11(sun)福岡ROOMS
adv. 4,000yen (1drink別途)
チケット一般発売 2016/7/10(sun)(チケットぴあ/e+/ローソンチケット)

◆More Information
People In The Box official website

◆CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE Report

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