People In The Box-2016.3.6 at 渋谷CLUB QUATTRO

LINEで送る
Pocket

DSC_5864People In The Box
CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE 福井健太(Ba)Produce 『ニューイヤーコンサート』
2016.3.6 at 渋谷CLUB QUATTRO

血が滾る演奏で魅了した2016年初ワンマン

取材・文:沖 さやこ
撮影:Daisuke Miyashita

 

昨年は1月にZepp DiverCityで開催されたツアーファイナルのアンコールで翌日に裏ファイナルの開催を発表したり、47都道府県ツアーを行うなど、リスナーを驚かせたPeople In The Box。彼らからの2016年第一報は、渋谷CLUB QUATTROでの4ヶ月間にわたるマンスリーライヴだった。各メンバーがプロデュースする公演+ファンにリクエストを募りセットリストを組む4公演。リクエスト公演はある程度の予測ができるとしても、メンバーのプロデュースとは……? 初回の3月はベーシスト福井健太による「ニューイヤーコンサート」。4月はドラムス山口大吾による「みんなダイゴマンになるダイゴマンナイト」。5月はギターヴォーカル波多野裕文による「Renaissance」。このタイトルを見て、この3人が同じバンドで活動しているのはまったくもって面白く不思議な事実だなあ、と思った。

「ニューイヤーコンサート」終演後に波多野に話を聞いたところ、福井のプロデュース公演なのでセットリストなどは福井が決め、それに対して彼も山口もまったく口出しをしていないとのこと。そう語る彼はとても楽しそうでうれしそうだった。「ライヴによって主導権を持つ人間が違う」という状況は、バンドに大きく刺激を与えているのだろう。「ニューイヤーコンサート」のPeople In The Boxは、これまで観てきたピープルとは違うフレッシュな空気と雄々しさがあった。

DSC_7547客電が消えBGMが止まるとステージに3人が現れた。登場SEがないというのもコンサートらしい趣。福井がウッドベースを構えるとフロアから静かに感嘆の声が上がる。そして彼が「みなさん、あけましておめでとうございます。People In The Boxです。みなさまのご健康とご健勝を祈って本日のコンサートをさせていただきます」と挨拶をすると、観客の歓声とやわらかい笑い声が響いた。ステージの3人の高揚と観客の高揚が混じり合う。このときから会場はとてもあたたかい空気だった。1曲目は【鉱山】。いきなりライヴでは珍しい楽曲だ。ウッドベースの音色は非常にふくよかで、福井は指で弾くだけではなく弓も使うなど、エレキベースではできないアプローチで魅了。山口もシンバルを効果的に使い、波多野は白いテレキャスターでシタールのような音色をつくる。まだ1曲目だというのに、かなり深い空間に迷い込むような感覚だった。間髪入れずに【ベルリン】。原曲のフレーズを微かに残しつつもだいぶアレンジが様変わりしており、少々不穏なアダルティな空気に観客も翻弄されていく。ここはブルーノートか? という錯覚も起こった間奏のドラムとウッドベースのソロ回しはセッションのよう。そこに重なるギターソロも灼熱だった。観客からも歓声が起き、ソロに没頭する波多野を福井が笑いながら指差すなど、大いに盛り上がった。この曲が【ベルリン】だということをすっかり忘れるほどだった(というか忘れていた)。

たった2曲で圧倒されまくり、確信した。People In The Boxは間違いなく「ライヴバンド」の顔を持っている。そのときその場所でしかできない生演奏と生歌で音楽を作っていく、それは昨年の47都道府県ツアーでも立証されていたが、2016年のピープルはさらに自分たちの音楽とのコミュニケーションが密になっているという印象だ。だからこそ演奏に遊び心がある。そのあとの【新市街】にも波多野の歌にこれまでと違う質感を覚える箇所があった。スタイルはソロ演奏時の側面も出ており、奥底にある人間的などろどろとした部分が吹き出しているようにも聴こえる。演奏後、観客は拍手喝采。大きな歓声も沸いた。

DSC_7724福井いわくこの日のセットリストは「僕が思うピープルのベスト的な選曲」。【翻訳機】【聖者たち】と太い樹木のような雄大な音像をつくり、【馬】では荒々しさと穏やかさの間をしなやかに往来する緩急が素晴らしかった。【おいでよ】は湧き上がる生命力が瑞々しく、【ダンス、ダンス、ダンス】は巧みに楽曲に表情をつけるベースがキュートだった。この日彼はウッドベースや通常のエレキベースだけでなく曲によりアップライトベースやフレットレスベースも使用し、様々な色をつけていた。3人がひたすら音楽に没頭すればするほど観客のテンションも上がり、演奏後は彼らを笑顔で出迎え、それに対して3人が心から感謝する。これこそ「音楽を介したコミュニケーション」だ。「音楽を使ってコミュニケーションすること」とはまったくもって別物である。いまのピープルとリスナーの関係性、なんて理想的なのだろうか。

DSC_7817波多野が「結構血が滾るね。ライヴは最高。俺が生きている、というくらい明確な事実ですね」と朗らかに語る。福井に【ベルリン】のギターソロの話を振られると、彼は「ほんと、頭がクラクラするくらい……。殺すぞ!って気持ちで(笑)。ほんと僕らのイルなスキルを見に来てくれてありがとう」と言い、それに対して観客も声を上げて笑い歓迎した。2曲カヴァー曲を披露し甘く包み込むと、波多野が鍵盤の前につき【きみは考えを変えた】へ。そのまま【土曜日 / 待合室】も鍵盤で披露した。さきほど【ベルリン】を演奏していたバンドとは思えない穏やかさ。曲によってバンドの表情がまったく異なるところからも、バンドと楽曲の付き合い方も変わってきたのかもしれない、と思った。3人が楽曲を操ってみたり、ときには楽曲に操られてみたり。ある曲ではリズム隊が引っ張ってみたり、ある曲ではヴォーカルがど真ん中に来てみたり。朝日のような力強い光を作ったかと思えば、月光のような静かに強かな光を生み出したり。万華鏡のように様変わりしていく。特に【泥の中の生活】は楽曲と自分たちとの距離感を縮めたり離したりを楽しみながら演奏しているように見えた。

DSC_7874恒例のダイゴマンによるMC兼物販紹介のあと、普段なら彼が言う決め台詞「本日も全力でぶっ殺しに行くんでよろしく!」をこの日のリーダーである福井が任され観客のテンションも再度高騰。【逆光】【市民】とエッジのなかに色気を孕ませる演奏を轟かせる。ピープルはさらに腹を割って音楽と会話できるようになったのかもしれない。ラストは【アメリカ】で高らかに華やかにマンスリーライヴの初回を締めくくった。

福井が「アンコールはありません」と宣言していたとはいえ、やはりこのような素晴らしい演奏をされてしまってはアンコールを求めたくなるのが我々リスナーだ。拍手が鳴り止まない。すると福井がひとりでステージに戻ってきた。彼が少々申し訳なさそうに「波多野ちゃんから伝言で“お前らを満足させると思うなよ!”って(笑)」と笑うと、もちろん場内大爆笑、気持ち良くアンコールの拍手を止めた。音楽とも良好な関係を深めているPeople In The Boxは、観客との関係も上々。来月の「みんなダイゴマンになるダイゴマンナイト」も快い演奏が期待できそう……だがやはり気になるこのタイトル。一体次回はどうなるのだろうか? 1ヶ月後を楽しみに待ちたいと思う。

People In The Box
CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE 福井健太(Ba)Produce 『ニューイヤーコンサート』
2016.3.6 at 渋谷CLUB QUATTRO setlist

01 鉱山
02 ベルリン
03 新市街
04 翻訳機
05 聖者たち
06 馬
07 おいでよ
08 ダンス、ダンス、ダンス
09 Chicago(※Sufjan Stevensカヴァー)
10 anyone can fall in love(※kindnessカヴァー)
11 きみは考えを変えた
12 土曜日 / 待合室
13 開拓地
14 泥の中の生活
15 逆光
16 市民
17 ニムロッド
18 気球
19 アメリカ

◆CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE Information
・4/8(fri)「山口大吾(Dr) Produce 『みんなダイゴマンになるダイゴマンナイト』」
・5/13(fri)「波多野裕文(Gt/Vo) Produce 『Renaissance』」
・6/17(fri)「Request day 『People In The Jukebox』」
時間:open 18:15 / start 19:00
料金:adv. 3,800yen (1drink別途)
チケット一般発売中:チケットぴあ/e+/ローソンチケット

◆more information
People In The Box official website

LINEで送る
Pocket

Tags: