creature falls umbrella-2016.9.3 at 大塚Hearts+

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SONY DSCcreature falls umbrella
creature falls umbrella企画【傘の下の音楽祭】
2016.9.3 at 大塚Hearts+

たった一雫の雨粒から生まれた色とりどりの物語

取材・文:柴 萌子
撮影:蛙田 佑介

 

2014年に結成され、昨年3月から活動を開始したcreature falls umbrella。そんな彼らがバンド初となるミニアルバム『mistletoe』をこの夏リリースした。そして、発売を記念して去る9月3日に「傘の下の音楽祭」と銘打った自主企画ライヴを大塚Hearts+にて開催。当日は夏の終わりを告げるような生ぬるい雨粒が身体に染み渡る日で、まさしく「傘の下の音楽祭」にぴったりの空模様だった。

1番手は、toah。彼らの奏でる音楽の要は、ライヴハウスの暗がりを仄かに照らすライトと並行しながらどこまでも駆け抜けていく爽快感にあると私は感じる。アクトは【シーソールーム】で幕を開けた。糸のように細くてキレのあるギターに、ベースとドラムが程よい重みを加えながら太く堅固なサウンドを作り上げていった。曲と曲の隙間が、ドミノ倒しの如くシームレスに繋がっていく。耳元をくすぐるのは、繊細かつ丁寧に紡ぎされたひとつひとつの音たちだ。まるで海風のような温かく湿り気のある感触を忘れられない。ひと夏の終わりをひしと感じた。風のような彼らの音楽は、これから多くのステージを経験していくことによって、耳元だけでなく鼻先を掠めるほど馨しいものになるだろう。

Marmalade butcherはtoahと打って変わり、疾風怒濤の音楽といえる。感じる隙を与えないのだ。インストバンドゆえ個々のメンバーの卓越したテクニックや、緻密に計算されたと感じてしまうほど息のぴったり合った演奏は、「聴く」という行為自体を奪い去っていく。しかも、ひとえに「聴く」行為を奪うといっても、血が迸るような暴力でもって奪うのではない。ナイフの先端がうなじをひんやりと掠らせ、感情をさめざめと疼かせる。雷鳴のようで、かつ鮮明でジリジリと情景が目に焼き付くような彼らのアクトは、歌詞がなく、音のみで表現するインストバンドでしかなし得ることのできない衝撃を与えた。

3番手として登場したaquarifaのVo/Gt岩田真知は、この日の全バンドメンバーのなかの唯一の女性だ。エモーショナルな演奏と、甘くポップな彼女の歌声が耳に焼き付く。踊りだしたくなるメロディーだからか、フロアからステージに向けて腕を掲げる光景が見えた。星の数ほどのバンドがあるこの時代、それぞれが多種多様な「激しさ」を持っている。ステージが淡々と「激しさ」を見せるいっぽうで、フロアが傍観するだけのアクトをするバンドも多い。しかし、彼らのアクトで垣間見えた「激しさ」は、ステージとフロアが渾身一体となって双方が動きを伴っていた。音楽を聴くと身体が動き出す衝動に駆られることがある。そのような本能に素直になって踊れる空気を作り出し、会場内を熱気で包み込んだ。

SONY DSCトリを飾ったのはcreature falls umbrella。時計の秒針を刻むようなリズミカルなSEはまるで彼らの世界へ誘うかのようで、瞬く間に会場内の雰囲気を冷んやりとした心地よさへと変わっていく。【映画】から始まった彼らのアクトは、傘の下で雨宿りをしているようなものではなく、地上よりもむしろ雲の上で鳴り響いている音像が浮かんだ。【彗星】では柔らかにうねるベースと切れ味のよいカッティングが、その輪郭をより一層鮮明にさせる。そして、飛行機が雲のさらに上までひたすら上昇するように、彼らの音は疾走感を増していく。ほんのりと毒々しさが漂う【トリガー・ハッピー】は、Vo/Gtグシミヤギヒデユキの甘酸っぱい歌声と相まって、その毒々しささえも優しく染みこんでいった。

SONY DSCアルペジオが特徴的な【シリウス】【機械じかけの森】は、糸を紡いで出来上がった触り心地のよい布生地に包まれているような安心感をもたらしてくれる。夜の暗闇を揺蕩う優しい音色は、人肌に近い温度を持っていた。そして、ミニアルバム『mistletoe』の1曲目を飾る曲【クローゼット】は、結成から2年とは思えないほど、説得力のある音でフロアを揺さぶる。音と歌詞がリンクしていて、ふとした日常の場面を想起させてくれるのが、彼らの音楽の大きな特徴だと思った。【題名のない絵画の中で】は、朝の窓際に降り注ぐ光さながら夢の終わりを告げる。その情景は〈白いシーツの上で体温は/みるみるうちに下がり切って/君がいない朝へ〉の歌詞によってより鮮明に、脳裏に映しだされた。以前インタヴューでグシミヤギは夜が好きだと語っていたが、彼らの音楽は「夜」や「夢」、「森」のような幻想的な場所へと連れだしてくれるのではないだろうか。

SONY DSCアンコールでは【メトロノームがきこえる】が演奏された。時計の針を巻き戻すような旋律が、彼らのアクトを走馬灯のように脳裏を駆け巡らせる。アンコールが終わってフロアが明るくなった瞬間、先ほどまでいた世界から遠く離れてしまったようで、せつなくなった。今回の自主企画ライヴに4バンドについて、グシミヤギはMCでそれぞれのバンドを迎えた経緯を述べた。「最初はお互い陰険な雰囲気が漂っていた」らしいtoah、「うらやましいほどのインストバンド」のMarmalade butcher、そして「ライヴハウスで出会い、ミニアルバムにコメントを寄せてくれたことから親交が深まった」aquarifaは、どれも2010年代の邦楽ロックシーンを担うバンドだ。グシミヤギにとって彼らは仲間であるとともに、切磋琢磨しあう戦友なのだろう。傘の下に集うバンドたちの等身大の今の姿を魅せつけられた。

 

◆disc review
mistletoe_jk
creature falls umbrella『mistletoe』
BOOTHで購入する⇒https://cfu-official.booth.pm/
2014年結成、昨年3月より活動を開始したcreature falls umbrellaの1stミニアルバム。当作品ではTHE NOVEMBERSやindigo la Endなどが使用していることでも知られるTRIPLE TIME STUDIOの岩田純也をレコーディングエンジニアに迎えている。当作品のテーマは「日常」と「孤独」。近くにいるはずなのに、永遠に分かり合うことのできない”僕”と”わたし”のふたりの抱くせつなさが綴られた言葉を、グシミヤギ ヒデユキ(Vo.&Gt.)がピアノの音色のような明瞭で透明感のある声で歌いながら紡いでいく。また、ボーイミーツガールの情景をありありと浮かび上がらせるギターは水飛沫のように心地よい。瑞々しさに満ち満ちた、爽やかでキャッチーな音が奏でる6つの物語だ。彼らの音楽はこれからどのように花開くのだろうか。聴けば聴くほどメロディーや歌詞が頭を駆け巡り、じっくり堪能したくなる必聴の一作である。(柴 萌子)

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その日常はなぜ日常なのか――creature falls umbrellaの音楽に渦巻くグシミヤギヒデユキの思考

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