People In The Box-2017.1.27 at めぐろパーシモンホール・大ホール

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空から降ってくる vol.9 ~劇場編~
2017.1.27 at めぐろパーシモンホール大ホール

10周年イヤーの幕開けで示すバンドの現在位置

取材・文:沖 さやこ
撮影:Takeshi Yao

 

People In The Box恒例のライヴシリーズ「空から降ってくる」。通常のツアーとは異なるコンセプチュアルな内容が特徴で、なかでも“劇場編”と称されたものは毎度ホールで開催され、チェロ奏者の徳澤青弦が参加した公演などもある。People In The Boxの音楽も生演奏も音のなかに浸かるような感覚を覚えるため、聴くというよりは体感という言葉が相応しい。特に“劇場編”は格別。東京グローブ座、芝メルパルクホール、東京PARCO劇場など、普段あまりロックバンドがライヴを行わないホールで開催されるため、会場に向かうことが既に新鮮だ。

今回の会場は東急東横線都立大学駅から徒歩数分、坂をのぼった丘の上にある、めぐろパーシモンホール。都立大学跡地に作られた、ホールや図書館、体育館などのある複合施設「めぐろ区民キャンパス」内にある。ちなみにパーシモンは「柿」のことで、柿の木坂地区にあることから由来している。周囲は豊かな芝生に覆われており、建物もフローリングの床など木材を多く使った内装、大きな窓が美しい。ギターヴォーカルの波多野裕文がこのツアーのために作ったBGMも相まって、会場には穏やかな空気が流れていた。

この日は2部構成。開演前BGM同様に波多野作のSEが薄暗い会場に流れ、白いシャツを纏った3人が登場する。ステージの真上にぶら下がった電灯型の照明が薄暗く彼らを照らした。その密やかな空間に、リラックスするのと神経を集中させようとする意識の両方がはたらく。1部1曲目は【野蛮】。波多野の声がキーボードと連動しているのか、彼そのものの声と機械的な彼の声がふくよかなハーモニーを作っていく。最後は福井健太のベースの音のみになり、そこから彼の弾くイントロで【見えない警察のための】へ。ステージは少しずつ明るくなる。ホールならではの豊かな音の響きは心地よく、気付けば自分も身体を預けるように座席に腰かけていた。続いての【時計回りの人々】で、ステージ背景で細く開いた黒カーテンの奥が橙色にぼんやり光っていた。この曲でドラムスの山口大吾はジャンベを叩く。「様々な趣向で演奏していく」と波多野が語ったように、彼もアコギ、キーボードを使い分け、福井も曲によってはアップライトを使い、3人はアコースティックにとどまらないアプローチで楽曲の新たな表情を引き出していった。

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黄緑色の照明が灯った【数秒前の果実】はピアノアレンジ。【さまよう】はピアノとジャンベとベースというシンプルな音像で歌詞が際立ち、青色の照明も相まって泣き笑いのような優しさと切なさが宿る。【空は機械仕掛け】は山口の繊細なシンバル使いが、澄んだ空気を音にしたらこんな感じかもしれないと思うほどの透明感だった。ホールならではの豊かな響きに加え、木をたくさん取り入れた会場というのも影響しているのかもしれないが、森林浴をしているような感覚に陥った。それぞれが自立していながら調和を持つ3人の音像も、木々、川、動物が共存する森の風景と似ているような気がする。

【昏睡クラブ】では山口が激安の殿堂で購入したという、押すと鳴き声の出る細長い鳥型のおもちゃでリズムを刻むというなかなかシュールな展開。曲中でその鳥が長々と叫んだときは恐ろしさと可笑しさで鳥肌が立った。そしてあれだけ鳥が鳴くなか平然と歌ってのける波多野もさすがのヴォーカリストである。【ダンス、ダンス、ダンス】でゆったりと1部を締めくくり、3人はステージを後にした。すると細く開いていたカーテンが大きく開き、スクリーンが登場。2部構成のライヴでは恒例と化してきた山口大吾ドッキリ企画「ダイゴマンが行く!」VTRが公開された。今回は蕎麦の魅力に気付いたと熱弁していた波多野に対して山口が「そば打ちをしてみたい」と返したという、レコーディング中の何気ない発言からそば打ち体験をすることに……という内容。そのころステージではセットチェンジが着々と進み、波多野のポジションからキーボードの類が取り除かれる。どうやら彼が2部で扱う楽器はギターのみのようだ。

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2部はお馴染みのJim O’Rourke【And I’m Singing】がSEとして流れ、デビュー10周年記念ベストアルバム的な意味合いのある最新作『Things Discovered』に収録されている新曲【木洩れ陽、果物、機関車】を1曲目として届ける。アウトロで波多野の力強いカッティングが瑞々しい音色を放ち、山口が濃淡のあるドラミングで締め、福井が【球体】の導入部へつなぎ、すかさずそこに山口も入る――冒頭から3ピースとしてのしなやかさと屈強さを見せつけた。

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波多野が「今日『Things Discovered』から演奏する曲はさっきの【木洩れ陽、果物、機関車】くらい(笑)。その代わり新曲を持ってきました」と言うと、タイトル未定2曲と【動物になりたい】の計3曲の未発表曲を披露した。風変わりな雰囲気さえも心地いい可愛らしさのある曲、展開が激しく緊迫感もあるPeople In The Boxの持ち得るものすべてを注ぎ込んだと言っても過言ではない曲、8分の6拍子のやわらかい曲と、すべてが次回作への期待を煽る。【冷血と作法】は福井のベースの存在感に釘付けになった。一体どんな指をしているのだろうかと感心を通り越して恐ろしくなるほどのプレイだ。

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MCで山口が「安曇野へそば打ちに行ったときにお土産を買ってきて、座席3ヶ所の椅子の裏に隠してある」というサプライズ告白をし、観客は慌てて自分の座席の下を確認する。ラッキーな3名がダイゴマンからのお土産をゲットした。「本日も全力でぶっ殺しに行くんでよろしく!」の決め台詞でラストスパート。特に山口のドラムソロから始まった【逆光】は開放感と緊迫感のコントラストに感嘆の溜息が零れた。波多野が「10周年イヤー、楽しんでいきますので応援よろしくお願いします」と晴れやかな顔で語ると、ラストは【汽笛】。その言葉の通り、清々しさと10年で培った底力を感じさせる演奏だった。近年のPeople In The Boxは身体から湧き上がるナチュラルな音を奏でている印象があるが、緊張感や気魄を失うことはない。彼らの言う「楽しむ」や「自然体」は真剣さが不可欠だ。自分たちはいまどんな音を生むことができるのか、それに胸を高鳴らせ魂を燃やしているようにも見える。だからこそ、絶えず変化をしつづける彼らの音楽の行方が気になって仕方がないのだ。

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◆Live Information
People In The Box
10th Anniversary『Things Discovered』release tour
2017.5.7(sun)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2017.5.12(fri)北海道 Sound Lab mole
2017.5.14(sun)宮城県 enn 2nd
2017.5.19(fri)香川県 高松MONSTER
2017.5.20(sat)広島県 SECOND CRUTCH
2017.5.21(sun)福岡県 DRUM Be-1
2017.5.26(fri)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
2017.5.27(sat)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2017.6.3(sat)東京都 新木場STUDIO COAST
※チケット料金 全公演 前売4,000yen
※チケット一般発売日 2017.3.26(sun)

◆Release Information

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◆More Information
People In The Box official website

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