miida – 2019.10.4 at 下北沢 GARAGE

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photo by 井上ユリ

miida
miida “first show”
2019.10.4 thu at 下北沢GARAGE

少数精鋭ならではの豊かなサウンドスケープとは?
初ワンマンで見せた音楽の可能性

取材・文 沖 さやこ

 

ねごとが解散する際、その後の活動がいちばん読めなかったメンバーが沙田瑞紀だった。もちろん音楽の才能に秀でている人物である。だが彼女がサポートギタリストをする姿も、作家として活動する様子も、ねごと以外のバンドでギタリストを務める姿も、どれも想像できなかった。既婚女性だから出産や育児に専念する可能性もあるが、あれほどに音楽の造詣が深い人が音楽を手放すだろうか。そんなことを考えているタイミングで、彼女がドラマーとともにmiidaというユニットを組み、ヴォーカルも務めると知り、見事に腑に落ちた。同時に自分の頭の固さを思い知った。

9月にShibuya 7th Floorにて行われた”PLAY in the HAUS”公開収録イヴェントと、10月のワンマンという2本のmiidaのライヴを観て最も強く心に残ったことは、初めて沙田瑞紀といういちミュージシャンに触れられた、ということだ。5年半もねごとの取材をさせてもらっていてお前はなにを言っているんだ、と我ながら思う。だが裏を返せば、それほどねごとはバンドらしいバンドであったということ。4人の秀でた部分を生かしたうえで、様々な人の力を借りながら、時に試行錯誤しながら、4人はねごとというひとつの生き物を真摯に育て続けていた。

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photo by アベカツノリ

だからこそmiidaのステージも、miidaのZINEに掲載されていた沙田とsugawaraの対談も、観ていて読んでいて「ああ、やっぱり瑞紀さんはこういうことを考えている人なんだな」「こういう音楽を美しいと思う人なんだな」と答え合わせをするような感覚があった。バンドの進化のために心血を注いでいたのがねごとの沙田ならば、miidaの彼女は自分の心の豊かさを最重要として音楽と向き合っているのかもしれない。miidaの音楽には、sugawaraの持つソウルやロック、ヒップホップなどセンスやキャリア、沙田のねごとで培った素養、この編成だから実現できる表現、ふたりの信頼関係や知的好奇心がピュアな状態で存在していた。

miida初のワンマンライヴは、sugawaraの所属していたSueyも出演した、2010年2月6日に開催されたねごと初の自主企画「お口ポカーンフェス?! vol.1 〜お留守番はまだ早い?〜」の開催地でもある下北沢GARAGEが選ばれた。1曲目【Blue】でギターヴォーカルスタイルを披露する沙田は、9月の7th Floor時よりもどこか緊張した様子。あのイヴェントは「miida(before the beginning set)」という名義で参加していたことからもわかるとおり、トライアル的な位置づけだった。やはり新しいスタートはこの初ワンマンという気持ちが強かったのだろう。

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photo by アベカツノリ

sugawaraのドラムに、沙田のギターとキーボード。それ以外の音の出力はラップトップを使用する。不穏さとポップネスを併せ持つ【bergamot memories】は沙田のギタープレイが光り、【wagon】ではポストロック的なビート感とエレクトロのビート感、煌びやかなうわものなど、オケで空気感を作り出す。生音とプログラミングの比重や観点が曲ごとに異なるところに、ふたりの柔軟な思考や感覚がよく表れていた。

音源のリリースがないなかで、チケットは即ソールドアウト。リスナーたちの「どんな音楽なのかはわからないけれど、沙田瑞紀のすることなら間違いないだろう」という、これまで彼女が発信してきた音楽への信頼の証だ。沙田がハンドマイクでパフォーマンスした夜に合うアーバンな【melt night】や【empty】、ヒップホップ的なビート感を持つ【good morning】や【Lady】など、miidaの音楽は音像で空気感や情景、心情を描くものが多い。だからこそ聴き手の身体に染み込んでくる感覚がある。潤いを多く含んだムードのある沙田の歌声が、それに拍車をかけていた。クール、アンニュイ、センチメンタル、ポップ、朗らかさ、爽やかさ、など豊かな音色が聴き手のイメージに次々はたらきかけてくる。それは様々な視点や想いが丁寧に嘘偽りなく編み込まれているからだろう。この割り切れなさ、着地しない感覚や曖昧さが、miidaの音楽の心地よさの一因である気がしてならない。

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photo by アベカツノリ

音楽好きの少女の恋の歌である【Utopia】を披露したあと、沙田はこの曲がmiidaにとって最初の曲であること、初めて「自分の歌を書くぞ」という想いのもと書けた曲である旨を語る。今後制作する楽曲に対しても「1曲1曲ちゃんと想いを込めて作っていきたい」と笑う彼女は無理なく自然体。翌日からレコーディングに入ることも明かし、「いい空気を吸い込んでそれをすぐかたちにしよう!と自分たちを追い込んだ」と初音源への期待も覗かせた。最後に届けた【Grapefruit Moon】は、眠りに就くような締めくくりの印象を与えると同時に、夢の世界の幕開けのようでもある、スケール感と包容力に溢れたサウンドスケープ。miidaというユニットが始動したことをあらためて感じる一幕だった。とはいえまだまだ謎も多いmiidaである。今後ふたりがどのようにユニットを動かし、どんな音楽を発信するのか。建設中の塔を見守るような気持ちで楽しみに待ちたい。

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photo by アベカツノリ

 

◆SET LIST
2019.10.4 miida“first show”
@shimokitazawa garage
1. Blue
2. bergamot memories
3. wagon
————–mc————–
4. melt night
5. empty
6. good morning
————–mc————–
7. Lady
8. Dejavu
9. HOPE
————–mc————–
10. taxi
11. rain
12. Utopia
————–mc————–
13.Grapefruit Moon

◆miida information
https://miida.tokyo/
https://twitter.com/miida_official
https://www.instagram.com/miida_official/

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