十年選手の初期衝動――ガストバーナーがオルタナ×歌謡メロで体現する幸福論とは(前編)

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◆「誰が欠けてもこの音は出せない」と思ったし、そういうバンドをずっとやりたかった

――はやおさんがドラマーを務めることになって、はるきちソロバンドとは異なるバンドのイメージが湧いたことが、ガストバーナー結成につながっていったんですね。はやおさんはお話をもらってどう思われたのでしょう?

はやお はるきちさんから「やってくれるって聞いたけど?」って電話が掛かってきて、まず最初は「わー、あんなこと言うんじゃなかった!」と思って(笑)。

――あははは。大阪にお住まいですものね。

はやお でも本人のいないところで「やります」言うて、いざ打診されたら「やらない」というのはダサいので、勢いで「やります」と言いました(笑)。でもぽろっと言った言葉がこうやってつながるのは縁やと思うので、そういうのは大事やし。

 

はるきち ……でも最初は「みそっかすで出すつもりだった曲たちを新しいメンバーで理想のかたちに蘇らせられたらな」と思ってたから、新しいバンドで新しい曲を作っていくことにちょっと自信がなかったんですよ。でもはるきちソロバンドに自信があるかというと、そういうわけでもなかったし。それでマイケルに相談してみたら、「新しくバンドを作るなら作曲に協力する」と言ってくれて、それならやれるかなと思ったんです。マイケルの後押しは大きかったですね。りっちゃんを薦めてくれたのもマイケルなんです。

――辻斬りっちゃんさんはたしかにはるきちさんのイメージどおり、かなりごりごりのベースを弾く方です。

はるきち りっちゃんは、マイケルがサポートをしてたパイプカットマミヰズで、サポートベースを弾いてたんです。僕もりっちゃんのベースは一度聴いたことがあって、一度飲んだこともあったので、もう一度ちゃんと生でベース弾いてるりっちゃんを観に行って。弾き方はタイトなのに音が破滅的だし、「コノヤロー!」って感じで弾いてるのもいいなって(笑)。りっちゃんは凛として時雨が好きで、洋楽のオルタナをあんまり知らないのも面白いなと思ったんですよね。

辻斬りっちゃん(Ba) そのときに「りっちゃんにベース弾いてもらうかもしれないから観に来たわ」と言われたんですけど、全然信じてなくて(笑)。はるきちさん、冗談なのか本気なのかわかんないような雰囲気なんですよ。なんなら話してること全部冗談みたいに聞こえるし。

 

はるきち 俺のイメージ最悪じゃない?(笑)

りっちゃん はるきちさんが観に来たあと、携帯見たら「はるきち」って名前の人からLINE電話の着信があって。「わたしの知ってるはるきちさんってデストロイはるきちさんくらいだし、はるきちさんから電話来るわけないし、なりすましか間違い電話だな」と思ってそのまま無視しようとしたんです。でもアイコンがTwitterと同じカエルだったので、念のため折り返してみたらはるきちさんでした(笑)。そしたら「バンドやらん?」と言われて……あ、あれマジだったんだ!って。

一同 あははは!

りっちゃん でもやっぱり冗談みたいな雰囲気だったんで、本気かどうかわかんないけど「やります」と答えたら、本当でした(笑)。みそっかすは名古屋を代表するバンドのひとつだから、はるきちさんなんて知り合いがいくらでもいるだろうなと思ったし、そこでわたしなんかに声を掛けてくれたのが信じられなかったんだと思います。夢のような話が夢じゃなくてうれしかったです。

――加納さんはお声が掛かっていかがでしたか?

加納靖識(Gt) もともと10年来の音楽友達でもあるし、みそっかすの最後のサポートをやっていたのもあって、けっこう自然な感じでしたね。みそっかすの最後の曲作りにも参加させてもらってたので、はるきちさんやマイケルと曲作りをするのは楽しいだろうなと思ったし――僕は完全にその延長線上です。素直な気持ちで「一緒にバンドやりたいな」って。

――みそフェス(※みそっかす主催のサーキットフェス)や対バン自主企画で磨かれてきたはるきちさんのブッキング力や企画力が、メンバー選出やバンドに生かされているような。

はるきち たしかに、「このバンドとこのバンドとこのバンドが揃ったら絶対面白いイベントになる!」と思ってブッキングするように、この4人で曲を作ったら絶対いいものになると確信があったし、このメンバーで新しくバンドを組むと考えたらわくわくして。本能のままに動いて声を掛けて、最初のスタジオの日程まで一気に組みました(笑)。はやおくんのドラムでバンドを組むにあたって、想像したギタリスト、想像したベーシスト――全員第一希望です。

――でも楽器隊3人はそこまで深い面識はなかったんですよね。

はるきち 初めてのスタジオの空気、絶妙だったよね(笑)。俺はすごく楽しみで、わくわくしながらスタジオに行ったんだけど、来てみるとなんとも言えない緊張感が……。

加納 そりゃあ緊張しますよ(笑)。

はるきち それで「ひとまず音出してみますか」ってバーンと合わせてみたら、そのあとみんな自然と「えっ、かっこよくない!?」みたいに喋りだして、急速に仲が深まっていきました(笑)。それがすっごい面白かったですね。

――音で会話する。ロックバンドですね。

加納 音を出した瞬間から、りっちゃんとはやおくんの音がでかくて、アンプのつまみをガッと上げました(笑)。みそっかすでは「もっと音絞って」と言われることが多かったので、その「音でか!」って感覚も久し振りで、楽しかったんですよね。

はやお 大阪から名古屋に来てるので、そのぶん「よっしゃ、やってやるぞ!」って感じでめっちゃ気合い入ってました(笑)。そのぶん肩透かし喰らったらいややなあと思ってたんですけど、いざ全員で音を鳴らしてみると、これまでやってきたバンドのなかでも、一人ひとりの音が個性的すぎて……。「名古屋に来たらこんな面白い人たちとバンドできるんや!」っていきなり楽しくなっちゃって、音がでかくなっちゃったんだと思います(笑)。音がみんなヤバい。自分の音の個性を崩すような遠慮を誰ひとりしてないですね(笑)。

りっちゃん わたしは「音楽」というより「バンド」が好きで。ロマンチストなので、「このバンドにしか出せない音がある」という奇跡があると信じて生きてきたんです。ほとんど会話をしていない状態で音を出したんですけど、まず一発音を出した瞬間に、すっごいドキドキして。それこそ魔法にかかったような感じがして、家に帰ってからも興奮が続くような衝撃があったんです。一世一代の恋に落ちたのと同じような感覚でした。各々みんな好き勝手音を鳴らしてるのに、しっかり合致していて。「誰が欠けてもこの音は出せない」と思ったし、そういうバンドをずっとやりたかった。だからすごく幸せでした。奇跡の融合だなって。

加納 じつは各々同じ時間軸を過ごしたタイミングがあったことが、後からわかったんです。僕は前のバンドで、はやおくんが前やってたバンドと同じフェスに出ていて、りっちゃんが前やってたバンドと対バンをしていて。その後それぞれバンドが休止したり、解散したり、脱退したり――そんな4人がひとつのバンドに集まるのは面白い縁だなと思いましたね。

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強烈な個性を持つ4人の音に導かれるままに生まれるガストバーナーの楽曲。それは「遠距離バンド」を逆手に取った制作手法で生まれていた

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