ココロオークションが明確にした自分たちの本質――バンドの新章開幕を告げる『Memorandum』

◆日を重ねるごとにより密度が濃い作品になっていっている

――『Memorandum』は2020年9月にリリースされたからこそ、みなさんの活動によって描かれたテーマに具体性が増して、強い説得力を持つことができたんじゃないかなとも思うんです。

大野　コロナのコの字も知らない時期に完成した作品やけど、僕らがはっきり見つけた「あの時の気持ちは自分たちを救って導いてくれる」という考え方は、コロナ禍のなかで助けになるんじゃないかなと思うし。ちょっと運命めいたものを感じてはいますね。このタイミングでリリースすべき作品だったから、リリースが遅れたのかなと。日を重ねるごとにより密度が濃い作品になっていってると思いますね。僕らのやりたいことと僕らのやっていることが、どんどんグッと噛み合っている気はしてます。

粟子　イレギュラーな状況でこそ効き目のある曲たちなんかな、と思っていて。過去に立ち戻るって、今悩んでいる人にこそ必要なことやと思うんです。不安を感じている人、これからどうしようか悩んでいる人に現在位置を教えてあげられたらな、という気持ちはありましたね。

――【手作り飛行船】や【ロックスターに憧れて】は歌詞とサウンドともに、はっきりとバンドコンセプトが表れた楽曲になりました。

粟子　制作しているときに「大人よりも幼い頃のほうがやりたいことがある」という記事を読んだんですよ。大学や専門学校のイベントに出る機会も多かったんですけど、今の若い人たちは「やりたいことがない」「自分がなにをするべきなのかわからない」という人が多くて。僕も音楽に出会う前はそういう人間やったから、助ける……というとおこがましいかもしれないけど、「忘れているだけであなたは昔持っていたはずだし、すぐそばにあるんだよ」と手を差し伸べられたらなって。

大野　【ロックスターに憧れて】ももともと好きな感じのサウンドで、可愛らしい原点回帰っぽさがあるシンプルなバンドサウンドに着地して。この曲は『VIVI』の経験が生きたかな。バンドの風通しはどんどん良くなってるので、そういうのも音に出てきてる気はしてますね。

テンメイ　うん。頭で鳴らすというよりは心で鳴らすような――頭だけで物事を見てると視界が狭くなっちゃうけど、心で見ると広がっていきますよね。『Memorandum』全体がそういう作品になったなと思います。

――【少し長い話】もタイトルだけだとメッセージ性の強いバラードかと思いきや、少し長い話をしようとする前のときめきやドキドキが軽やかに綴られていて。「いつ収束するのかわからない」という状況だと、「この先にお楽しみが待っている」と感じられる楽曲が、すごく救いになりました。

テンメイ　10曲くらいあるなかから『Memorandum』のテーマに沿う楽曲を選んだんですけど、アルバムの最後にこれからを感じられる曲が入れられるのは素敵なことだなと思って。

粟子　「終わりがあるから今がある」と歌い続けてきてるとは思うんですけど、今回「この先」に続くニュアンスがあるのも、いままでと同じこと言うてる気もしてるんです。言いたいことは同じやけど、こういう伝え方もあるんやなと気付いたのかもしれないですね。

 

◆「メンバー全員がめっちゃいい！と思っている曲ばかりだ」という安心感がある

――リスナー側からすると「これから先、ココロオークションの“少し長い話”が聞けるのかな、それってどんな話なのかな」という余韻のなかにいるのですが、バンドとしてはいかがでしょう？

大野　曲作りに対する風通しがすごくいいので、もっともっといい曲作れるなって思ってますね。曲が主役、曲ありきの世界観を作って、それを出来る限り良いものにしていきたい。ライブの機会が減ったからこそ「こういうシチュエーションで聴いてもらいたい」や「こういうふうに伝わってほしい」と考えるようになったし、ライブハウスで聴いても満足できることはもちろん、日常のなかで耳にできるポップスにもしていきたいですね。

――最近生まれているのはそういう楽曲なんですね。

大野　はい！　6月くらいに作った曲があるんですけど、いいんですよ。いい曲です！　お気に入り度高めですね。

井川　でも最近新曲のデモもらってないので、早く聴きたいなあ（笑）。

大野　（笑）。『VIVI』あたりからアルバムの選曲を4人全員でするようになったので、「メンバー全員がめっちゃいい！と思っている曲ばかりだ」という安心感があるんですよ。粟子さんと僕がめっちゃいいと思ってる曲でも、テンさん（テンメイ）とさっちゃん（井川）のリアクションがあんまりやな……と感じたら平気でボツにするし（笑）。4人の思う「ココロオークションとして世に出すべき」というフィルターを通過した曲たちやから、ココロオークションらしさが失われるわけがない。だからこれから出していく曲たちにも自信がありますね。

――このご様子だと、ココロオークションは今年だけでなく来年の活動10周年も、とてもいいモードで迎えられそうですね。

井川　こんな状況でも僕らのことを見てくれている人はつねにおって。そんな人たちが「2020年大変やったけど、ココロオークションのこと好きで良かったな」「ずっと追っかけてて良かったな」と思ってもらえるような存在になれてたらいいなあ、と思ってますね。

大野　ココロオークションは4人の遊び場であってほしいんです。4人ともココロオークション以外の人生のほうが多いから、そこで学んだことや思ったことを発信するひとつの場所としてココロオークションを使ってもらえたら、いいものが生まれるんじゃないかな。そのためのチャレンジならいっぱいしていきたいですね。

テンメイ　ココロオークションは船みたいなもんだなと思います。船旅に出るように「ちょっと曲作りに行くかー」とか「ライブしに行こか」みたいな感じ（笑）。もしかしたら道中トラブルがあるかもしれないけど、船に乗ってる目的はみんな同じやから、きっと乗り越えられると思う。

大野　港に戻って、ココロオークション号から降りたら別行動やな（笑）。

テンメイ　そうですね、それくらいの距離感（笑）。

粟子　そうやなあ……。僕、もともと目標とか目指す場所とかがなくて。でも今は、ココロオークションというバンドを続けていること、バンドをやっていることが目的なんやなと思うんです。そう思うようになると不思議なもんで、「出られるもんなら紅白とか出てみたいな」と思うんですよね。そんなことまったく思ったことなかったのに。

――バンドを続けたいという想いが、たくさんの人に届けたいという想いとつながっていっているのかもしれないですね。

粟子　「この前気付いたこういうことをみんなに教えてあげられたらいいな」という気持ちが出てきたので、たくさんの人に聴いてもらいたい。だからこそ、ココロオークションというバンドが長く存在してくれるといいなと思ってますね。

テンメイ　どこか遠くの場所を目指すんじゃなくて、ココロオークションをそういう場所にしたい、って感じですかね。

一同　うん、そうやね。

 

◆Release Information
ココロオークション『Memorandum』
now on sale
BOGUS RECORDS / TEB-101
￥1,818（without tax）
[Track List]
1.手作り飛行船
2.ロックスターに憧れて
3.贈り詩
4.ミルクティー
5.少し長い話
[Buy or listen]
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