求めてもらえるから生きていける――FLiP活動休止から5年半、より自由に躍動するSACHIKOの音楽欲
◆「後悔が残らないくらい1回やり切ってみるのが必要だと思う。やり切ってないから引っかかってるんでしょう?」という言葉に、確かにそうだなと納得した
――バンドサウンドがやりたくてMAISON”SEEK”をストップさせたものの、その頃のSACHIKOさんは音楽と距離を置いていたような印象があって。
SACHIKO MAISON”SEEK”の活動を止めることを決めたのは自分なのに、そこで一気に気持ちが落ちちゃったんですよねー……。「自分は何がしたいんだろう?」という疑問に陥ったときは、自分で答えを見出さないと進めないじゃないですか。ポジティブなマインドならわくわくできるんだろうけど、やっぱりわたしは生きていくうえで恐怖の感情が勝ってしまう。「わたしに音楽を作るセンスなんてないんじゃない?」と思うようになったら音楽を作りたくもなくなって、そうすると明日も必要なくなって。この世から消えてしまいたいとずっと思っていたんです。
SACHIKO でもそのたびに信頼している人から「音楽を辞めないで」と止められて、少しずつ音楽を続けていく理由を探していたんです。そういうなかで、いろんな経験を重ねて結果を出し続けている、とある尊敬する先輩に「つらくてつらくて仕方がないとき、どうやって切り抜けていますか?」と相談をして。そしたら先輩は「“人生のなかで1番だ”と思える曲を、ミニアルバム分くらい作ってみたら? それを作った結果どんな未来が待っているかはわからないけど、後悔が残らないくらい1回やり切ってみるのが必要だと思う。やり切ってないから引っかかってるんでしょう?」と提案してくれたんです。確かにそうだなと納得して、「バンドをやりたいから、バンドのための曲を作っていこう」と曲作りを再開していきました。
――2020年1月に「今年の目標は新しいバンドを組む」とツイートしてらっしゃいましたよね。
SACHIKO そのツイートをした頃に、バンドでやりたい曲が10曲くらい揃ったんですよね。それでメンバーを探し始めたら、コロナウイルスが流行り始めて。音楽の世界もこれからの生活もどうなるかわからない状況に陥ったことで、信頼できるメンバーとFLiPを組めたことが奇跡だとも思ったし、そういう信頼できる人を見つけてバンドを組むことにハードルの高さを感じた。さらにこの状況下でライブをするリスクに耐えられるほどの体力がわたしにはないなと気付いて、バンドをやるモチベーションがなくなっちゃって。でもバンドのために作った曲は自分としても気に入っていたし、もし機会があれば誰かにもらってほしいなとは思っていたんです。
――でも長い時間を掛けて、新しくバンドを組むために大事に作った曲たちですよね。それをバンドで演奏できない状況になるというのは、気持ちの整理がなかなかつきにくい気がするのですが。
SACHIKO んー、バンドをやるモチベーションがなくなっちゃった時点で、「バンドを組もうと思っていた当時の自分のやりたかった曲」なんですよ。もともと曲を作ってからしばらくすると「もうちょっとエレクトロの要素を入れたい」とか「もっとロックに振り切りたい」みたいにやりたいサウンドが変わっていくタイプだから、そのあたりは大丈夫だったんです。
――なるほど。SACHIKOさんの現在と過去の関係性って不思議ですよね。過去を背負っているようにも見えるけど、過去と現在を区別しているようにも見えます。
SACHIKO 区切っている意識は強いですね。いま自己紹介をしろと言われて「FLiPというバンドでTVアニメ『銀魂』の主題歌を2回ほどやらせてもらいました」とは言わないし。「いまの自分を見てほしい」という願望は、昔からめちゃくちゃ強いんです。
――過去と現在をしっかり違う引き出しに入れて区別しているけど、どの引き出しに何が入っているかはしっかり覚えている、という感じ?
SACHIKO そうです、そうです。この頃の自分はこういうことを考えていて、こういう気持ちだったというのは、その時に見えていた景色と一緒にしっかりパッケージングされているんです。だからバンドのために作った10曲も気に入っているし大事だけど、「いまのわたしが絶対にこの曲を歌いたい」という欲はなかったんですよね。それならその曲にぴったり合う人に歌ってほしいと思ったんです。
◆誰かから求められていないとダメなんです。求められているなら、無茶ぶりでも瀕死なメンタルでも頑張れる
――気持ちが落ちていたり、水面下で曲作りを続けるSACHIKOさんを、公の音楽の場に引っ張ってきていたのがSxunさんとPABLOさんなのかなと。
SACHIKO あははは。そうかもしれない。たとえばSxunは昔からの友人なので、わたしに声が掛けやすかったんだと思います。彼の立ち上げたプロジェクト・P.L.W.STUDIOSのゲストボーカルのあと、彼がプロデュースするアイドルユニット・miscastの作詞を頼まれて。アイドルの楽曲の歌詞を書くのは初めてだったけど、彼の作る曲だから馴染みもあるしすぐ入っていけました。楽曲提供って楽しいんですよ。わたしはアーティストそれぞれのコンセプトやカラーを汲み取るのが早いのか、写真を見たり過去の楽曲をちょっと聴かせてもらうと自然と音や言葉のイメージが出てくるんですよね。
miscast「ミッドナイト・スルー・ザ・ナイト」MV FULL
――となると、ご自分の曲を作るのとは違う観点での曲作りになりますよね。バンドのための楽曲を作るのと並行して、信頼するアーティストと一緒に楽曲制作ができたのもSACHIKOさんにとって良かったのではないかと。
SACHIKO 本当にそうですね。これまでずっと、楽曲制作は自分のなかにあるものを吐き出すという行為だったんです。それとは違う観点で作れるのも面白かったし、いままでの経験があったからこそ、提供する楽曲を作るスピードが速かったんだと思います。Sxunから「3日後に歌詞が欲しい」と言われて(笑)、無茶ぶりだな~と思いながらも歌詞を書いて仮歌まで入れて返して。そういうハードなスケジュールも楽しんでいました。
――気持ちが落ちているときに、その制作はハードではなかったですか?
SACHIKO 気持ちが落ちてたからこそ、そのスケジュールを乗り越えられたのかなと思っていて。わたし、誰かから求められていないとダメなんです。わたしに作詞を頼むということは、わたしの存在が求められているとも言い換えられますよね。それなら無茶ぶりでも瀕死のメンタルでも頑張れるんです。
――確かにそうですよね。先ほども「大切な人たちから“一緒にいたい”と思ってもらえる人になりたかった」とおっしゃっていましたし。
SACHIKO 人生つねにそれです(笑)。いくら過去に作ったものを好きと言ってもらったとしても、いまのわたしができること、いまのわたしが作った曲をいいと言ってもらえないと、どんどん自信がなくなっていくくらいメンタル弱弱なので……(苦笑)。自分を守れるのは最終的に自分しかいないから、そういうときにどうやって自己肯定感を上げていくかが大事だと思っていて。それでわたしはいつでも楽曲がアウトプットできるように、インプットをし続けるようになっていったんですけど……逆に質問したいな(笑)。ライターという立場だとどうやって自己肯定感保ってます?
――えー、どうなんでしょう(笑)。わたしが不安になるときはだいたい仕事やリアクションがないときなので、「音楽にしか居場所がなくて音楽雑誌にかじりついていた中学時代のわたしみたいに、ラジオの電波も入らない地方に住んでいる中学生の子が記事を読んで、いろんなことを感じてくれているはず」と言い聞かせています。
SACHIKO ああ、なるほど。それ全然現実に有り得ることですし、そういう想像力って大事ですよね。
――自分が全然知らない土地に住んでいて、死ぬまで会うこともなく、交流を持つこともない人も読んでくださっているんだよな……と考えるとすごくロマンがあるなって。リアクションは届かなくても、読んでいる人はいる。だからどの原稿も手は抜けないなと思ってます。
SACHIKO うんうん、そうですよね。音楽もインタビュー記事も、世の中に発信されているものは誰かの人生や価値観を変える可能性を持っている。わたしも1作1作大切に向き合っています。わたし以外に曲を作れる知り合いがたくさんいるのに、わたしに頼んでくれている人たちばかりで。「SACHIKOに頼みたい」と思ってもらえる曲を作り続けていきたいですね。
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様々なアーティストへの楽曲提供が盛んになっていく一方で、膨れ上がった「歌」への強い気持ち。それを満たし、進化させるために彼女が取った行動とは?