16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第8回~母のビート

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第8回 母のビート

 

[1]人生の豊かさって

あなたは「人生で長く続けていること」ってありますか? スポーツ観戦とか、読書とか、生け花とか、週に一回は必ず映画を観るとか、実はお化け屋敷マニアだ、とか何でも良いです。それって人生を豊かにする凄く素敵な習慣じゃないですか?

先日実家に帰ると「今回の人生は、あんたはドラムを叩く運命やったんやね」と母に言われました。僕の場合、人生を豊かにする素敵な習慣が「ドラム」だったようです。僕にとっては人生を豊かにする習慣がたまたまドラムだっただけで、母からその言葉を告げられた時「まぁ、今回はそうね、今回はね。」と笑いながら答えました。

「じゃあ帰るね」と言って実家を後にしてから、何だかその言葉がずっと刺さっていました。母は、僕が小さい頃に離婚して、そこから一人で僕と6歳上の兄を育て上げた。毎日毎日朝から夜遅くまで働きに働いていたので、母はほとんど家に居ませんでした。夜遅く帰ってきて晩酌くらいしか楽しみがなかったものだから、朝になると飲酒をして深く眠る母を横目に、僕は制服に着替えて学校へ向かっていくような日常でした。

その頃の記憶が蘇って「母は果たして、人生が豊かなのだろうか」と考え込んでしまいました。今回はそんな母が「あんたはドラムを叩く運命やったんやね」という言葉が漏れるまでのお話です。「音に呼ばれる僕」を、母は一体どんな目で見ていたんでしょうか。

 

[2]外の世界

まさか自分がドラムを叩くことになるとは思わなかったし、母もそう思っていたはず。小学六年生で50メートル走るのに12秒かかるし、(アザラシ好きなのに)泳げないし、球技もまるで駄目、朝礼ではずっと立っていられず貧血で倒れて保健室行き、毎日家に籠ってずっとゲームしていた大インドアな僕にとって、「外の世界に溢れる刺激的なこと」を家に持ち込んでくるのはいつも兄でした。

兄が中学生の時にバスケ部だったから僕も中学でバスケ部に入部してみたり、兄の影響で音ゲーに興じてみたり、兄のCDラックをみて「こんなの聴いてるんだぁ、へぇ、ふーん」と何となく流してみたSHAKALABBITSにどっぷりとハマってしまったり、ある日突然家でドラムスティックを持って布団を叩く兄を見て「ドラムっていう楽器があるんだぁ、へぇ、ふーん」と思っていたら、いつの間にか僕がドラムを始めていました。

仕事で毎日ほとんど家に居なかった母からすれば、根暗でインドアな僕がいつの間にかドラムを始めてのめり込んでいたものだから驚いていただろう。そして大学生になり「16ビートはやお」宛の荷物が家に届き始めると「私の息子は外で何をしているんだろうか」といよいよ本気で心配させた。今になって反省しているけれど、後の祭りでした。

 

[3]免罪符

「ドラムを辞めなさい」なんて母は一言も言いませんでした。しかし、いつまでもバンドを続ける僕に対して「地に足つけて欲しい」と思っていたはずでした。言葉にこそ出しはしませんが、そんな空気をひしひしと肌で感じていました。

憂う母を納得させるというか、ある種暴力的というか、僕は学業ではそれなりに成績が良かったのです。成績が悪ければ母は僕に強く「ドラムなんて辞めなさい!」と言えただろうけど、なまじ成績が良いものだからそんなこと言えなかったんだと思います。僕も成績が良いことを免罪符にして、ドラムを続けていました。

いつまでも成績を人質にする僕に対して、「あぁ、この子は言っても聞かないんだな」という一種の諦念が母にあったのかもしれません。そんな母を尻目に、学業の成績という盾が無くなって社会人になり自立して実家を離れてからも、音源を出すたびに母に送っていました。そこでも「あんたまだドラムやってんのか!」とは言うものの、たまに感想をくれたりしていました。「ライブに来て欲しいなぁ」とぼんやり思いながらも、どこかに後ろめたさを感じて言い出せずに何年か過ごしていました。

 

[4]パワーバランス

そんな母に昨年病気が発見されました。コロナ禍で数年実家に帰っていなかった僕は、兄からの一報で慌てて実家へ顔を出しました。便りが無いのは元気な証拠、便りが有るのは元気でない証拠、母は病に加え、僕たちを育てるために酷使し続けた体が悲鳴をあげて脚に神経痛を起こしてしまい、まともに歩けなくなっていました。

僕はショックというよりかは「相当な時間が経ったんだな」と感じていました。親と子どもの関係というものは、守られる側は大人になり徐々に守る側へ、守る側は少しずつ老い守られる側へ、パワーバランスが移っていくものですが、コロナ禍で見えないうちにそのバランスが一気に変化していました。浦島太郎のような、そんな気持ちになっていました。

その日は母と二人、数年会っていない時を埋めるように話していました。僕が子どもの頃の話や、昔の母の職場の話、僕の仕事の話、お互いの人生の話、都市伝説の話、マンデラ効果の話、そしてバンドの話も。

「せっかく病気で合法的に仕事辞めたんやから、何か今までできなかったことやってもいいんちゃう?」「そうやなぁ、いっぱいあるわ。まずは何年も返せてない破魔矢を返しに行きたいわ。まあ今は歩けんからなぁ、YouTubeばっかり見てる。あんたのバンドの動画とかも見てるよ。」「そうなんや! なんか恥ずかしいけど、まあライブとかも来てよ! 大阪でやるときもあるから!」そんな他愛もない話のなかに、昔の後ろめたさを昇華した言葉を込めて、何時間も会話を続けていました。

 

[5]ドラムを叩く運命

「あんたの人生も色々あったけど、今回の人生はドラムを叩く運命やったんやね。」「まぁ、今回はそうね、今回はね。」と笑いながら僕は答えました。

母の根負けか、僕の粘り勝ちか、真正面を切ってドラムを叩き続けることを認めてもらえた気持ちになりました。と同時に「母は果たして、人生が豊かなのだろうか」とも思うようになりました。僕は我を通して自分の人生を豊かにしているけれど、病に直面する母は、子を育て上げるために何十年も捧げた母は、今の人生が豊かなのだろうかと、ふと考えてしまいました。そう思うと、病だろうがなんだろうが、前向きに楽しく毎日過ごしてほしいと思ってしまうのです。でもやはり、そう思うのは頭の中だけで、実際に病を携え、薬の副作用を抱え、毎秒体調の浮き沈みを感じながら生きる母の心や体の怠さまでは追体験することはできません。そこには思いやりが少し侵入できるだけです。

僕が帰る際に玄関先まで見送ってくれる母が心なしか小さく見える、なんてことは実際にはなく、逆に足が悪いのに、本当は自分の体や病やこれからの未来、生死までもが心配なはずなのに、力強く僕を見送る様は大きくもありました。

「母の人生は豊かなのか。」その答えは母の心の中にしかないのだけれど、それを聞くのは野暮だと思っています。母から「ドラムを叩く運命」という言葉を粘り勝ち取った僕は、その運命を全うすることが、母の豊かさに繋がるのかもしれません。非常に独善的な考えですが。

どうやら最近は脚の神経痛の方は落ち着いたみたいで、スタスタ歩いているようです。「良かったらライブ見に来てよ!」ともう一回言ってみようかなぁ。そんなことを考えながら、忙しない日々を過ごしています。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

〈ZOOZ〉
○2023/9/6(水)京都・二条GROWLY
w / Yoctopolis
○2023/10/1(日)京都某所
○2023/10/7(土)大阪・SOCORE FACTORY
「ボス戦2023」
w / the seadays / ANYO / Amsterdamned / 171 / SuperBack
YUNOWA / FNCTR (+1Band)
○2023/10/29(日)名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
16ビートはやお企画「こぼれるビート」
w / ガストバーナー / LADY FLASH (+1Band)
○2023/11/5(日)京都某所

〈ガストバーナー〉

○2023/8/20(日)東京・池袋Adm 十六代目梅雨将軍「変な将軍」
w / つしまみれ
○2023/9/3(日)岡山・CRAZYMAMA 2ndRoom
セックスマシーン!!結成25周年ツアー 人類ゲストボーカル化計画
w / セックスマシーン!! / かずき山盛り
○2023/10/29(日)名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
16ビートはやお企画「こぼれるビート」
w / ZOOZ / LADY FLASH (+1Band)
○2023/11/12(日)東京・新宿BLAZE
HERE主催 ハイテンションフェス2023
w / HERE / SYS / suga/es / アルカラ

■3rd mini album『MAGIC』Release Tour 2023-
○2023/8/19(土) @千葉・稲毛 K’s Dream
w / Giallo / the twenties / Large House Satisfaction
○2023/8/26(土) @京都・二条GROWLY
w / 終活クラブ / ヤジマX (feat.ガストバーナー) / 歴史は踊る
○2023/8/27(日) @富山 SOUL POWER
w / 終活クラブ / ヤジマX (feat.ガストバーナー) / セックスマシーン!!
○2023/9/9 (土) @大阪・扇町 PARA-DICE ※SOLDOUT
ガストバーナーお試しワンマン
○2023/9/23(土) @名古屋・栄 CIRCUS
w / QOOPIE / HERE (+1Band)
○2023/9/24(日) @兵庫・神戸 太陽と虎
w / YOWLL / Thursday video night club(+1Band)
○2023/10/14(土) @茨城・水戸 CLUB SONIC
w / 鴉 / folca(+1Band)
○2023/10/15(日) @東京・池袋 Adm
w / 鴉 / ミスタニスタ / タカハシヒョウリ&カメダタク(オワリカラ)
○2023/10/20(金) @名古屋・池下 CLUB UPSET
w / キュウソネコカミ

『MAGIC』東名阪ワンマンツアー
○2023/12/2(土) @東京・池袋 Adm
○2024/1/20(土) @大阪・南堀江knave
○2024/2/10(土) @名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL

 

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