俺が変われば世界が変わるかもしれない――DETOXが10年で見出した可能性『ミクロコスモス』

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◆「お前なに諦めてんだよ!」と俺なりに言えたらいいなと思った

――『ミクロコスモス』という言葉に出会ったのは「人魂」ができる数ヶ月前の、2022年2月だそうですね。

知弥 2022年2月22日、俺が産まれて10000日目に町田CLASSIXで個人企画を開いたんです。そこに出てくれたIRIE BOYSのギターのShinhong parkくんが「めでてえ日だから貸してやるよ」って、『ローリング・サンダー メディスンパワーの探求』という本を手渡してくれたんですよね。彼は粋な男なので、俺も「俺本読まないけど絶対読むっす」ってめっちゃ長い時間かけて読んだんですけど、すごく神秘的で現実離れした内容で。

――著者のダグ・ボイドが、ネイティブアメリカンのメディスンマンであるローリング・サンダーについて綴った本とのことで。

知弥 刃物を使わずに病気を治せたり、ヘビとしゃべったり、雷を呼んだり、動物と話したり、スピリチュアルな話が多くて。半信半疑だった著者も、ローリング・サンダーと一緒に過ごしていくうちに「“偶然”という言葉で片付くことでもあるけど、これマジだな」ってどんどんのめり込んでいくんです。目に見えない力について書かれていて、その本の中に「人魂(プラズマ)」という言葉や「小宇宙(ミクロコスモス)」という言葉が出てきたんですよね。すごくいいなと思ってメモしておいて。

――もともと宇宙に興味はお持ちでしたか?

知弥 4、5年前あたりから星を見上げることが多くなったっすね。周りの人間がそういう話が好きで、彦(※Made in Me.、ponkozz など)は「実は俺たちは星とつながってるから、太陽から元気をもらってる俺らがみんな死んだら太陽は消えるんだよ」みたいなぶっ飛び理論を言うんですよ(笑)。すごく感覚的だけど「地球で誰かが生まれたら、宇宙のどこかにある星が爆発する」みたいなロマンチシズムは俺もめっちゃわかるんです。千利休が4畳半の部屋の器のなかに宇宙を見出していたという話も、俺がちょうど考えていた「限りなく小さいものは限りなく大きいものだし、一見対極に位置するもの同士はつながっている」という理論に似ていて。

――その知弥さんの考え方と、「ミクロコスモス」という言葉が結びついた。

知弥 俺ら一人ひとりの命の中に命が宿ることが宇宙だと思ったんです。自分と向き合い続けると世界の問題にぶつかるし、世界の問題に目を向けると結局俺自身の話になっていくんですよね。ということは、俺が変われば世界は変わるかもしれない。だから音楽を作ることで可能性に言及しているのかもしれないです。それは俺だけじゃなく、みんなに対しても。だから要は「諦めんなよ」って言いたいんですよね。「お前なに諦めてんだよ!」って俺なりに言えたらいいなと思ったんです。俺、このバンド人生の10年で、魔法が解けたような感覚になっちゃって。

――「魔法が解けた」?

知弥 俺の可能性の光が薄くなってる瞬間に気づいたんです。「あのバンドはこの会場をパンパンにできるんだ」みたいに周りと自分を比較して焦ったりもするし、20代にして栄光みたいなものをつかみ取れなかった悔しさもあって。でも勝手に自分と他人を比較して「劣ってる」と烙印を押すのもなんだか変だし、音楽はそもそもそういうものじゃないとも思うし。バズったこともないし、何がバズるとかもわかんないし、だから『ミクロコスモス』も結局自分が今ハマってるジャンルを自分ら風に仕上げました。

――ハウスやレゲエ、ハイパーポップなど、様々なジャンルが盛り込まれているのも特徴的です。

知弥 単純に好きなものを詰め込みましたね。「Euphoria」は友達がDJでかけられるようなハウスをイメージして、初めてシンセベースを入れてみて。あと俺は「シンプレイ」でやったような、展開がガラッと変わる曲が結構好きで。今回も「mew」「Eupholia」「凡非凡」「人魂」「ロストランゲージ」とかに自然とそういう要素が入ってきました。

DETOX – シンプレイ(Official Music Video)

知弥 それもこれもどんな人に対しても自信を持って「聴いてください」と差し出せる、アルバムとして素晴らしい名盤を作りたかったからなんです。(The Beatlesの)『Abbey Road』が作りてえんだ!って(笑)。ほんと時代に逆行してますよね。15秒も聴いてもらえずにスキップされる時代に、俺らは1時間聴かせようとしてる(笑)。

――その気概、音楽家には必要だと思います。

知弥 アルバムを頭から最後まで通して聴くのは、シェフが「これがいちばんおいしい食べ方だよ」とコース料理を出すのと同じですよね。作り手がそういうものを提示するのは、クリエイションに共通する大事なことだと思ってます。そういうところを考えるのが楽しいし、やっぱ楽しんでるやつがいちばんすげえもんを作りますよね。でも「DETOXの音楽が誰かに見つかってほしい」という気持ちは真実だし、『ミクロコスモス』は自分の好きなこととその願望の突破口を、自分なりにアウトプットできた手ごたえはあるんです。

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時代が変われども、生活を理由に音楽と距離を取る人は少なくない。その風潮に対して知弥は疑問を投げかける

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