16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第15回~虚しさを抱えて

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第15回 虚しさを抱えて

 

[1]こころとからだ

今年四月に母を亡くしてから、自分の真ん中が無くなってしまったというか、身体の殻だけ残ってしまったというか、ガワの部分だけで生活しているような感覚がずっとあります。何をやってもどこか虚しさが付き纏って、残りの人生どう過ごしていいものか、そもそも人生って大事なものなのか、大きく揺らぎ続けています。これまでそんなことなかったのに、不思議なものですね。

そんなことばかり考えているものですから、ライブへの向き合い方も大きく変わりました。どれだけ楽しくても、心のどこかに必ず虚しさが潜んでいます。だからといって安易にこの虚しさの埋め合わせをするためにライブをするのは違うし、メンバーやお客さんに同情してほしいわけでも、慰めてほしいわけでもない。感情の落としどころを見つけるのが非常に難しい日々を送っています。なるべく毎日を忙しくして、その虚しさに向き合うことから逃げているような気もします。

そんな僕自身の最近のライブの向き合い方について、先日始まったガストバーナーTONIGHT TOURを通じて振り返ってみようと思います。心の動きとライブは密接に結びついています。

 

[2]虚しさとの闘い

先日ガストバーナーが配信開始した『Tonight』という曲を表題にしたTONIGHT TOURが10月より始まりました。勿論楽しい気持ちが溢れているのですが、その傍ら僕はずっとこびりつく「虚しさ」と闘っています。

僕は「バンド活動」に優る楽しさをまだ人生の中で見出せていません。そして恐らくこれからも見出せそうにはありません。しかしながらこの楽しさにクレバスのような虚しさの亀裂が入ってきたのです。心に埋まらない虚しさを抱えた状態で、どう楽しさを追求するのが良い人生なのか、ということを考えるフェーズに入ってしまったようでした。

実際ライブをするとお客さんが楽しんでくれる、共演バンドが溌剌としている、僕たちもあらゆる瞬間を余すことなく楽しむ。平たくいえばライブの時間は「みんなハッピー」になるために全力を尽くしていますし、実際楽しいのです。

しかしながら一方で、とてつもなく虚しいのです。とんでもなく楽しいのに、同時に虚しいのです。ソールドアウトしてギャラがたくさん入ってくるとか、なるべくバンドを大きく見せるとか、そんな金銭や権力では決して満たすことのできない虚しさがそこにはあるのです。

 

[3]とにかく音のでかい日

考えすぎな気もしますが、そんな心持ちでライブ当日を迎えていたのは事実です。会場入りしてメンバーやライブハウスの方と他愛もない話をし、リハのサウンドを聴きながら出演者同士大きな声で近況を話したり、少しふざけてみたり、幾許か短い時間でバンドマン事情を交わし、幾らか心が柔らかくなったところでライブは始まります。

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TONIGHT TOUR初日、名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL。共演は171、THIS IS JAPANと。

とにかく音のでかい日でした。171のドラムのモリモリくん。少し斜め下に視線を向けながらドラムを叩いていました。たまに「この人は何を考えながら演奏しているんだろう?」と惹き込まれる眼に出会うことがあって、彼がまさにそうでした。僕のドラムは考えていることが全てだだ漏れなので、ないものねだりといいますか、気になるといいますか、不思議な存在です。

フロントはギターヒーロー晴信くん、ベースヒーローのカナちゃん。このお二人、SNSでの発信が日常的に多いし、MCも至って人間的なのですが、なぜかライブは底知れない暴力的な神秘性がありました。昨今はSNSのせいであらゆるアーティストが神秘的で居続けることが難しいといわれていますが、おそらくそれは篩にかけられているだけです。ライブで自己表現ができていれば、むしろ日常性は演奏の血肉となって武器になるんだなと感じていました。底知れない三人。

CLUB ROCK'N'ROLLのここのモニターで見るライブが案外好きです

CLUB ROCK’N’ROLLのここのモニターで見るライブが案外好きです

 

[4]ロックンロール

「はやおの文章はいいよね。なんか、俺、昔から知っているから。色々乗り越えて、淡々と俯瞰して語るようになったのをみると、感慨深いものがあるよ。」

THIS IS JAPANのドラム、かわむらさんはライブ前にこんなことを言ってくれました。虚しさを抱えるというのは、他人からみたらそう見えるのかもしれません。THIS IS JAPANとはその昔、下北沢SOUND CRUISINGで見たことがきっかけで惚れてしまったのです。ただただ真っ直ぐかっこいいと感じることを貫くのって、どれだけ難しいんだろう。

バンドを続けることは一蓮托生、メンバー全員の人生を乗せて川を流れる蓮の葉のように、全員の生活が乗っている。若い時は良くても全員が全員、同じ比重でバンドに体重をかけることができなくなってくる。それでも尚、CLUB ROCK’N’ROLLで「ロックンロール!!」と咆哮している彼らの姿に感動してしまいました。

ボーカルの杉森ジャックさんは、ライブ後「俺の喉さ、もう、酷使しすぎて根っからファズがかかっちゃって」と笑っていました。ライブハウスには、やはりピュアな人が集まってしまうんだと感じていました。虚しさを抱えながらも、楽しい一日だったのは間違いありませんでした。

終演後の一枚。全バンド、音がでかくて最高でした。同じ夜は二度来ないから尊いのかもしれませんね

終演後の一枚。全バンド、音がでかくて最高でした。同じ夜は二度来ないから尊いのかもしれませんね

 

[5]煌めきの背後

『Tonight』の歌詞に「すべてが煌めいてるよう 夜の魔法にかかって いずれは消えてなくなるなら 飽き尽くすまで集いましょう」という一文があります。この一文で僕はなぜか毎回、母を思い出してしまいます。

この歌詞とは真逆で母は夜に一人、自室でひっそり泥酔するまで焼酎を飲み続ける習慣がありました。思い返して一番に思い浮かぶ母の姿は仕事終わり、真夜中に静かに焼酎を呑みながら煙草を吹かしている姿です。

煌めきの後ろには、自問自答する夜が沢山あるはずです。むしろそういった孤独な夜の方が多いと思います。しかし決して孤独と煌めきは表裏の関係ではなく、地続きであるように感じるのです。孤独な夜の積み重ねと一瞬の煌めき。この両方の夜で人生は彩られているように思うのです。虚しさと楽しさも地続きなものなのかもしれません。

『Tonight』のこの歌詞の部分のドラム、僕は信じられないくらいシンバルを殴打していますが、ライブハウスの煌めきを背景に、孤独な夜を過ごし続けた母を想いながら叩いています。

人生はとても短い。生きて集って会えるチャンスなんて、人生でそう多くありません。煌めきの一夜一夜を噛み締めるように楽しみたい。それはお客さんと過ごすことだってそうですし、171もTHIS IS JAPANも、生きているうちにあと何度会えるのでしょうか、何度対バンできるのでしょうか。そして頻繁に会っている大好きなメンバーと過ごす日々も、あとどれだけ重ねることができるのでしょうか。

楽しさと虚しさを同時に愛すること。虚しさを地続きにして、眼前の楽しみを謳歌する。とても難しく、脆いものでもありますが、それはそれで面白さがあるのかもしれません。そんな気持ちを抱えながら周るTONIGHT TOUR、良い虚しさの抱きしめ方が見つかればいいなと思います。僕も、読んでくれているあなたも、ライブハウスで出会うあらゆる方達も。

ライブ直前のガストバーナー。TONIGHT TOUR初日、とても良い夜でした。ありがとうございました。

ライブ直前のガストバーナー。TONIGHT TOUR初日、とても良い夜でした。ありがとうございました。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

〈ZOOZ〉

2024/10/26(土) 京都nano
『Dancing in the Moonlight』
​ZOOZ / Ben Wood Inferno(Austria) / Lightning Swells Forever / ODDLY / Year After Year

2024/11/10(日)京都 木屋町DEWEY
『DEWEY13周年ファイナル【怒涛】』
ハヤシライフ / モケーレムベンベ / ブギーパンツ / ZOOZ (18:45〜) / SuperBack / クリトリック・リス

2024/11/16(土)大阪 扇町para-dice
『Universe 002』
ZOOZ / and Young… / Qu / OGAHM

2024/12/8(日)大阪 SOCORE FACTORY
『KOH-GEN RECORDS × SOCORE FACTORY pre.「そこは光源」』
ZOOZ / 喃語(札幌) / ha-gakure / カラコルムの山々(東京) / Deck E / FOOD:喫茶ラハト

2024/12/14(土)京都
※詳細後日

2024/12/28(土)東京
※詳細後日

2024/12/29(日)京都
※詳細後日

2025/2/22(土)名古屋 新栄 CLUB ROCK’N’ROLL
「SPECIAL ISSUE!!!!」
ZOOZ / 鈴木実貴子ズ / 喃語 / ワッペリン / TAKUMA (DJ) / ちょこたん (DJ)

〈ガストバーナー〉

2024/10/19(土)新潟・GoldenPig BLACKSTAGE
『HEREの本気で狂い咲きツアー2024』
ガストバーナー / HERE / 鴉

2024/10/20(日)京都・二条GROWLY
ガストバーナー『Tonight Tour』京都編
ガストバーナー / HERE / SuperBack / ふぞろいのモーモールルギャバン

2024/10/23(水)名古屋・池下UPSET
『ENGINE -エンジン- 42度』
ガストバーナー / the twenties / (o.a)Rabbit Kid

2024/10/27(日)東京・新宿LOFT
『YOWLL fes』

2024/11/2(日)東京・池袋Adm
ガストバーナー『Tonight Tour』東京編
ガストバーナー / folca / QOOPIE

2024/11/23(土)大阪・寺田町Fireloop
『HEREの本気で狂い咲きツアー2024』
ガストバーナー / HERE / ロマンス&バカンス / O.A.ワンダー久道

2024/11/24(日)兵庫・神戸D×Q
『HEREの本気で狂い咲きツアー2024』
ガストバーナー / HERE / ロマンス&バカンス

2024/12/1(日)大阪・扇町para-dice
ガストバーナー / ピカピカ☆異伝子

2025/1/10(金)東京・渋谷O-Crest
ガストバーナー『Tonight Tour』-後半戦- 東京編

2025/1/18(土)大阪・SOCORE FACTORY
ガストバーナー『Tonight Tour』-後半戦- 大阪編

2025/1/25(土)名古屋・池下UPSET
ガストバーナー『Tonight Tour』-後半戦- 名古屋編

2025/2/23(日)名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
GAS and PIERO(振替公演)
ガストバーナー / 感覚ピエロ

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