長距離移動するフリーランスライターの光陰(15)

LINEで送る
Pocket

chokyori_main

長距離移動するフリーランスライターの光陰
(15)「音楽媒体の意味」「どこまでグイグイいく?」「開設10周年」

 

いつだか、とある音楽関係者との世間話で、お相手からこんな発言があった。

「インタビューのためにアーティストが稼働して、時間もお金も使う意味ってあるのかなと思うんですよね。時代はSNS全盛ですし、曲が広がるきっかけもSNSじゃないですか。既存のメディアは流行の後追いで、もはや音楽媒体に宣伝効果があるかと言うとそんなことはないと思うんですよね。しいて言えばSNSの投稿のネタになるくらいで……」

それを生業にしている人間に面と向かって言うか?と思いつつも、おっしゃることは一理あると納得した。

いま、音楽媒体にほとんど宣伝効果はない。雑誌ならば読者がページをめくるなかで知らないアーティストを知る機会もあるだろうが、web記事の場合はSNSや公式サイトから直接そのページに飛ぶことが多いため、寄り道もない。よく見ているサイトであってもトップページに行ったことがないという人は少なくないのではないだろうか。

だが音楽媒体のインタビューにアーティストを稼働させる意味がないかというと、その答えはNOである。まずワンタンマガジンの場合、過去に記事を掲載したアーティストに何かしらの動きがあった場合、そのアーティストの記事のアクセス数が跳ね上がる。

たとえばcinema staffが地元岐阜で開催している自主企画フェス「OOPARTS」の開催を発表するたびにワンタンマガジンのレポートのアクセス数は増えるし、DETOXがアルバムをリリースした際には2020年のインタビュー記事がよく読まれた。白神真志朗氏や照井順政氏が楽曲提供をしたという話題が上がれば、彼らのインタビュー記事にもアクセスが集まる。

つまり現代においてインタビューやレビュー、ライブレポートは、そのアーティストを知る人々、知った人々の興味関心をより強める役割へと移行している。1秒ごとに流れてゆくSNSとは違い、記事はいつアクセスしても、いつページを開いてもアーティストたちのその当時の言葉がしっかりと鮮度が落ちないまま残っている。リスナーから見てもわかりやすい指針となっているだろう。

もともとわたしは活動初期より、web媒体の速度至上主義に首をかしげていた。死に物狂いで即上げしても見逃されることがしばしばで、さらには公開タイミングがすべての媒体で集中しすぎてバッティングし、飽和状態で読者の皆さんに届かないこともザラだ。速度を重視するあまり、誤字脱字だらけで支離滅裂な文章も多い。こんな粗悪で手荒な、文章と言うのも憚られる文章を流布することに意味はあるのだろうかと憤りにも近い疑問を持っていた。

そこから時は経ち、投稿も拡散も、速度を担うのは完全にSNS一択となった。イベントではSNS速レポも流行している。そんな時代ならば、SNSからさらにアクセスしないと読めない場所に記事を書いている我々ライターは、残るものを書いていくことを何よりも重要視するべきなのではないだろうか。しっかりと書いてそのとき湧き上がる熱量を刻み込んで、いつまでも鮮やかな文章を書かねばならないのではないだろうか。そのためにも、ライブレポートやレビューはそこでしか読めない内容がしたためられた原稿を書く必要があるし、インタビューはアーティストが自らSNSで発信しないことを、用意された言葉ではなくライターとの摩擦で生まれる言葉を残す必要がある。

ではそういうインタビューをするのに必要な要素は何か。そのうちのひとつが「切り込むこと」である。

今年の夏、よく藤本美貴さんのYouTubeを観ていた。わたしは藤本さんと同世代で、育ってきた環境はまったく違うとはいえ、彼女の言葉の端々やムードからは同じ時代を同じ年齢で過ごしてきたという共通項を感じることが多かった。人との距離感の取り方、状況に対する柔軟性、物事に期待をしない諦めにも近いスタンスなど、我々世代ならではの淡白さは、古くからよく知った場所のように心地いい。

彼女のYouTubeの企画に「視聴者お悩み相談」がある。そのなかに「好きな人にグイグイ押しすぎたら嫌われるかもしれない」というお悩みがあった。彼女はそれに対してこう答えた。

「押してようが押してまいが、嫌われるときは嫌われる」

これは恋愛に限らず言えることである。わたしの仕事でもそうだ。インタビューは言葉を引き出すことが仕事である。重複するが、普段アーティストが自ら言語化しないところまでを引き出し、彼らの行動と思想を結び付け、それを読者に提示するのがインタビュー記事の役割だと思っている。

そのためには深く踏み込むことが必須である。ときには少し意地悪なことも言わなくてはいけない。もしかしたら相手を傷つけてしまうかもしれない。そんなリスクもありつつ、相手の様子を見ながらぎりぎりのところを攻めていくようにしている。インタビュアーが意見を言うことに抵抗があるアーティストも、そんなものを求めていないというスタンスのアーティストももちろんいる。だがただ質問をしていくだけでは、心の引き出しの中にある感情は取り出せない。わたしはアーティストから好かれるために、アーティストを喜ばすために時間をもらっているわけではない。インタビュー記事を作るために、それを読者に届けるために話を聞いているのだ。

精一杯の真心と熱意で向き合った結果、嫌われたならば仕方がない。実際にアーティストやアーティストチームから嫌われて、「あのライターには書かせないでくれ」と言われたこともある。いまご縁のないアーティストも、シンプルに疎遠になっているだけではあると思うが、NGライターリストに入れられている可能性も捨てきれない。だがアーティストから貴重な1時間前後という時間をいただくならば、誰でもできるようなありきたりな質問で茶を濁すことは避けたい。

自分の意見を投げかけることは自分を出すことであり、自分を出せば出すほど煙たがられるリスクも上がる。だがミキティの言うとおり「押しても押さなくても嫌われるときは嫌われる」し、それこそ攻め入らず「いい人」のままだと、浜崎あゆみ氏が歌っていたように「ドウデモイイヒト」になってしまう。だからどうせ嫌われるなら自分なりのやり方で誠実に向き合って押してみて、うまくいけばラッキーと思うようにしている。この14年半、そんなふうにライター活動をしてきた。

「書く場所がないから自分で作るしかない」と始めたワンタンマガジンも今日で10周年を迎えた。ありがたいことに開設以降ワンタンマガジン以外にも原稿を書ける場所に恵まれ、ワンタンマガジンだからこそできることを追求するようになった。10周年という貴重なタイミングだから、今年こそは派手なインタビュー企画を組もうと思っていた。だが今年は家を追い出されたり家を買ったり手術を2回したりとそれどころではなかった、というタイミングの悪さである。10周年記念日という華やかな日に湿ったコラムを掲載するのも、ワンタンマガジン(というかわたし)らしいのかもしれない。

普段過ごしていてふとした瞬間に、わたしの音楽評論への向き合い方は間違っているのかもしれないと不安が湧き上がる。同期ライターからはどんどん遅れを取り、背中は遠くなりあっという間に見えなくなってしまった。わたしのスタイルは求められていないのかもしれないし、このコラムを読んだほとんどの人が「売れてもいないくせに、めんどくせえやつだな」と思うかもしれない。だが自分なりの批評ができないなら、わたしはこの仕事を続けていく意味がないとも思っている。

このやり方がどこまで通用するかはわからない。こんな偏屈(自分では愚直なくらいにまっすぐだと思っているけれど)な人間ではあるけれど、もしこんなわたしに話を聞いてほしい、原稿を書いてほしいというアーティストさんがいらっしゃったら、いつでもお声掛けいただきたい。ワンタンマガジンは撮影費用は担っていただくけれど、わたしはノーギャラで動いているし掲載費もかかりません。

誉めそやしたりもできないし、ファンの方々の代弁もできないし、遅筆だし、軽快なトークをするスキルもないし、できないことだらけの人間ではあるけれど、音楽評論の意味を感じられる記事をこれからも書いていきたいし、ここからさらに研鑽を重ねていきたい。その思いはワンタンマガジンを開設した10年前から、ライターとして活動し始めた14年半前から変わっていない。どこまでいけるかわからないけれど、走れるところまで走りたいと思っている。

 

◆「長距離移動するフリーランスライターの光陰」記事一覧

 

◆Information
shokufuni_coverエッセイ本『就職できなかったフリーランスライターの日常』
文庫本 216ページ 湾譚文庫
価格:980円(税込)/BASE 1250円(税込)
送料:250円

文庫本216ページ。ワンタンマガジンに掲載された『しょくふに』を大幅にリアレンジし、ここでしか読めない書き下ろしを2本プラス。さらにnoteに掲載した選りすぐりのテキストのリアレンジ版を掲載しています。しおりつき。売上金は全額ワンタンマガジン運営費に計上いたします。

◎BASEでのご購入はこちらから
OTMG Official Shop
クレジットカード、Amazon Payなど様々なお支払いに対応しております

◎お得な直接購入の詳細はこちらから
エッセイ『就職できなかったフリーランスライターの日常』を書籍化!

◆SNS
Twitter:@s_o_518
Instagram:@okiniilist @s_o_518
note:@sayakooki

LINEで送る
Pocket