16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第17回~楽しい夜はゆっくり訪れる

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第17回 楽しい夜はゆっくり訪れる

 

[1]怒っている

僕は怒っています。あなたでも、バンドメンバーでも、ライブハウスでも、対バンに向けた怒りでもありません。世に向けた、経済に向けた愚痴みたいなものです。

え? 聞いてくれますか? ありがとう、ありがとう。なんていい人なんだ。ねぇ思いませんか、あまりにも最近、インスタントに恩恵が受けられるものに人は飛びつきすぎじゃないでしょうか。すぐに利益のでるもの、わかりやすく感動できるもの、なんでも「すぐに」「最短で」「タイムパフォーマンスが良いもの」、そんなすぐに味のするもの、僕はうんざりなんです。

すぐに恩恵があるものはほとんどありません。あったらみんな、やってます。なのに「すぐお金になるもの」ばかりが持て囃されていて、なんだか息苦しいんです。

その息苦しさをもう少し解き明かしていくと、「すぐにお金にならない文化側の人間」に僕が属しているところに原因があるようです。経済の尺度から見れば、「文化」がお金を産むまでにはかなりの時間がかかります。ものによっては、100年以上かかるものだってザラにあります。「文化」はとにかくもたもたしているから、真っ先に攻撃されやすいのです。

当然、文化の中には「音楽」も「ライブハウス」も入ります。世の中がインスタントなものに溢れ過ぎたがゆえに、以前よりも断然、攻撃されやすくなっている気がします。

ところでガストバーナーは先日『Tonight Tour 後半戦』と銘打った東名阪ツアーを終えました。どの夜もとてもステキな夜だったんです。同時に一朝一夕でこんな楽しい夜はできないんだとも感じました。「すぐに」「最短」ではできない夜が幾つもありました。

前段が怒りでずいぶん長くなりましたが、そんな攻撃されやすい文化の発信地、ライブハウスを結節点にしてツアーのステキな夜を振り返ってみましょう。

 

[2]16ビートはやおはスティックしか持ってきていない

アルカラの太佑さんが、「ガストバーナーの16ビートはやおとかいうやつはー!! スティックしか持ってきてないやんけー!!」と叫びながら次の曲に入っていったのは、コロナ禍の渋谷O-Crestでの出来事でした。実際はペダルも持っていますが、それでもバンドマンにしては機材があまりに少なく、小型犬を入れたキャリーバッグくらいの総量しかありません。

そんな思い出のあるO-Crestからツアー後半戦は始まります。ここには不思議な引力があります。あたたかさを感じるのですが、やはりそこは渋谷で毎日闘うライブハウス、相応のシビアさも兼ね備えています。個人的になんだかそのあたたかさとシビアさが共存しているちぐはぐさがとても魅力的だったりします。勿論いつだっていつも良いライブをしようと心がけているのですが、「気の抜けなさ」みたいなものがいつも以上に張り巡らされているような気がして、どこか毎度そわそわしながら過ごすライブハウスです。

この夜はAlaska Jamとツーマンでした。僕個人は完全に初めましてだったのですが、長く音楽をやっているもの同士、一瞬で通じるものが確かにありました。

ギターのたけまささんは、初めて見る僕のドラミングを舞台袖から、棒立ちで「なんだこいつは」的な笑顔で見つめてくれていました。たけまささんどうもはじめまして、16ビートはやおといいます。

打ち上げでたどたどしく話し始める感じは、どれだけバンド歴を重ねても変わりません。ガストバーナーのメンバーはそれぞれセカンドキャリアのバンドなので、個々人で知り合いの幅が全然違います。この日もその溝のようなものを楽しみながら過ごしていました。

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[3]怖い話をしましょう

SOCORE FACTORYという大阪・堀江のライブハウス。僕はガストバーナーの皆をどうしてもそこに連れて行きたかったのです。扉を開けるとステージまで真っ直ぐ18メートル。天井の高い洞窟のようで、おまけにステージも高い。最前のお客さんは、首を30度上に傾けてライブを見るものだから、イベント終わりには首が痛くなる人もいるとかいないとか。そのステージの高さゆえにスピーカーはなんとステージ下、お客さんの真ん前に設置されています。低音が良く響きますし、音もポーンと飛んでいきます。

店長は通称かさごさん。柔和な笑顔を見せながら芯喰ったことをちゃんと言ってくれる信頼できる人。僕以外のガストバーナーのメンバーを、かさごさんと引き合わせたかったのです。かつて20歳の僕は、当時ドレッドヘアのかさごさんに本気で怒られたことがあります(かさごさんはそのことを全く覚えていないから余計に怖い)。

至極真っ当に怒られた僕は贖罪のつもりで、かさごさんが当時店長だった難波ROCKETSに飲みに行きました。どういう流れか朝4時頃、泥酔したかさごさんが「怖い話をする!」と言い出し、照明を暗くし、ステージに上がり、話が聞き取れないくらい深いリバーブをかけ、怖い話を始めたのです。しばらくして話がぷつり、ぷつりと途切れがちになりました。スー、スー、と寝息が深いリバーブのエフェクトを通してライブハウスに響き始めたのです。すやすや眠るかさごさんをステージに置いて、そっと、帰りました。

そんな愛すべきかさごさんに、ガストバーナーを見てほしかったのです。時が経っても変わらぬくしゃっとした笑顔でした。嬉しかったと同時に、十年以上の月日が笑顔の皺に刻まれているのも感じました。

この日のツーマン相手はポップしなないで。ドラムのかわむらさんとは長い仲ですが、かめがいさんは初めましてでした。

ポップしなないでのライブを見ながら感じたこと。多分あの二人、魔王を倒そうとしています。変なことをいうのですが、RPGゲームだったら、あの二人は物語の根幹に関わる重要な秘密を握っていると思うんです。かめがいさんがお茶目な大魔法使いなら、かわむらさんはニヒルなパラディン。

僕はあの二人が「努力を見せない天才」に見えていました。飄々としているのに、あまりに裏打ちされた確かな実力。きっとあれは天性のものを磨きに磨いて得た努力の結晶のはず。エレクトリック修羅、良い曲です。この日のライブではやらなかったけれど、それもまた良かったです。次がまたある、そんなことを予感させてくれる日でした。

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[4]畳には幽霊がいる

ファイナル名古屋編は、池下CLUB UPSET。楽屋の一角に畳スペースがある特徴的なライブハウスですが、メンバーの辻斬りっちゃんは「あの畳の角に幽霊がいるらしいです。悪い幽霊じゃないみたいですけど」と話してくれました。まぁ、ライブハウスが好きな幽霊なら仲良くなれるかもしれない。人見知りならぬ、幽霊見知りしないようにしたいものです。

UPSETに関しては、大阪在住の僕以外のメンバーが個々に関係性を持っているライブハウスです。僕はそこに混ぜてもらっているだけに過ぎません。メンバーは皆、UPSETの人に恩義を感じていて、僕はそれを見ながら笑顔になってその関係性に想いを馳せています。長年紡いできた関係が、音響や照明や、あらゆるところに血液のように流れているのを感じました。

そして対バンのネクライトーキーとは、不思議な縁で繋がっています。大阪で地を這ってバンド活動を続けていたら誰でもそうかもしれませんが、ギターボーカルのもっさちゃん以外は、皆それぞれネクライトーキーとは別の形で出会っています。僕もそうですが、形を変え、バンドを変え、こうして巡り巡って名古屋の地で会える。そして他愛のない話でまた、夜を深めていく。

これはバンドを長くやっている者の特権なのかもしれません。バンドをやっているかぎり、ライブを頑張ればバンド友達に会えるし、新しい友達も増えていく(同時に減ってもいく)。お客さんもライブを頑張っているときっと会える。ライブハウスで働く人も、バンドを続けている限り、ライブハウスで働き続けてくれている限り、どこかで会える。頑張っていれば会える。

バンドを辞めることができないのは、辞めた途端、こうやって大好きな人と会う口実を失ってしまうことが寂しいからなんだと思います。結局楽しい人生の側にはライブがあり、大好きなライブハウスがあり、大好きなお客さんがいて、大好きな対バンがいて、大好きなバンドメンバーがいる。Tonightツアーでは、そういった大好きなものと場所を再認識させてくれる日々でした。バンド、楽しいなぁもう。

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[5]まだ怒っている

最後にまだ、怒っている話をします。なんだよ、楽しいなと言ったりまた怒ったり、情緒不安定かよ、すみません。

やっぱりこれだけ良い夜を重ねても、世の中ちっとも変わりません。そりゃそうなんですが、日常に戻るとまた「すぐに」「最短で」「なるべく強烈なもの」ばかりが持て囃されて、それにみんな飛びついて、新しいものが出たらまた飛びついて、腹の据わりが悪ければみんなで寄ってたかってこき下ろして、それが正しいことのように罷り通っています。多少の良い夜くらいではこの胸のつかえは取れません。

最短が悪いとは思わないし、できる近道はしたほうがいい。けれど、「それなりに時間がかかるからこそ面白いこと」の喜びを、もっと分かち合いたいなと思っています。でも、それすら許してくれない社会の空気と肩身の狭さと、街行く人の余裕のなさを感じています。

劇薬ばかりが飛び交う社会を、楽しく生きれる気はしません。今は逆に、今回のツアーのように時が経てば経つほど味わい深くなるもの、毎日少しずつ積み重ねてゆっくり面白くなるものを追求したいです。良ければ一緒に、ゆっくりどうでしょう。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

《ZOOZ》
2025.02.22(土)名古屋 新栄CLUB ROCK’N’ROLL
「SPECIAL ISSUE!!!!」
ZOOZ / 鈴木実貴子ズ / 喃語 / ワッペリン / TAKUMA (DJ)
/ ちょこたん (DJ)

202503.08 (土)東京 吉祥寺NEPO
弱虫倶楽部 pre.「creep on yeah」
ZOOZ / 弱虫倶楽部 / 神々のゴライコーズ / Tyrkouaz / -DJ-
Ackey / -FOOD- いいにおいの日々

2025.03.15 (土)大阪 西成CLUB WATER
「1998:high mountain a.k.a. “27”」
ZOOZ / LEEVE ROSELYN / 楽しんでいこうや西岡と狂ったチワワズ / MELTME / SUPER ULTRA (箱) / カーミタカアキ/ DJ PIGSY / DJKINUTRIA / FOOD KNSpice

2025.04.05 (土)大阪 扇町para-dice
ZOOZ pre. 「Peace」
ZOOZ / the elks / and more!

《ガストバーナー》

2025.02.22 (土)名古屋 ダイアモンドホール / SPADE BOX
「ブクロック!フェスティバル -2025-」
ガストバーナー / バックドロップシンデレラ / 打首獄門同好会 / 赤飯 / アイリフドーパ / MAYSON’s PARTY / 魔法少女になり隊 / locofrank / HERO COMPLEX / 炙りなタウン / THE BOYS&GIRLS / Su凸ko D凹koi / キュウソネコカミ / 八十八ヶ所巡礼 / ロマンス&バカンス / クリトリック・リス

2025.02.23(日)名古屋 新栄ROCK’N’ROLL
「GAS and PIERO」
ガストバーナー / 感覚ピエロ

2025.03.01(土)名古屋 新栄sunset BLUE
「令和7年度アルバム途中報告会」
ガストバーナー(報告会&弾き語り)

2025.04.06(日)東京 池袋Adm
「Give me Moneyワンマン東京編」
ガストバーナー

2025.05.03(土)
大阪4会場(ANIMA / BRONZE / Pangea / HOKAGE)
「邂逅遭遇2025」
ガストバーナー / ANABANTFULLS / CAT ATE HOTDOGS / ジラフポット / FATE BOX / mogari / 山田亮一とアフターソウル / YOWLL / ヨークシン / Large House Satisfaction / LONE

2025.05.31(土)大阪 扇町para-dice
「Give me Moneyワンマン大阪編」
ガストバーナー

2025.06.01(日)富山ソウルパワー
「Tonightツアー特別編 -振替公演-」
ガストバーナー / アルカラ

2025.06.22(日)名古屋 新栄ROCK’N’ROLL
「Give me Moneyワンマン名古屋編」
ガストバーナー

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