爆弾ジョニー『みんなの幸せ』

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ALBUM(CD)
爆弾ジョニー
『みんなの幸せ』
2014/12/03 release
Ki/oon Music

初期衝動では出せない、様々な重みを背負った覚悟の音

 ステージの上にいる5人はいつも、観客に向かってひたむきにかつ豪快に音を鳴らす。それはもう満面の笑みだ。だがその笑顔には、いつも涙の痕が見える。悔しさ、コンプレックスを抱えながらも、自分たちが笑顔になるために、人々を笑顔にさせたくて、たくさんたくさん泣いてきている。だからこそ彼らの音楽は、心の奥の奥まで少しずつ滲むように染み入り、人々を笑顔にさせるのだろう。

9月のライヴをキャンセルして以降、フロントマンのりょーめーは休養に入っている。12月4日のりょーめーの誕生日に予定されていたZepp Tokyoワンマンライヴの中止が11月26日にアナウンスされ、公式サイトにはりょーめーの状況が書かれていた。彼はとても責任感の強い人間で、わたしが4月末にインタヴューをした際にも、たくさん悩み、もがき、戦っていた。いま思うとあのときから本当に、自分たちの音楽とバンドを信じることだけで、なんとか踏ん張っていたんだと思う。

そのとき爆弾ジョニーがこの先どうしていこうか、どうしていきたいかを語った彼は、わたしに「……大丈夫だよね?」と訊ねてきた。不安で仕方なかったのかもしれない。わたしはサングラスの向こうの彼の目を見て「うん。大丈夫」と答えた。その「大丈夫」という言葉に、「大丈夫」の意味以上の「大丈夫」をこめたくて、「うん。大丈夫」という言葉を発した感覚が、いまも生々しく残っている。そしてこの原稿を書いている11月27日現在も、その気持ちは変わらない。爆弾ジョニーは大丈夫、このままどんどん行ってくれ! ――『みんなの幸せ』は気持ち良くそう思えるアルバムだった。

バンドの目標は「世界平和」。彼らは「世界平和の第一歩はみんながふざけること」という理念を提唱している。まず、バンドで世界平和を目指すという時点で、彼らはめっちゃ優しいし、相当いいやつらだし、何より純粋。一見ただの悪ふざけのように見えるかもしれないが、彼らは本気で世界平和を目指しており、爆弾ジョニーの音楽だけでなく活動すべてに、その気持ちがそのまま表れている。『みんなの幸せ』は4月にリリースした『はじめての爆弾ジョニー』でも見せた顔を更に強く印象付ける作品で、もうこの5人が音を鳴らしたらなんでも爆弾ジョニーになっちゃうんだな、とその芯の強さに感服だった。世界平和を掲げるだけあって、彼らのやることはとにかくいちいち痛快でど派手。様々な音楽ジャンルを取り入れたバランス感覚も、音と言葉によっていろんな表情を見せ、少年にも大人の男にもなるりょーめーのヴォーカルも、それを現在の最上級で磨き上げている。

高速パンク【ZENSOKU SWAN ~走れスワン~】、名の通りサンバの【柑橘サンバ】、ジャジーな【冷奴】、2010年代の邦ロックの定番とも言えるシンセの効いた四つ打ちナンバー【いたいけBOY♂イケナイGIRL♀】、やれることをすべて詰め込んだ【◎△$♪×¥●&%#?!】などなど、音楽性の幅はかなり広がっている。それだけではなく、メジャーで活動するようになって、プレイヤーひとりひとりのポリシーは以前以上に研ぎ澄まされた。いままでなら勢いでいってしまうであろう部分でも一度呼吸を置き、より良い状態で人の心に飛び込むためにどうするべきか? という意識が隅々に感じられ、それがサウンドをよりクリアにさせる。より我々の心にダイレクトに飛び込んでくる音になった。映画『日々ロック』の書き下ろし主題歌である【終わりなき午後の冒険者】はその象徴とも言える曲だ。

そして彼らの心意気が明確に出ているのがラスト2曲。シークレットトラックもなく、【みんなの幸せ】と【ぼくらの】の畳みかけるこのラストが、爆弾ジョニーというバンドの「核」を赤裸々に我々の心に刻み込む。純粋に音楽を楽しむことだけができた10代。二十歳になった彼らはメジャーデビューをし、世界平和に辿り着くために成し遂げなければならない様々な課題がはっきりと、現実として大きく圧し掛かった。だが5人はそこから目を背けず、10代の頃に作ったこの2曲で、初期衝動では出せない、様々なものを背負った者しか出せない気迫をむき出しにしたのだ。

りょーめーがかつて更新していた個人ブログで、【みんなの幸せ】についてこう綴っていた。2013年の春の投稿だ。

「みんなの幸せ」って曲。
学校行ってた頃、学校が壊れたりなくなったりしたら休みになるからいいなあ、ってそんな妄想ばっか。
それの生命規模の話。
隕石とか怪獣で地球がなくなったらみんながずっと夏休みでいいなあ。
っていう安易な思いつきと人間の楽の極み。
とだけ言っておく。

http://ameblo.jp/blue-daikinboshi/page-8.html

彼の感性は、いつも「終わり」を感じ取っている。だから彼の描く景色は、果敢無いけど美しいし、終わりがあると知っているからこその希望を育めるんだ。そしてアルバムの最後の【ぼくらの】で彼はこう歌う。〈弱いときの自分も 強いときの自分も/それが ぜんぶ ぜんぶ ぜんぶ ぼくなのさー〉。弱いときのあなたも、強いときのあなたも、ぜんぶぜんぶぜんぶあなただから。わたしはあなたが、仲間と一緒に我々の前に姿を現してくれる日を、いつまでも待っています。(沖 さやこ)


爆弾ジョニー 『唯一人(tadahitori)[Music Clip]』


爆弾ジョニー 『終わりなき午後の冒険者 (Music Clip)』


爆弾ジョニー 『P.P.P (Power to the Party People) [Music Clip]』

▲DISC INFORMATION▲

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みんなの幸せ

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