ゼッケン屋 -2014.11.29 at 渋谷CLUB QUATTRO
ゼッケン屋
ゼッケン屋 FIRST LIVE THE PREMIUM ZEKKEN
2014.11.29 at 渋谷CLUB QUATTRO
初ライヴで「無敵」のマントを華麗に翻しつづけた仮面の騎士
取材・文:沖 さやこ
皆さんは“同人音楽”というシーンをご存知だろうか。
同人音楽とは簡単に言えば同人誌の音楽ヴァージョンで、主にコミック・マーケットで頒布される。同人PCゲーム(※アマチュアのクリエイターや同人サークルが趣味で開発したゲーム)の音楽などをアレンジし、歌詞を充てて歌唱、演奏するものが多い。
筆者がそのシーンを知ったのはいまから7年ほど前の話。ニコニコ動画にアップされていた同人音楽シーンの人気アーティストのライヴ映像を友人の家でいろいろ見せてもらい、まず会場の規模の大きさを見て、その盛り上がりに「自分の知らないところにこんな大きなシーンがあるなんて!」と驚いたものだ。そして観客のエネルギーや、アーティストたちの楽しそうに演奏する姿や自由な発想など、取り巻くすべてが新感覚で開いた口がふさがらず、高揚でただただ笑いが止まらなかった。アレンジによって音楽はいろんな表情を見せることを肌で感じ、音楽の面白さや奥深さを知ることになる。
同人音楽の面白さとは、「この曲かっこいい! でもアレンジをこうしたら絶対もっとかっこよくなる!」という、妄想や理想を現実にすることにあると思う。そこには「お金を稼ぐ」という邪念はほとんど存在しない。純粋な自らの美意識、自意識をフルパワーの楽しさや好奇心でもって表現した、新たな可能性の提示でもあるのだ。
石鹸屋というバンドもまた、その同人音楽シーンで頭角を現した先駆者であり、アレンジ楽曲だけでなくオリジナル楽曲も並行して発表しどちらも同等の支持を得て、2010年からはメジャーでのリリースも行うなど、同人音楽シーンというものを一般世間に知らせるアイコンにもなった。その石鹸屋のメインコンポーザーでありギタリストの秀三の個人サークル「ゼッケン屋」がとうとう初ライヴを東名阪にて行うということで、「一体どんなものになるのだろう?」と期待に胸を膨らませ東京公演に足を運んだ。
ゼッケン屋での秀三は、とにかく少年のように楽しそうで、のびのびと生き生きとしていた。それはわたしが同人音楽シーンに触れたときに感じた、「アーティストたちのピュアリティの塊」をひたすら連射されたような感覚でもあった。自信に満ちた迷いのないぶっ飛んだ爆発力――なんだかまるで思春期のときに感じた無敵感のようだ。
この日はベーシストにHumans oulの内山博登、ギタリストにHumans oul/LuCy-Luの小林ヒロト、そしてゼッケン屋とコラボアルバムもリリースしている狐夢想がシンセサイザーとプログラミングで参加するというドラムレススタイル。秀三も主にハンドマイクで歌い、この日は燕尾服でステージに登場するなど、石鹸屋では見られないスタイルで自身の世界を開放していく。彼の声の伸びやヴィブラートも絶好調で、フロアとのコールアンドレスポンスもばっちり。観客とのグルーヴの強さは彼がリスナーからまっすぐぶっとく愛されている所以だろう。
秀三は長身痩躯ゆえに燕尾服姿がよく映え、謎のアグレッシヴなアクションも、お馴染みのカツラと仮面姿もまた男前に見えてしまう。でもそれは東方Projectの和風のメロディ、狐夢想のテクノセンス、曲によりがらりと人間をも変えるような小林の七変化的なギタープレイ、安定感の極みとも言える内山のベース音、ハードロックとデジタルロックとダンスロックが融合しつつはみだしている、という一癖二癖ある音楽性も影響している。うーん、自由だ。無限だ。やりたい放題だ。それをしっかりまとめてしまうのはプレイヤーの力量である。ハンドマイクで4曲歌い倒した彼だが、5曲目の【イッツホーライ】は打ち込みのドラム音を入れギターヴォーカルスタイルで披露というストレートなバンドサウンドを聴かせた。
初ライヴということで謎の多かったゼッケン屋ライヴ。秀三も「どう見ていたらいいかわからない人もいると思うけど、我々もどうしていいのかわからない」と場内を笑わせ、「どうしていいのかわからないを極めた結果、どうでもいいやという結論に至りました(笑)。“どうでもいいや”は世界最強だぞ? 守るものがねえってことだからな!」とセットリストは変化球セクションへ。巧みに同期が使われた【エソテリアン・ヒステリア】は生音と電子音と演歌さながらのメロディが交錯し、トランス状態へと導く。狐夢想がステージ前方に出てきて歌う【図書館で会った人だぜ】、メンバー全員が光るバイザー&振り付きで披露した【君は、ゆあキュン。2014】と、狐夢想のテクノ愛が炸裂。彼のダンスのキレの良さがまたシュールさに拍車をかける。
石鹸屋のときの秀三はあまり他のメンバーによりかかることをしない印象がある(自分がしっかりと引っ張らなければいけないという強い責任感が前面に出ているように見える)ので、悠々自適にステージに立つ彼を見て、ゼッケン屋は本当に肩の力を抜いて自由に音楽に興じられる空間なのかもしれないと思った。バンドのグルーヴも更に研ぎ澄まされ、フラメンコ的なギターが効いた【天の光は、ほぼ私】は楽曲の勢いと相まってその大きなスケール感に溜息が出た。
秀三がギターを構えインスト曲を2曲披露。The Ventures的な【暗闇ガールはロンリネス】、繊細な和太鼓を想起させる和風の同期音の導入もロマンティックな【春よ舞い上がれ深空に】のメインメロディを辿る秀三のギターは、彼の素の心を映し出すような、不器用でひねくれているがあたたかい音に浸る。【ムラサオペラ】のアウトロに壮大な台詞が入りハードロック然としたギターがダイナミックな【命落トシテモ尚、生キロ】へと突き抜ける感覚は、漫画のなかのヒーローに心を奪われるようなスケールと爽快感だった。
新曲【神々(KO-GO)】はベースのスラップが効いたダンサブルな楽曲で、音の端々からゼッケン屋の柔軟さや幅広い音楽性が如実に表れる。ダブステップを取り入れた【タンデムテイル】では抒情的な小林のギターソロが優雅に舞い、ラストに相応しい堂々としたサウンド。そこにフロアからの軽やかなクラップが重なり、非常に優しい空間が広がった。アンコールのラスト【ハイコートポロロッカ】まで、そのテンションを切らさず、ゼッケン屋の初ライヴは純粋さと楽しさを放ち続け、ひたすら無敵のまま大団円を迎えた。
無敵であるということは「なんでもできる」ということ。「なんでもあり」だということ。それは「なんでもいい」ということで、それがなんであっても「どうでもいい」のかもしれない。背水の陣とも思える「どうでもいい」は、高いモチベーションと好奇心、上昇志向によっては「向かうところ敵なし」とも言える強靭さへとなり得るのだ。なんだか初期の石鹸屋が出していたようなギラついた輝きをも彷彿させた。このタイミングでこれを手にした彼が、石鹸屋にそれを還元したときバンドはどうなるだろうか? 早くその全貌が見たい。
▲SET LIST▲
01 世界のウジウツ
02 ヤクプリ
03 エイリアン・イン・ザ・ミラー
04 甘い夢、魔性の林檎
05 イッツホーライ
06 博麗ちゃん境内から落下す
07 エソテリアン・ヒステリア
08 図書館で会った人だぜ
09 君は、ゆあキュン。2014
10 天の光は、ほぼ私
11 暗闇ガールはロンリネス
12 春よ舞い上がれ深空に
13 ムラサオペラ
14 命落トシテモ尚、生キロ
15 境界へと至る病
16 神々(KO-GO)
17 THE LEGEND OF HAKUREI-CHANG
18 この暗く閉じた世界から、君へ
19 タンデムテイル
-encore
20 上海コーリング~幻想は燃えている
21 ハイコートポロロッカ
(C)上海アリス幻樂団