LUNKHEAD -2015.5.7 at 代官山UNIT

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LUNKHEAD
LUNKHEAD ワンマンTOUR 2015 君の街でYeah!
~日比谷野外大音楽堂のチケットを売りに行くツアー~
2015.5.7 at 代官山UNIT

地図から家へ、家からさらに広い世界へ――全国ツアー初日で見せたふたつの表情

取材・文:沖 さやこ

 

LUNKHEADはどの作品でも常に「満たされなさ」を抱えていた。微かな光を見つめる鋭い眼光と、反射する涙と汗が、生き様という艶を放ち、その青さが眩しかった。そんな彼らが10作目のフルアルバムとして、『家』を作り上げた。ずっと前へ前へ、次へ次へと進んできたLUNKHEADが、救いのない曲すらも救いへと誘うような、バンドの歴史の境地とも言えるアルバム。ずっと光を求めていたLUNKHEADがやっと報われた、満たされた、辿り着いた。なんて素晴らしいんだ。そう思う。だが心のどこかで、一抹の物足りなさも感じていた。わたしはLUNKHEADの何に心を打たれたのか。それはいまにも壊れそうな喜怒哀楽を抱えてでも、満身創痍を引きずってでも、戦場へと前進する勇気ではないか。

ギターヴォーカルでありソングライターである小高芳太朗は、『家』の最後「玄関」でこう歌う、〈進まなきゃ ここから 出かけなきゃ〉。家を出て、彼らはどんな姿でどこへ向かうのか。何があっても前進をやめなかったバンドだからこそ、その先が気になって仕方がなかったのだ。ファイナルに待ち受けるは日比谷野外大音楽堂。全国ツアー初日、代官山UNIT、熟視のレポートである。

odaka03ライヴはまず爆音で【MAGIC SPELL】【シンドローム】【ENTRANCE】と畳みかける。小高のヴォーカルは的の中心を真っ直ぐ射抜くように強い意志のある声を飛ばす。そしてその横で鳴る山下 壮のギターが、異様な焦燥感だった。4人の音は綺麗な円ではなく、なんだかとても歪だ。よくある初日の“どう出るべきか”と試行錯誤する緊張感とは違う。転びそうになりながらも一瞬一瞬に爪痕を残そうと果敢に足を前に出す――若さがもたらす衝動のようだ。初期曲である【ENTRANCE】が生々しく響き、肌を突き刺してくる。

憂いのあるメロディとアッパーなサウンドのコントラストが美しい【金色のナイフ】では黄色のライトに照らされたミラーボールがふたつ回り、UNITを流星群にしてしまうような演出が。山下はエフェクターを駆使し、楽曲の世界に聴き手が這い上がれなくなるほどの深い影を作ってゆく。初期曲【体温】もまた常に不安定な空気があり、【螺旋】は猛スピードで蹴散らすように荒々しく、【神様なんていない】もまたその抑制できないパワーの赴くままに突っ切る。止まらない涙のような音。昔のLUNKHEADはこんな音を鳴らしていて、その傷だらけの姿がとても美しくて、見惚れたんだ。現在の彼らに過去の彼らがちらつき、心地よい混乱に襲われる。

yamashita01その緊張感のまま【誰か教えて】へ。『家』のなかで最も救いのない曲を、小高は一言一言こちらの心臓にねじ込むように歌う。そんな激情に反してサウンドは無情に響き、メランコリックな【零時】は一転、ヴォーカルは淡々と、サウンドはエモーショナルに。いまにも崩れそうなギターと歌を、桜井雄一のドラムと合田 悟のベースがひとつも取りこぼさずに支える。そこから【音のない部屋】への流れは、終わらない夜が明けたような、ひとつのハイライトだった。

「ゴールデンウィークは俺は事務所でグッズを作って、大量のごみに囲まれながら家のなかを断捨離しよって。世間はゴールデンウィークゆうてんのに俺は……と思ったけど、お陰で家は綺麗になったし、みんなのためにグッズも間に合わせることができて。でも、幸せってこういう、地味で、しんどくて、めんどくさい、逃げ出したい。そういうものなのかなと思いました」小高がそう語り、バラード【うちにかえろう】を歌い上げる。表情豊かなドラムが、家のなかに染みついた、人の匂いとぬくもりそのものだった。

gda07MCを挟んで後半戦、【僕たちには時間がない】でフロアをあたためると、続いての【闇を暴け】は山下のギターが前半のひりついた空気をダイナミックに昇華。するとフロアもステージもスイッチが入ったように一気に華やいだ。カウンターを食らわす圧倒的なエネルギーにフロアも歓喜、すると小高がギターを置いてハンドマイクになり「お前らに必要なのは精神の解放、吐き出せ!」と叫び、LUNKHEAD流パンクナンバー【懺悔室】。ギターのノリも絶叫調で、フロアを引っ掻き回す。「本当は幸せなんてどこにもないのかもしれない。けど、いまここで俺らは幸せになったっていいんだ!」「ライヴハウスは毎日お祭りだ!」という小高の言葉から【スターマイン】【シンフォニア】と笑顔と包容力で突き抜ける。間違いなくこれは、去年LUNKHEADが育んだ力だ。ラスト【玄関】は優しくてやわらかいギターと、小高と山下によるサビの輪唱が気持ちいい。そのそよ風のような音色に、LUNKHEADは家を飛び出したのだと確信した。

sakurai01アンコールラストの【アルピニスタ】ではシンガロングが巻き起こる。4人の爆音を凌駕するほどのフロアの声。LUNKHEADというバンドが真摯に愛されていることを再確認する瞬間で、小高が何度も観客から声を求めていたのも印象的だった。そしてその歌声は、これから全国を旅するLUNKHEADへの激励でもあったと思う。「行ってくるけん、また野音で会おうぜ!」。小高がそう言い残し、メンバーがステージを後にしてからも、フロアからはダブルアンコールを求める拍手が鳴りやまなかった。

正直言えば少し、こんな立派な家を建てたLUNKHEADは、そこを理想郷にして出ていかなくなってしまうのではないか、と思っていた部分もあった。だが前半の若さそのもののような音像は、バンドがさらに羽化することを示唆しているように思う。そして後半のフロアとステージが強く手を握り合う強固な信頼関係は、今年1月に開催された一世一代のみかん祭同様、バンドの歴史の賜物である。1枚の地図を持って大海原に飛び出したバンドが、11年という歳月でたくさんの想いという宝物を手にしてきた。それを得て、家を建てることもできた。ひとつの大きな到達点を迎えた彼らの、まだ見ぬ新たな宝を手にする旅が、ここ代官山から始まった。わたしはこのバンドがまだ見ぬ景色を見せてくれると、心の底から信じている。もっと我々の心の奥に入り込んで、喜怒哀楽すべてをかき回してくれると信じているのだ。

終演後、小高氏と話をした。搬出中だったので少し初日について、野音についてコメントをもらうだけの予定だったが、短時間のわりには思いがけず深い話ができたので、そのときの会話を文字に起こすことにした。

>>次頁、小高芳太朗氏に初日の感想と野音の意気込みを訊く

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