cinema staff 『blueprint』

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ALBUM(CD)
cinema staff
『blueprint』
2015/04/22 release
PONY CANYON

青き「想像力」は、確かな未来を開拓する「創造力」へ
cinema staffの誇り高き青写真

 

cinema staffというバンドは常に未完成である。それは作品のたびに自身のポリシーを全うしつつも、「もっと何かがあるはずだ」と探し続けているからだ。憧れに追いつけない自分自身と戦いながら、悩み、苦しみ、のたうち回りながらも、自分たちを信じ、足を止めることをやめなかった。一歩一歩、確かに進み続けてきた。自分たちはどうするべきか、自分たちはどうしたいのか。追い風に浮かれることなく、誰に媚びることもせず、冷静な視点と思考でその風を読みつづけてきた。彼らはそれをいつも音で証明する。そんな彼らの姿にいつも感銘を受け、勇気を頂いていると同時に、ライターとして原稿を書かせていただいている身として、リスナーとして彼らの音楽を尊敬している身として「自分もこのバンドに追いつかなければ」「彼らに負けていられない」と奮い立たせられる。そして『blueprint』で、「このバンドは一生信頼できる」と確信した。前身バンド結成から12年、現在のメンバーになって約9年。自らの足を見つめ続け、歩みを止めなかった彼らは、この誇り高き青写真を手に、未来を見据えて走り出したのだ。

昨年末にワンタンマガジンでベーシストの三島想平にインタヴューをした際、当時制作中だった『blueprint』について訊いたところ「『望郷』と『Drums, Bass, 2(to)Guitars』のいいとこどりになるんじゃないか」と話してくれた。だが実際『blueprint』は、『望郷』のメランコリックな空気感を帯びているというよりは、『Drums, Bass, 2(to)Guitars』の勢いと自信に、様々なドラマや色合い、広がりがでてきた作品になった。前作の焼き増しではなく大きく進化させているところは、バンドのポテンシャルの高さを物語っている。

今僕達が到達している地点が正解かどうかは誰も分かりません。憧れていた人。憧れていた景色。憧れていた自分。それらにどこまで近づいているか、分かることはきっと、一生無いのかもしれません。大人になった僕らはそれでも足を前に進めないといけないのです。不安や欺瞞や後悔や焦燥を抱えても、今更立ち止まることは出来ません。「目の前にあるこの道を、信じて堂々と歩いていく」これが誇りある人生を歩んでいく上でたった一つの方法だと思います。(cinema staff三島想平公式コメントより抜粋)

『Drums, Bass, 2(to)Guitars』(2014)

2013年、『望郷』という大作を作り上げたあとの、TVアニメ『進撃の巨人』の後期エンディングテーマへの抜擢という追い風をバンドのモードに取り込んだ2014年。その2014年で得た自信と感じた想い、新たな気付きがすべて詰まり音になったのが、この『blueprint』というアルバムである。新たな気付きというのは、三島想平の変化が大きい。それまで彼が主導を握りcinema staffの音楽は構築されていたが、「『望郷』以降どうしていいのかわからなくなってしまった」と、彼は前述のインタヴューでも語ってくれた。そんな自分の足りない部分を補ってくれたのがメンバーだった。新たな方法論で作り上げた『Drums, Bass, 2(to)Guitars』のツアーで手応えを感じることができ、「こういう方法もある」という広い視野を持てるようになり、それがバンドというものだと思うことができた。そしてそれに自信を持つことができた。ソングライターの心境の変化は、バンドに大きなうねりをもたらしている。三島は現在、メンバー全員の意向を汲みながら原曲を作っており、ドラムスの久野洋平の意見で楽曲が変わることも多いそうだ。ドラムとベースの音は引き締まり、よりバンドの音の根幹になっている。

バンドのシンボルであるギターの辻 友貴も、プレイ中のアグレッシヴなアクションのインパクトだけではなく、そのギターの音色の追及がさらに高まっている。その繊細だが強烈で、不安定さも含むという感情の機微を克明に記す音色はcinema staffの音楽が持つ人間味や喜怒哀楽を際立たせる重要な要素だ。ギターヴォーカルの飯田瑞規は、昔から三島の作る楽曲を心から信頼している。それが2014年から、その歌を背負うのは自分だという強い意志が生まれた。「この素晴らしい楽曲をもっと輝かせたい」、彼の歌からはそんな気持ちが滲んでいるように思う。過去最高に歪んだギターと、地に足の着いた重厚なリズム隊の作る音色のなかでヴォーカルが埋もれずにいるのは、彼のやわらかく力強い歌があってこそだ。もともと通常のバンドとは一線を画す不思議なバランスを持ったバンドだが、最近は各々の主張や意志が強くなり、その4つが溢れて零れる寸前になりながらも均衡を保っている。小さくまとまらない、スリリングなグルーヴ――それこそ生きざまやメンタリティがすべて音になる、ロックバンドというものだ。

M3【シャドウ】では、エモーショナルな2本のギターと美しいメロディに乗せて、憧れに手が届かない心情を吐露しながら、最後〈まだやれるよ。/また会えるよ。〉と吼える。その真摯な願いと希望の叫びは、もがきながらも夢を追い続ける人間すべてを肯定し、激励する。それは背中を押してくれるというよりは、「共に歩んでいこう」と手を差し伸べているようだ。自分自身が前進するためのエネルギーを、他者にも向けている。ライヴでもショーマンシップを持つようになった彼らの気持ちが楽曲にも表れているのだろう。名曲揃いであるが(個人的には【シャドウ】以外では【exp】と【特別な朝】を推したい)、このアルバムの肝はなんといってもラスト2曲、ハイスイノナサ森谷氏のピアノと飯田のヴォーカルで魅せるM11【孤独のルール】から、M12【青写真】への突き抜け具合だ。この2曲からは「自分たちはまだまだこんなもんじゃない」「これはまだ序章だ」と言われているようで、とにかく胸が高鳴る。全曲に宿っている逆境をバネに一皮むけたポジティヴなエネルギーが、この2曲に凝縮しているのだ。こんなに意志が貫かれた音を聴いたら、自分も何かを始めたくて、動き出したしたくて仕方がなくなってしまう。

聴けば聴くほど名盤だと思うと同時に、「現在のcinema staffが静かでスロウな曲を作ったらどうなるのだろう?」「cinema staffの特徴のひとつでもあるテクニカルなリズム隊のアプローチをフィーチャーさせたらどうなるのだろう?」など、彼らのこの先への想像が尽きない。これからもこのバンドは自分自身が目指す場所を見続け、そこへの前進をやめないだろう。こんなに美しく明確な青写真を描いたcinema staffの未来に期待をするのは至極当然、不可抗力である。そしてその期待以上のものを我々に届けてくれることは間違いない。『blueprint』が見せる景色は、鮮やかな未来を創造するための青なのだから――。(沖 さやこ)


cinema staff「シャドウ」MV(4th full album「blueprint」 lead track)

 

◆Disc Information◆

cinema staff/blueprint

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