『三十万人』から『全員優勝』へ――ヒグチアイの1年間の成長と変化の軌跡

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『三十万人』から『全員優勝』へ
ヒグチアイの1年間の成長と変化の軌跡

取材/文:沖 さやこ
撮影:井上 拓(LIVERALLY &good for your job

 

昨年2月に初の全国流通盤である1stアルバム『三十万人』でデビューしたヒグチアイが、今年3月17日に2ndアルバム『全員優勝』をリリースした。己の世界を深く深く掘る『三十万人』から、今回の『全員優勝』は外へと向かっていく春によく合う開放的な楽曲が並んだ。それは彼女がかねてから積み上げてきたものを手放したわけではなく、大事に大事に抱えていたそれを遠くへと解き放つ、前進である。『三十万人』から『全員優勝』の間に、彼女にどんな変化や気付きがあったのか。アルバムリリース直後、寒さの残る東京で話を訊いた。

 

zeninyushoヒグチアイ
平成元年11月28日生まれ。出生は香川県、育ちは長野県、大学進学のため上京し、東京在住。2 歳のころからピアノを習い、その後ヴァイオリン、合唱、声楽、ドラム、ギター、など様々な音楽に触れる。18歳で鍵盤弾き語りシンガーソングライターとして活動開始、某オーディションで約4,000 組から最優秀賞を獲得。2012 年9 月6に渋谷O-WEST にて自主企画&レコ発ライヴを行う。年間のライヴ本数は150 本を超え、ライヴで地道に音楽を伝え、自主制作のCD を精力的に販売。男女年齢問わず人気を集める。2014 年2月26日にシンガーソングライター大柴広己をプロデューサーに迎え、「ZOOLOGICAL」レーベルより、1stアルバム『三十万人』を全国リリース。アルバム発売から約3ヶ月間で全国50ヶ所の全国ツアーを敢行し、ツアーファイナルの東京青山・月見ル君想フ、大阪南堀江Knave、地元長野LIVE HOUSE Jの3ヶ所でワンマンライヴを行い、各会場ソールドアウトを果たす。その後も精力的に活動を続け、待望の2ndアルバム『全員優勝』がビクターミュージックアーツより2015年3月18日にリリースされた。
information:オフィシャルサイトTwitter

 

「努力家でストイックな人たちが認めてくれるならがんばれる」と思った

――昨年初の全国流通盤である1stアルバム『三十万人』をリリースなさって、どのような変化がありましたか?

初めてCDが店頭に並んで、うちのおじいさんが喜びました(笑)。いままでずっと「大丈夫なのか?」と言われていたんですけど、カラオケにも1曲入って「頑張ってるんだな」と言ってくれました。それが自分的にはいちばんうれしかったですね。「店頭に並ぶ」「カラオケに入る」というのは、目に見えてわかりやすく「進んだ」ことが出るので、周りからの見られ方も変わったなと。じんわり積み重ねていくことも大事だけど、わかりやすいことも大事なんだと思いました。

『三十万人』(2014)

――あのアルバムは大柴広己さんがプロデューサーさんで、2曲演奏陣に畑利樹(ex.東京事変/Dr)さん、山崎英明(ex.School Food Punishment/Ba)さんが参加し、1曲ゲストヴォーカルとしてセカイイチの岩崎 慧さんが参加なさっていて、とても強力な布陣でした。いまもヒグチさん、畑さん、山崎さんのスリーピースでライヴをなさることがありますね。

畑さんと山崎さんは、すっごいお世話になってたライヴハウスの人が「どうしてもこの3人でライヴが観たい」と言って紹介してくれて。めっちゃ恥ずかしいんですけど……わたしは東京事変の大ファンで、高校のときにコピーバンドをやっていて。そのときわたしはドラマーで、東京事変の【群青日和】のドラムが初ライヴだったんです(笑)。School Food Punishmentももちろん知っていたし、話をもらってただただびっくりで。それで一度ライヴをしてみて、ふたりはすごく気さくでいい人で、腰が低くて。……ほんとにいい人たちなんです。

――3人のステージでの空気感も、とてもいいですものね。

わたしは自分に自信がなくて。でも3人でやり始めて、自分のなかでなかなかうまくいかなかったときに、自分があのふたりとやっていること、あのふたりが「大丈夫、ヒグチアイはいいから」と言い続けてくれることだけが自信になっている時期もありました。ふたりは名前があるだけじゃなくて、本当に努力家でストイックな人たちなので、「そういう人たちが認めてくれるなら大丈夫だろう、がんばれるな」と思いました。

――畑さんも山崎さんも、ライヴでとっても楽しそうです。

そうなんですよ!(笑) わたしは一生懸命に演奏してくれる人と一緒にやると緊張しちゃうので、すごく笑ってくれる人とでないとライヴはできないんだなって思ってて。あのふたりとやっていると「すごく楽しそうにしてくれているな、じゃあ大丈夫だ」と思えるんですよね。……昔から音楽をやっているのに、人前に出たりすることが全然好きじゃなくて。ワンマンライヴに来てくれる人はみんな自分のことを聴きに来てくれてるじゃないですか。その期待が本当に緊張するので、自分がリラックスできて楽しい状態にいたい、という気持ちはいつもあります。でもお客さんも優しい人たちばっかりで、ヒグチアイが何をやっても受け止めてくれる。それに甘えていてはいけないんですけど……甘えてますね(笑)。もっとがんばらなきゃです。それがいちばん大変なことでもあります。

>>「いままでのものには頼らない」という気持ちで作ったアルバム

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