時代に埋もれることのない音楽を――Any、自主リリースの挑戦(後編)

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◆すべてラヴソングに始まってラヴソングに終わる

――自分自身を「まるでポップさがない」とおっしゃる工藤さんが、人の手を借りてもポップソングを作りたい理由は?

s_DSC00395工藤:やっぱりポップなものが好きなんだと思います。僕はやっぱりすごく昔から内省的で陰のある音楽が好きなんです。底抜けに明るいのは得意ではなかったし……自分がやるものじゃないのかなと思ってて。でも、ちょっとずつちょっとずつ紐解いていって、「別に底抜けに明るいものだけがポップスじゃないよね?」「自分が好きなあの音楽だってポップスじゃん」と思って。ポップスの解釈がだいぶ変わったんです。僕たちの作るポップスのひとつの形はこれなんだなと。基本姿勢はギターロックだと思われるかもしれないけど、作る気持ちの姿勢としては「ポップスを作る」という気持ちがありますね。

――なるほど。

工藤:昔は人から言われることや、ちょっとしたニュアンスで印象付けられることにも神経質で敏感でした。ギターロックと言われることにも抵抗があったし、「いちいち言うなようるせえな、さっさと聴けよ!」みたいな気持ちしかなかったですけど、今は別になんて言われても、作りたいものを作ることができてるからいいかなって。ちょっと大人な気持ちになりました(笑)。

――ふふふ。どの曲も愛を歌ったものですが、“ラヴソング”の一言では片付けられない曲ばかりですよね。

s_7L0A0166-2工藤:ちょっと歪んだ愛もありますからね。昔っからそうなんですけど、基本的に僕はラヴソングしか書けないんですよ。「ラヴソング以外のものを書いたら?」と言われることもあったんですけど、僕は全部ラヴソングに始まってラヴソングに終わるんですよ。自分のプレイヤーに入っているものもほとんどそうだし、そうじゃないものを挙げろと言われても難しくて。孤独を歌ったものや、生活をしていて落ち込む瞬間があったり……生活のなかで感情の起伏は生まれると思うんですけど、そういうものがちゃんと反映されている音楽が好きなんでしょうね。だから今回の作品はいろんな愛があるのかな、と。

――以前よりも歌っていることや、ラヴソングを歌う対象がはっきりしている印象もありました。いままではちゃんと見ないでもやっとした感情が楽曲になっていたかもしれないけど、今回はちゃんとそこに向き合ったうえでの抽象的な表現というか。

工藤:うん、そうかもしれない。1曲のなかに必ず“違和感”があって、すんなり終わらない感じがいいなと思います。歌も前より全然良くなってると思うし。フラットな気持ちで歌えているというか。

――工藤さんの歌は、人に語りかけるようですよね。それも多くの人に届ける語りではなく、こんなふうに近くで話すような感覚があるというか。

工藤:あ、もしかしたらそれは――僕らはアルバムを作る前にライヴをすごくやってたんですよね。それで人から「工藤くんは曲のなかで伝えたいことをちゃんと出そうとしてるから、MCはあんまり必要ないと思うよ」と言われて。最初はそれがいいのか悪いのかわかんなかったんです。それで1回まったくMCをやらずにライヴをしてみたら、すっごいお客さんがちゃんと聴いてくれて。僕らの音楽を好きな人はたぶん、ライヴで手を叩く必要がないと思ってるんです。手を挙げる人もいないし、曲が終わったときの拍手もないこともあって。それは彼らにとって必要がないからだと思うんです。僕らの音楽を聴く意味がそこじゃない。“楽しむ”というベクトルが他のバンドと全然違う。とにかく“聴く”んです。聴きに来ることで楽しんでいるんですよね。

――そうですね、Anyのお客さんはしっかり音楽を聴いてる。

s_7L0A9842工藤:それに気付いたのが僕は本当に最近で。みんなから「ずっと工藤くんはMCしないほうがいいと思ってたよ」と言われて「え、じゃあ言ってよ!」と言ったら、「言ってた」と言われました。

全員:はははは!

工藤:全然記憶に残ってなかったです。「あ、そうなんだ」と言いながら次の日には忘れてたんでしょうね。だから今後はあんまりMCしないかもしれないです。僕が歌うことで見えてくる映像があると思うので、そういう意味では歌ってるときは職人気質なとこが出てたほうがいいのかな(笑)、と思う気がしないでもなくて。

大森:工藤くんは弾き語りをやるようになったから、歌が良くなったなと思って。ポニーキャニオンを離れて、武くんと僕がサポートをやりたいと言っていたころ、彼は弾き語りをやる話をしてて、定期的にやるようになって。そこからかなり歌の表情が変わったなと思います。

高橋:それ俺も思った。すごく大きいと思う。

工藤:僕の声は、張り上げて歌う必要がないんですよね。そういう箇所があってもいいと思うんですけど、聴いていて心地のいい歌としては、僕の声だと重心が低いほうがいいというか。弾き語りはそういうニュアンスやリズムをつけやすいじゃないですか。確かにそこで勉強させてもらったことは多いかもしれないですね。

>>「Anyでないとできない」というものにようやく辿り着いた

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