People In The Boxが最新2作で説く多義的な物語 ――波多野裕文の感性と知性を探る(前編)

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People In The Boxが最新2作で説く多義的な物語
――波多野裕文の感性と知性を探る(前編)

People In The Box
波多野 裕文(Vo/Gt/Key)

取材・文:沖 さやこ
撮影:TAKU(Instagram

 

2015年のPeople In The Boxは、バンド側から大きなうねりを起こしているように見える。1月にZepp DiverCityにて開催されたツアーファイナルで完成していない新曲を披露したり、その翌日に急遽「裏ファイナル」を下北沢SHELTERで開催することを発表したり、47都道府県ツアーを開催したりと、ピープル流の意外性のあるユーモアに驚いてばかりだ。だが最新作2作の『Calm Society』と『Talky Organs』は、驚きを与えられるというよりは、ジャンルを飛び越えて作られた美しく心地よい音のなかから、深い深いシリアスな意志を突き付けられるようでもある。「何十年とバンドを続けていく」――そう語ったPeople In The Boxは一体いま何を考え、何を思い音楽活動を続けているのか? そんな疑問をバンドの中心人物である波多野裕文に訊ねた。筆者も2007年から彼らの音楽に触れてきたが、彼とは今回が初対面。挨拶時に「話すのが苦手で」と笑った彼は、こちらの拙い質問にも、とても優しく真摯に答えてくれた。インタヴュー前・後編でお届けする。

 

People600People In The Box(ピープル・イン・ザ・ボックス)
波多野裕文、山口大吾、福井健太からなる3ピースバンド。2005年結成。2007年6月にミニアルバム『Rabbit Hole』を残響recordよりリリースし全国デビュー。2008年に福井が加入し、現在の編成になる。2009年10月にミニアルバム『Ghost Apple』で日本クラウンよりメジャーデビュー。精力的なリリース&ライヴ活動を続け、2014年8月にはシングル『聖者たち』とフルアルバム『Wall, Window』を2枚同時リリース。【聖者たち】はTVアニメ「東京喰種 トーキョーグール」EDテーマに起用され、バンド史上初のタイアップ曲となった。3ピースの限界にとらわれない、幅広く高い音楽性と、独特の楽曲の世界観で注目を集める孤高のバンド。現在、ライヴ会場限定シングル『Calm Society』を携え、47都道府県を回る「空から降ってくる vol.8 ~正真正銘の全国ツアー!これ以上の全国ツアーってある?ねぇー?ねぇぇぇーーー?編~」を開催中。2015年9月2日にミニアルバム『Talky Organs』をリリースする。
オフィシャルサイトFacebookInstagram

 

◆重要なのは「本当にピープルの音楽を必要としてるひとりがいる」こと

――今年の1月のZepp DiverCityワンマンで、ドラムの山口大吾さんが「これからもみんなを驚かせていく」とおっしゃっていましたが、そのうちのひとつが47都道府県ツアーだと思います。なぜこの大規模なツアーを行おうと?

2年くらい前、ドラムの山口が日常会話くらいで「いつかやりたいね」という話をしていて。それで「2015年どうしようか?」という話をしているときに、「今年はライヴの年にしようか」「だったら(47都道府県ツアーをやるのは)いまがいちばんいいタイミングかもね」という話になって。行ったことない県もあるし……好奇心もあってやってみようと。案外ノリで決めましたね(笑)。

――ははは。ピープルらしいと言えばらしいですね。

いくら全国ツアーと言っても、大きい都市を回る場合は、(お客さんが)県境をまたいで隣の県から来てもらうことになるんですよね。実はバンドが赴いたはずなのに来てもらう、という矛盾があった。だから僕らが(お客さんが)生まれ育ったり、暮らしている街に行くスタンスはすごくいいなと思いましたね。実際すごく喜んでくれてるのがわかったし。

――わたしも静岡県に住んでいたころ、ツアーで静岡がスルーされることが多かったので寂しいなあとも思っていましたし、いまも神奈川県民なので東京には行けますが、やはり横浜に来ていただけるのは代え難い喜びがあります。観客側としてはうれしさしかありませんが、バンド側にリスクはありませんか? 大吾さんがツアーの前にTwitterで「ガラガラの場所もあるんだろうな」とつぶやいてらっしゃいましたけど……。

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People In The Box 波多野 裕文

それが……結構覚悟はしてたんですけど、(ガラガラの場所が)ないんですよね(笑)。もしそういう場所があったとしても、それはリスクだとは思えない。音楽的な充実と利益の話は切り離してます。要するに「“音楽”と“運営”は別である」という考え方ですね。どこでも満員というわけではないですし、最初の数字とか見ると「うわっ!」と思うんですけど(笑)、僕は「○人呼んだから意味がある」という音楽を作っているつもりはないので。本当にピープルの音楽を必要としてるひとりがいる、ということが僕にとっては重要かな。

――そのお話を聞いて安心しました。最近は集客を意識しすぎているアーティストも多いので。

ああ、焦るとそういうことになると思いますし、それはそれで仕方のないことだと思います。音楽と産業がすり替わっちゃってる現実は……もしかしたらだいぶ前からあるのかもしれない。ただそれは産業が危機的だということに過ぎないし、ピープルはそういうところに巻き込まれずにやりたいなって。たとえば(観客が)2、3人だったとしても、ひとりが求めてればそれはすごい収穫なので。とは言っても赤字にならないように(笑)、がんばりたいなとは思いますけどね。

>> ライヴでの演奏が楽しくなくなっていた時期があった

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