People In The Boxが最新2作で説く多義的な物語 ――波多野裕文の感性と知性を探る(後編)

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People In The Boxが最新2作で説く多義的な物語
――波多野裕文の感性と知性を探る(後編)

People In The Box
波多野 裕文(Vo/Gt/Key)

取材・文:沖 さやこ
撮影:TAKU(Instagram

 

People In The Boxのキーマン、波多野裕文へのインタヴュー後編。前編ではバンド活動の話、歌詞の話、そして最新2作である『Calm Society』と『Talky Organs』の関係性に触れた。そしてインタヴュー後編では、音楽の話、芸術の話、知性の話、そして戦争の話に。彼と1時間対話し、謎が多かった彼のことを少し知れた気がする。人生経験が齎した知性は、若さでは成し得ない感性を生むのだ。People In The Boxの作る芸術は、常にそれを更新している。

・インタヴュー前編
People In The Boxが最新2作で説く多義的な物語 ――波多野裕文の感性と知性を探る(前編)

 

◆「思想」をごっそり抜いたとしても成立するものが「物語」

『Citizen Soul』(2012年)


――『Calm Society』と『Talky Organs』は、やっぱりプロテストソングだと思うんです。さきほど(※インタヴュー前編)波多野さんのおっしゃった、2作で描いている「たまご」は「世界」や「戦争」なのではないかと。過去にも『Citizen Soul』(2012年1月、ミニアルバム)の【ニムロッド】や『Ave Materia』の【みんな春を売った】など、そういう曲はあったけれど、今回はそれよりも如実というか。波多野さんは「歌詞をメッセージにしたくない」とおっしゃってはいるけれど、歌詞をメッセージにしていないだけで、波多野さんが伝えたいメッセージがとても強いというのが前提のうえの歌詞というか。

……そうですね。その通りだと思います。そういうことですね。

――『Citizen Soul』や『Ave Materia』は、【球体】のようにユーモラスなサウンドの曲も多かったので、「戦争」を歌っていてもそこが薄れる要素があったのですが、『Talky Organs』に関して言うと美しさやシリアスさが優っていて、心地よくはあるけれど、うきうきするサウンドではないと思うので……。

ふふふふ(笑)。

――それもあって、音と歌詞が同じ物語を描いているような気がしたんですよね。だから波多野さんの歌詞の物語に秘めたメッセージがいつもより伝わってくるのではと。

ああ、なるほど。音と歌詞が同じ物語を描いているというのは、僕の成長かもしれないですね。まあ……ね。戦争ですよね。戦争なんですよ、要するに。ただ、戦争というのがどういうものなのかは、僕らは想像するしかないわけですよね。

――そうですね。

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People In The Box 波多野 裕文

戦争というものへの先入観はあるけれど、それを言葉にしたときの空疎さがすごくあって。誤解を恐れずに言えば……「戦争反対」という言葉は、真に迫っていない感じがする。「なぜ反対なのか?」という奥行きがない字面。その時点で「戦争反対」という言葉は、僕にはパワーがないんですよ。感動しない。だとしたらその言葉の代わりに何を言うか? その言葉を使わずにどうやってその意味を表現するか?――僕は音楽含め、すべての芸術はそのためにあると思ってるんです。

――うんうん。確かに。

どれだけ「愛」という言葉を使わずに、どれだけ「世界」と言わずに、それを表現するか。だから今回も、それに忠実にやったつもりではあります。そういう意味で、本当に根源的ではあって。「僕には世界がこう見えています」というものではあるんです。でもだからといって、僕の思想を押し付けるようなものには絶対にしたくなかった。僕の思想は僕の思想にすぎないので。そういう「思想」というものをごっそり抜いたとしても成立する――僕はそれが「物語」だと思っていて。

――ああ、なるほど。波多野さんがTwitterでつぶやいてらした「メッセージにはしたくない。物語にしたい。でもストーリー、筋書きじゃない」はそういうことなんですね。ちゃんとわかりました。

……僕、『ハーメルンの笛吹き男』の話がすごく好きで。あれからいろんな教訓を立ち上げようと思えばいくらでも立ち上げられるんだけれど、あの話は言ってしまえば「笛吹き男が子どもを連れていった」ってだけ、でしょう?

――ああ、そう……か(笑)。

ふふふふ(笑)。「絵」としての美しさと、そこからどんな物語を受け取ることができるか――そういう「多義性」が「物語」だと思ってるんです。僕はそういうことがしたいなあ、と思ってるんですよね。フォークソングみたいにコードに自分の主張を乗せることも、全然良いんです。ただ僕は「それが音楽でなくてはならない」という状態が、すごく美しいと思っているので、そこを目指して作った……という感じですね。

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>> 僕にとっての「野蛮」の対となる概念は「知性」

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