ONE TONGUE AWARDS 2015

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ONE TONGUE AWARDS 2015
福島 大祐による2015年考察、
年間ベスト・アルバム&アーティスト

「ナンバー1にならなくてもいい」と歌う曲が多くの人からの支持を集めるように、「人やモノを勝手に順位づけるなんて!」とつい思っちゃいますよね。なので、よく聴いた順+思い入れで10枚選んでみました。わ、わざわざこんなこと言うのは責任逃れや保身じゃないんだからねっ!!

 

10位:大塚愛『LOVE TRiCKY』

大塚 愛 ai otsuka / 『LOVE TRiCKY』MUSIC CLIPS
既存のイメージをぶっ壊すまさかのエレクトロ。しかし、いくつか目にしたインタビューでは「デビュー当時からこういう音楽をしたかったけどできなかった」「どうせ売れないんだから今は好きな音楽をやろう」といったコメントも飛び出しており、良い意味で解き放たれたようです。いいぞ大塚愛! もっとやれ! それにしても、結婚~出産での休止期間にここまで存在感が薄くなってしまうのかと驚きを隠せません。彼女の公式Twitterのフォロワー数はたったの約3万人。一方、お知らせばかりの西野カナ公式Twitterは約49万人。「もう一回!」とレスポンスしていた人たちはいずこへ……。従来の路線から大きく舵を切ったこのアルバム、アリですよ。

 

9位:ZEDD『True Colors』

Zedd – True Colors (Empire State Building)
昨年もっとも聴いた“EDM大賞”がAviciiの『True』なら、今年はこの作品でした。ただバキバキなだけでない、美麗でメロディアスなトラックはどれも聴き心地が良く、ヘッドフォンで流しながら街を闊歩すれば「なんだかオシャレな気分……! 今なら15,000円ぐらいするTシャツを1枚1枚大事そうに陳列しているようなセレクトショップにも、何食わぬ顔で入店できそう!」と高揚してしまいます。ちなみにこのアルバム、4月にリリースされたINKTのミニアルバムとCDジャケットがなんだか似ています(参照/https://inkt.asia/pc/discography/)。サマソニでの来日が記憶に新しいですが、1月にはツアーで再び来日を果たす彼。幕張メッセにインテックス大阪と、EDMアーティストとしては相当大規模な会場です。ダンス・ミュージックのフェスであるULTRA JAPANが今年3日間で9万人を動員するなどその隆盛をまざまざと見せつけましたが、リア充志向なパーリーピーポーともZEDDは相性抜群のはず。しかもイケメン。来日公演にはモデルやインスタ女子が多く足を運びそう。

 

8位:坂本真綾『FOLLOW ME UP』

坂本真綾「Be mine!」Music Video
前作『シンガーソングライター』からの新参リスナーですが、インタビューの機会をきっかけにじっくり聴いた9thアルバム。声優や舞台のイメージも強いですが、歌手としてもキャリア20年になります。1996年デビューの同期がELT、PUFFY、TMR、SPEEDと考えればどれだけ長い活動なのかイメージしやすいでしょう。自分にとっての柴田淳もそうですが、こういったロー・カロリーな歌声、楽曲を聴きたい時の気分にピッタリなんです。音楽雑誌やこういった年間ベストからは冷遇されがちですが、コーネリアスや坂本慎太郎が楽曲提供していたりと(音楽通は好きな2組でしょ?)、ミュージシャンとしての評価も上昇しているようです。

 

7位:DAOKO『DAOKO』

DAOKO 『水星』 Music Video[HD]
吐息交じりの無垢な歌声は、ラップにアレルギーがある人も思わず耳を傾けてしまうはず。気だるそうに「嫌いなあの子が 死体になっちゃっても だれも気にしないんだろうなあ」なんて、ドキッとするようなこと歌うんですよ。2015年は自身の素顔を公表し、ライヴで人前に立つこともついに解禁。アングラ、サブカル界隈からの注目を集めていた彼女がメジャーらしくこれからマスに訴えていくのか、その動向を追いたいと思います。

 

6位:Base Ball Bear『C2』

Base Ball Bear – 不思議な夜
「大喜利みたいなEveryday 発信したくて仕方ない」から始まる1曲目の【「それって、for 誰?」part.1】に代表されるようにSNS全盛の現代を揶揄したり、皮肉や批評満載の意欲作。歌詞カードをちゃんと読んでみると意外なダブルミーニングになっていたりと、ディグり甲斐のある音楽業界人好みの1枚ではないでしょうか。2014年には岡村靖幸とコラボしたり、本作に収録されている【文化祭の夜】もそうですがファンク色が濃くなっているのも特徴で、よく冠として付く「ギターロック」の幅を広げながら、同時に深度を増していっている印象。フェスなどでの観客の安易な同調ノリを「気持ち悪い」と異を唱えるVo.小出氏ですが、ラストに収録されている【「それって、for 誰?」part.2】では「砂漠に水を撒こう 渇くとわかってても プールに混ぜるのはごめんだ」、「それでも、それでも、それでも、砂漠に水たまりは出来るはず」と、諦観と希望を同時に放つ歌詞からは意地や執念すら感じられます。頭の回転の早さや語彙力、語りの切り口の面白さなど、論客としても彼には注目しているのです。

 

5位:乃木坂46『透明な色』

乃木坂46 『他の星から』Short Ver.
1stアルバムと言うよりベストのような作りなので入れようか悩みましたが、ええい入れてしまえ。今年ついに初動セールスでのミリオン記録が途切れたAKBや、その他姉妹グループと比べても唯一年々右肩上がりで売上を伸ばしており、人気の面ではもはやAKBと互角と評しても過言ではないでしょう。ドキュメンタリー映画も楽曲同様シリアス重視で、出色の出来でした。終電後の乃木坂駅構内で撮影された本作のCDジャケットもそうですが、デザイン誌の『MdN』が度々特集を組み、ついには乃木坂のみの別冊を作ってしまうほどアートワークのレベルが高く、衣装やMVまでコンセプチュアルで優れたスタッフに囲まれているんだなということが伝わってきます。まずは入門編に最適なこのアルバムからどうぞ。

 

4位:凛として時雨『es or s』

凛として時雨 『SOSOS』
アルバム全部持っているので出来云々を気にせずに毎回購入しますが、それが惰性にならないのはオンリーワンの中毒性が健在だから。メンバー個々の活動が活発なせいか久しぶりのミニアルバムという形態でしたが、どこを切り取っても“凛として時雨”印が押された充実盤。それだけに今後どのような楽曲を生み出していくのか、この3人で奏でる限りなにをしても時雨の軸がブレることはないと思われるので、思い切った変革を見てみたい気も。多くのフォロワーが生まれていますが、大好きなバンドなだけに改めて後続を突き放す絶対的存在感を2016年以降は期待したいです。

 

3位:きのこ帝国『猫とアレルギー』

きのこ帝国 – 桜が咲く前に
これまでの轟音ファズサウンドの延長を期待していたためか、「ポップになった」という残念そうな声がリリース後に多く聞こえたメジャーデビュー盤。たしかにカワユイ猫が登場するピンク色のCDジャケットはちょっとあざといし、MVも作られているアルバムのリードトラック【猫とアレルギー】、【怪獣の腕のなか】などは雑味が抜けてまろやかな印象です。「インディーズではダークで陰鬱な世界観を見せつけていたPIERROTが、メジャーに進出した途端、キラキラポップなデビュー曲『クリア・スカイ』を出してきた時のような感じか!?」と、なかなか本作に食指が伸びなかったのですが、いざ全体を聴いてみるとそんなことはない。“ファズ歌謡”と形容したい【スカルプチャー】は新機軸だと思いましたし、なによりデビューシングル【桜が咲く前に】の素晴らしさよ! アルバムver.はイントロに鍵盤が足されていて、「なんじゃこのユーミンの『春よ、来い』を彷彿とさせる名イントロは……!」と、刹那さを消せやしない(T-BOLAN)ほどの衝撃を受けたものです。デビュー曲を桜ソングにしてくる辺りから本気度が感じられましたが、オリコン初登場57位。もう少し結果に結びつかないと創作活動に支障が出てきちゃいそうな危惧すら勝手におぼえます。

 

2位:ぼくのりりっくのぼうよみ『hollow world』

ぼくのりりっくのぼうよみ – 「sub/objective」ミュージックビデオ
音楽性はまったく異なりますが、RADWIMPSが世に出てきた時のような「ガツン!」とくるものがありました。「天才高校生」なんて呼ばれているのでなんぼのもんじゃいと思っていたんですが、参った、こりゃ凄い。トラックは自作していないそうなのでパーソナルな部分は歌詞のみに凝縮されています。公開されたWebでのインタビューを読んでいると今時の若者らしくガツガツ感はあまりなく、いわゆるさとり世代な達観した雰囲気が感じられましたが、音楽的な感性がどのように育まれたのか、とても興味深いです。メロウな雰囲気は前述のDAOKOにも通ずる部分があり、「YO!」ではない歌モノラップはとてもクール。個人的注目美女ベスト20(発表する機会ない)にランクインしている10代のカリスマ・池田エライザがMVに登場するセンスの良さも◎。

 

1位:indigo la End『幸せが溢れたら』

indigo la End 「夜汽車は走る」
アルバムまでにリリースされたシングルがどれもホームランで、CDの発売を楽しみに待って買いに行ったという行為もなんだか久々だったんですが、期待に応える粒揃いのアルバムでした。切なさ果汁がどの曲も100%絞られていて、その部分でゲスの極み乙女。と差別化できているのが素晴らしいと思うんです。同じヴォーカルなのにこうもゲスと声の表情が変わって聴こえるものなんですね。the pillowsとTHE PREDATORSのように「そんなに変わらないやん」感がないところが特にあっいや、なんでもないです。初回盤は2300円と格安でしたし、多くの人に訴求してインディゴの地位をホール・クラスに押し上げたアルバムだったのでは。このアルバムリリース後の曲ですが、シングル『悲しくなる前に』のカップリングに収録されている【夏夜のマジック】は2015年最高の夏ソングと呼びたい。

 

以上10作品でした。最後に簡単に総括を。2015年は有料ストリーミングサービスが複数誕生するなど、とにかく近年音楽に触れるハードルが低くなっていると思うんですね。リスナーに優しいその良し悪しは様々ですが、消費のスピードがあまりに早すぎることが気になっています。30代の自分としてはライフスタイルの変化もあって若い頃のように1枚のCDをじっくりと聴くなんてことが年々難しくなってきていて、音楽との寄り添い方について考えているんですが、「いつでも気軽にアクセスできる」という環境がかえって「音楽とだけ向き合う時間」というものを奪ってしまっているのではないでしょうか。だからこそ、強制的に音楽漬けになれる全国各地のフェスがこれだけ熱を帯びていますし、ネットやケータイ、その他多数のエンタメを相手に今後どう音楽が“余暇の奪い合い”を戦っていくのか、いまだ活路は見いだせていません。

しかし、そんな過渡期だからこそぼくのりりっくのぼうよみやDAOKOのような突然変異的傑物が現れますし、今もどこかで眠れる才能が刃を磨いていることでしょう。WANIMAや04 Limited Sazabysのようにメロコア、パンク勢の復権も見られ始め、ONE OK ROCK、MAN WITH A MISSION、SEKAI NO OWARI、SCANDALなど世界を相手に勝負するミュージシャンも現れています。不満や抑圧があるからこそカウンターは発生しますし、その沸々としたマグマが爆発する瞬間を見逃さないよう、あくまで面白おかしくな目線で見つめていきたいなと思います。個人的にはそろそろヴィジュアル系の若手の躍進も期待したいのですが、なかなか芽が出てきません。2015年は懐かしの古豪が次々V系ゾンビと化して人知れず墓場から蘇りました。LUNA SEAが主催したLUNATIC FEST.はV系レジェンドと人気ロックバンドが一堂に会し大盛況。2016年3月にはX JAPANが20年ぶりのニューアルバムを発売するなど、元気がいいのは大御所ばかり。MEJIBRAYやアルルカンなどの注目株がひと皮剥けるといいな。

 

では、最後に私的ベストアーティストを発表して終わりです!

ベストアーティスト2015:ゲスの極み乙女。

【SUN】で市民権を鷲づかみにした星野源と悩んだんですが、個人的に2015年愛聴したのはこのバンドでした。セカオワやサカナクション同様、“計画的にお茶の間にアプローチし、売れるべくして売れた”感のある彼らですが、そこに嫌らしさを感じさせないのは親しみやすいキャラクターと、一転してトリッキーなのにとっつきやすい楽曲のクオリティがなせる業。特に、なんと言ってもフロントマンの川谷絵音ですよね。ゲス、インディゴと2つのバンドを高レベルで稼働させながら、他アーティストに楽曲提供したり、THE BED ROOM TAPEの楽曲にヴォーカリストとして参加したりと、野球界で言う投手&野手と二足のわらじを履く怪物・大谷翔平のような活躍っぷり。発売が待たれる集大成のニューアルバム『両成敗』でさらにブレイクスルーし、多くのバンドに希望を与えてほしいなあ。(福島 大祐 )

>>ONE TONGUE MAGAZINEの2015年を振り返る
>>ONE TONGUE AWARDS 2015(沖 さやこ 篇)
>>ONE TONGUE AWARDS 2015(沖 丈介 篇)

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