Brian the Sun-2016.3.1 at 新代田FEVER

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CQ9A9069Brian the Sun
マタタビ ツアー 2015➡2016
2016.3.1 at 新代田FEVER
w/ザ・チャレンジ

音楽家としての意識を高めたメジャーシーンへの道程

取材・文:沖 さやこ
撮影:Mami Naito

 

世間の“アーティスト”と呼ばれる人々に「あなたはなぜ音楽をしているのですか?」と問うたとして、その答えは多岐に渡るだろう。自分自身の心を慰めるため、励ますため、奮起させるため。楽器を演奏するため、歌うため、メッセージを届けるため。聴き手を喜ばせるため、賞賛を得るため、大きなステージに立つため……もしかしたら理由もなく音楽をしているひともいるかもしれない。

わたしが尊敬してやまないとある音楽家がこんなことを言っていた。「ライブに足を運んでくれる方々を尊敬する。だから僕はお客さんのためには演奏しない。まずは音楽のために演奏する。そこに音楽を立ち上げることに尽力する。それが僕の姿勢である。お客さんが僕らの音楽を選択してくれた意思が、僕らの燃料になっているとすれば、その矛先はすべて音楽であるべきだ」(※引用元リンク)――わたしはこの言葉がとても好きだ。なぜならば、音楽家が音楽のために音楽をすることは当たり前のことであり健全なことで、加えてその当たり前を成し遂げる音楽家が少ないからだ。サービス精神が旺盛なのも結構だが、「あなたの職業はサービス業だろうか?」と言いたくなるアーティストが散見する。リスナーの求めるものを提示し、シンガロングやクラップで一体感を作り出し、リスナーを癒し笑わせ踊らせる。それはエンタテインメントかもしれないが、果たして「音楽」なのだろうか?

最新作『シュレディンガーの猫』を携え、2015年11月からスタートしたBrian the Sunの全国ツアー。初日のShibuya O-WEST公演で彼らはメジャーデビューを発表した。インディーズからメジャーへ向かう道程とも言えるツアーで、Brian the Sunは新たなフェーズへと突入していた。セミファイナルの新代田FEVER公演、SEとともにステージに登場した森 良太の佇まいと眼光でそれは一目瞭然だった。満員のフロアの前に立った彼らはただただ「音楽」と向き合っていたのだ。

Brian the Sunはこのツアーで多くの先輩バンドをゲストに招いている。この日のゲストはザ・チャレンジ。ヴォーカルの沢田チャレンジが開演前に満員のフロアの前に姿を現すと、「距離を詰めるために」と急遽前説を始めた。ザ・チャレンジの出演が発表される前にこのライヴのチケットはほぼソールドアウトしており、この会場にはBrian the Sunのファンがほとんどだということを考慮してのことだった。Brian the Sunのファンも歓迎ムードだ。ザチャレのライヴは1曲目からいきなりキラーチューンの【お願いミュージック】。彼らのライヴを観るたびに思うが、やはりさすがの演奏力である。太い安定感としなやかな躍動感で魅了するリズム隊の作るダンスビートの上で翻弄されるのみだ。特にBrian the Sunの【神曲】を1フレーズ演奏してから90年代前半のJ-POPが持つ独特のロマンをふんだんに入れた【マイガール】への流れは果敢無く刹那的で、きらめいていた。

IMG_7924ザチャレが陽のエネルギーで魅了したとしたら、Brian the Sunは間違いなく陰。それは陰鬱という意味ではなく“陰(かげ)”である。音を鳴らす前から、いままでの4人の空気とは違う、清廉な緊張感が漂っていた。これまでの良太はいつもどこか照れた様子を隠しながらステージに登場していたが、この日はそんな様子は一切なく、どことなくアンニュイな表情のなかで凛と輝く彼の黒い瞳は静かに笑っていた。簡単に言えば、色気がある。それも背伸びではない。ふわふわとしていた未来へのヴィジョンが、メジャーデビューという環境の変化も相まって鮮明に浮かび上がったのだろうか。3ヶ月前とは比べものにならないくらい彼らはしっかりと大人になっていたのだ。

【都会の泉】は4人の出音すべてに迫力があり、まさしく攻めの姿勢。アウトロの迫力はなかなかのものだった。間髪入れずに【彼女はゼロフィリア】へつなげる。密かに巧みに楽曲をドライヴする白山治輝のベースも見事だ。Brian the Sunの演奏は良太と小川真司の2本のギターが織り成すスリリングなデッドヒートも聴きどころだが、それがクールに決まるのも、一歩ひいてうわものを支える治輝のベースと田中駿汰のドラムスあってこそ。リズム隊が瞬時にうわもののテンションをキャッチし、自分たちのアプローチを変えていく。この連携がBrian the Sunの演奏面の要とも言えよう。

IMG_7862良太が静かでありつつもご機嫌な口調で「ありがとう」と言うと【half cab】。どことなく愛想なしだが、それが独特のムードを生んでいた。ブレイクポイントで良太が観客に語り掛けて笑わせたり、間奏にメンバー紹介を盛り込んだりと、観客を楽しませる要素もあるのだが、キャッチーさとは違う。気だるさと殺気が同居した彼の態度に、デビュー時のARCTIC MONKEYSに近いものを感じた。ギターの残響にドラムソロが重なり披露された【早鐘】は、演奏力が格段に上がったことで、音源にはないダイナミズムと肉感が生まれていた。これぞ踊りだしたくなる音である。

「最近歌うことにしか興味なくて。お客さんのこと煽ったりすることに興味がないんです。いい歌うたいたい――最近それが俺のメイントピックス」と言いながら笑う良太の目は凛々しい。Brian the Sunはこれまで、日本のバンドシーンというものから抜け出そうとしていた印象がある。だがこの日の彼らが見つめていたのはバンドシーンではなく「音楽」だったのだ。だからこそバンドシーンというものを蹴散らすようなパワーがあった。これまでにないくらい堂々としている。自分たちの音楽という武器でもって戦っていく決意が固まった印象だ。聴き手に自分たちの音楽を最上の状態で届ける、4人全員がそこに尽力している。ギターソロを弾く真司の姿を見て小さく笑う良太の表情にも、バンドの強い信頼関係が垣間見れた。【同じ夢】は音源より少しテンポがスロウで、それがバンドをさらに大きく見せていた。良太は隣にいる人に話しかけるように歌をうたう。【神曲】も地に足のついた音像で魅了し、迷いのない透き通った音が観客の身体に溶けていくようだった。

IMG_2204本編ラストの演奏前、良太が口を開いた。「今回のツアーはタイミング的にインディーズtoメジャーということもあって、得るものが多かった。それについて多くは語りませんが、前からライヴに来てくれてた人たちは、(Brian the Sunが)いままでとは違う感じ、わかるっしょ?」ギターを爪弾きながらそう言うと、「ふらふらははしてません。間違いは犯しませんので。我々の音楽を信じてください」と続け、【虹】を届けた。彼らの音は言葉よりも想いを強く語る。それでこそ音楽家だ。

アンコールで治輝が2014年にリリースしたセルフタイトルのフルアルバム『Brian the Sun』について触れた。あのアルバムはBrian the Sunが新しいことにチャレンジした作品で、あの作品を作ったことで彼は「何をやってもBrian the Sunになる」とすごく自信がついたと語る。「メジャーに行っても変わらないでと言われたりもするけど……。俺たちのやりたいことをやれば、俺たちの音楽やから。俺たちは俺たちなりにやっていくんで、安心してください」と呼びかけた。それを受けて良太も口を開く。「(ライヴ終わりに)お客さんの手ェ挙がらんかったな~……とか思ってた時期もありました。でもいまは(観客の)ひとりひとりの顔を見たらどれくらい聴いてくれてるかがわかるんですよ」「音楽をちゃんとやって、それに対して“おお!”と思って(感動して)くれるみんながおる、ということを(自分たちが)わかっていることがほんまに幸せです」彼がそう言って披露された【白い部屋】は、感謝の心が通った優しく包み込む音だった。そこには“俺らについてこい”と言いたげな頼もしさもあり、その大人びた表情も含めて愛おしくなった。

IMG_2112_2この日の彼らのライヴは恋愛や親愛のような、1対1の深いコミュニケーションと似ていた。楽曲の持っている精神性が、ようやくライヴにも反映されてきたのかもしれない。良太が「言葉で伝えるとキリがないので、あっさり歌って帰ります」と笑顔で告げ、ラストは【ロックンロールポップギャング】。大人になった彼らには初期衝動の匂いや純粋な気持ちが煌いていた。Brian the Sun、メジャーデビューという大きな転機をきっかけに大成長している。彼らはもっと素晴らしい音楽家になる――この日、予感が確信に変わった。

 

Brian the Sun「シュレディンガーの猫」リリースツアー
『マタタビ ツアー 2015➡2016』

■ 2015年11月25日(水) @渋谷 TSUTAYA O-WEST
w/ 東京カランコロン、忘れらんねえよ

■ 2015年12月11日(金) @高松 DIME
w/ uchuu,、コンテンポラリーな生活、絶景クジラ

■ 2015年12月20日(日) @福岡 Queblick
w/ ジラフポット

■ 2016年2月10日(水) @札幌 SPIRITUAL LOUNGE
w/ uchuu,、TRASH AUDIO

■ 2016年2月12日(金) @仙台 enn 3rd
w/ uchuu,、LAMP IN TERREN

■ 2016年2月20日(土) @新潟 CLUB RIVERST
w/ 赤色のグリッター、LAMP IN TERREN

■ 2016年2月26日(金) @名古屋 APOLLO BASE
w/ 赤色のグリッター、LILI LIMIT

■ 2016年2月28日(日) @広島 4.14
w/ 赤色のグリッター、LILI LIMIT

■ 2016年3月1日(火) @新代田 FEVER
w/ ザ・チャレンジ

■ 2016年3月4日(金) @阿倍野 ROCK TOWN
w/ アンテナ

■ 2016年3月5日(土) @阿倍野 ROCK TOWN
w/ LONE

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Brian the Sun official website
Brian the Sun official Twitter

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